第373話 愛理さん!? みんなになにをしたんだな!
「どうしてリッキー」
そして、力也に非難を向けるのは彼だけじゃない。
「応援してくれるって言ったじゃん、なんで邪魔するの?」
愛する人から責められる。それは鋭利な刃物で切られるように痛い。だけど力也は耐える。
「吉岡君。君を好きになった人がここ最近たくさんいるんだな」
「だったらなんだよ」
「君は、もしかしたら悪魔召喚師なんじゃないかな?」
「なに?」
彼の顔が激しく歪む。
「お前なに言ってんだ? 悪魔召喚師? なんだそれ」
次に笑い出した。疑うにしても意味不明な言いがかりだ。とんだ妄言だと笑い飛ばしている。
「意味わかんね。そんなわけねえだろ。それに俺が悪魔召喚師だったらなんでこんなことしてる? 女口説いてないで生け贄刈ってるだろうが」
その一言に力也の目がわずかに見開く。
「なんで……悪魔召喚師が生け贄を捧げなくちゃならないって知ってるんだな?」
「……ち」
瞬間だった。教室が急激に老朽化していき窓から差し込む光が深紅に染まる。
赤い世界、リンボに変わっていた。
「やはり、悪魔召喚師!」
「なにこれ?」
周りの景色が一変する。それもぼろぼろの教室になっているのだ。愛理は驚き吉岡に抱きついている。
「ねえ、なにこれ? いったいなにが起きてるの?」
「うるせえな」
その願いを、愛とは似ても似つかない態度で応じる。
「おい、こいつを黙らせろ」
その目はすでに彼女を見ていない。その口すら彼女ではなく別の者に向けられている。
「ラブオリット」
その声に虚空から返事がきた。
「了解」
吉岡の背後、黒い霧の中から影が現れる。
それは黒い帽子をかぶった操り人形使いだった。顔は陰になっていて見えないが赤い二つの目が浮かんでいる。黒いマントからは白い大きな手袋をはめた両手が飛び出し指先から糸が垂れている。下半身はなくマントが宙に浮いている形だ。
ラブオリットと呼ばれた悪魔は指先を動かす。まるで見えないピアノでも弾くような動きのあと愛理の意識は途切れ吉岡にもたれ掛かった。
「愛理さん!」
「そういえば言ってたな、ボーナス対象ってお前のことだったのかよ」
愛理を片手で支え吉岡が不敵に笑う。ここはすでにリンボの中、正体を隠す必要もなくなった吉岡には自身を隠す素振りもない。
「愛理さんを放すんだな!」
「言われてするわけねえだろ」
吉岡は片手を前に突き出す。
「俺はライフを十払い、現れろ!」
言葉の後吉岡の周囲に赤い魔法陣が十個も現れる。そこから召喚される翼を持つ小人のような黒い悪魔たち。吉岡は愛理を抱えたまま窓を突き破り悪魔に捕まって校庭へと逃げていく。
「待て!」
すぐに追いかけようとするが残りの悪魔が一斉に襲いかかってくる。狭い教室、九体の悪魔は多勢に無勢。
だが彼もセブスソードを戦い抜いた剣士の一人。
「来るんだな、スパーダ」
悪魔召喚師が悪魔を召喚するように、力也もまた己の武器を出現させる。
「グラン!」
伸ばした手の先に現れる光から緑の大剣を掴み取る。力也のスパーダであり力を司る大剣を構え、力也は念じる。
「斥力!」
物を引き離す力。それにより襲いかかってきた悪魔は教室の後ろまで吹き飛ばされた。
斥力も力。だがそれだけではない。斥力と対極を成すのもまた力。
「引力」
力也は一体の悪魔を引き寄せそのままグランで一刀した。巨大な刃が悪魔を両断し灰となって消えていく。力也は悪魔たちがまだ起き上がらない隙に吉岡と同じ窓から飛び出した。
三階立ての校舎から飛び降りみるみると地面が近づいていく。激突する直前、重力を弱めきれいに着地する。
「愛理さーん!」
校庭に向かって走る。中央には吉岡が立っており彼を庇うように愛理も立っていた。
だがそこにいたのは愛理だけではない。愛理と同じ女子生徒が数人、横一列に並び力也に立ちふさがる。みな一様に意識がないのか目は開いているのにぼうとしている。
「愛理さん!? みんなになにをしたんだな!」
名前を呼んでも反応はない。みなあの悪魔に操られているようだ。
「見ての通りだよ。俺の悪魔は人の意識や感情を操れるんだ。こいつのおかげでいい思いができたぜ」
吉岡は愛理に近づき髪を梳く。顔を近づけるが愛理は抵抗しない。
「なんたってどんな女もくどき放題だからな。サイコーだぜ。デビルズ・ワンなんて知ったことか。俺はこいつの能力だけで十分だ」
「そんなの許されないんだな!」
「許されないって誰にだよ。そんなのいねえ、やりたい放題さ」
「なら僕が許さない」
「へえ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます