第371話 あー、個人的ニュース? ある?
力也は苦笑した。力也としても残念な気持ちが一切ないと言えば嘘になる。だけど彼女が別の人を好きになったのなら仕方がないと割り切るだけだ。
これが優しさなのか、妥協が上手いだけなのか、それは分からないけれど。
これでいい。力也はそう思えた。
「そういうことなら分かったよ」
星都は缶ジュースを一気に飲み干し立ち上がった。
「お前は今日先に帰ってろ。あとは俺一人で進めておくよ」
「そんなのいいよ」
「いいから」
力也も立ち上がるのだが星都は制した。優しく微笑み力也を促す。
「こういう時くらいゆっくりしな。安心しろ、なにかあったらマッハで逃げるからよ」
「ははは」
星都が逃げに徹したら追いかけることなんて不可能だろう。その後ろ向きに前向きな姿勢がおもしろくて力也からも笑みがこぼれる。
「うん……ありがと。じゃあそうさせてもらおうかな」
「いいってことさ」
友人一人に押しつける形になってしまうのは申し訳ないが正直落ち込んでいるのも事実だ。ここは言葉に甘えることにする。
力也は缶を小さく持ち上げた。
「ジュース、ありがとうね」
「おう」
そうして力也は校門へと歩いていった。その背中を星都は見送る。
「そっかぁ……」
その後ろ姿に感慨深くつぶやく。
いつものんびりとしていて、体は大きいのに気は小さい。人の後ろに隠れることが多くて色恋沙汰なんて一つも聞いたことがなった。そんな彼が人を好きになった。そして失恋した。これが成長するということなのか。時間の流れを感じてしまう。
「いかんいかん、俺もすることしねえと」
だがいつまでも浸っているわけにはいかない。気を切り替えねば。
星都は校舎に戻っていった。ホームルームが終わってもまだまだ生徒は残っている。今日は一人だが親友の分まで頑張って聞き込みをしなくてはならない。
「あのー、すみません」
まずは廊下で談笑していた二人組の女の子に声を掛けてみる。二人とも初対面だ。だが星都は明るい口調で話しかけ緊張している素振りはない。
「実は聞きたいことがあってさ、最近身近で変わったこととかないかな? あったら教えて欲しいんだ。ほら、バラエティで個人的ニュースを紹介するコーナーってあるじゃん? それと同じでそういうのを集めててさ、よければ教えて欲しいんだよね」
力也ではなかなか出来ないことを当たり前のようにしてのけるのはさすがだ。
「あー、個人的ニュース? ある?」
「どうだろ」
「なんでもいいんだよ、いつもと違うこととか、なにか違和感みたいな」
「違和感……」
女の子が考えている。
「そういえば」
「ん? なになに?」
なにか心当たりがあるみたいだ。とはいえ物騒なことや事件なんかではなく、
「私の友達に好きな人ができたんだけど」
「へえ、よかったじゃない?」
「それがさー、その人軟派らしいんだよね」
「えー、やだー」
「でさ、私の友達も前までその人のこと好きじゃないって言ってたのに今じゃぞっこんでさ」
「なにそれー」
「えー、こんなに変わるー、って思ったね」
でもその人顔はいいんだよねと続きやっぱり顔かあと二人は笑ったいた。
だがその話に引っかかるものがある星都の顔は強ばってく。
「ねえ、その好きな人ってさ、名前って分かるかな?」
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