第13話 図書室
今まさに俺たちはセブンスソードという危機に直面しているっていうのに、はしゃいでいる場合じゃないんだぞ。
「ふふ」
と思っていると、俺の隣にいた沙城さんが小さく笑っていた。
「皆森君と織田君って面白いね」
「星都はお調子者で力也はマイペースなんだよ。もっと危機感持たないのか」
「そうだね。でもリラックスしてるのはいいことだよ、不安ばかりじゃ気の方がさきにまいっちゃうだろうし」
「それは、まあ」
ある程度の緊張感は持っていなければならないが彼女の言うことも正しい。ここに来てから最初の十分は緊張で息苦しいほどだったからな。それを思えばちょっとの冗談くらい言える方がいいか。
沙城さんは、そういう周りのことも見ているんだな。
「ほれ聖治、次はお前だぜ」
「おう」
パーシヴァルに目を落とす。沙城さんや星都、力也の能力は分かった。残るのは俺だけだ。
いったいどんな能力なんだろうか? いざ自分の番になると緊張とわずかな興奮を覚える。これで俺の未来が決まると言っても過言じゃないんだ。
息を深く吐き、集中した。
「神剣」
俺の力、俺のスパーダ。応えてくれ。
「パーシヴァル!」
念じる。
するとパーシヴァルの刀身が光った。俺の願いに応えるように発光し、能力を発動した。
「…………」
俺だけでなく、ここにいる三人もなにが起きるのか固唾を飲んで見守っている。
俺は能力を発動した。
したんだが。
パーシヴァルを顔の前に持ってくる。
「…………?」
パーシヴァルを見る。なにか変わったところがないか探してみるがどこにもそれらしきものはない。次に周囲を見渡してみるが唖然としている三人が俺を見ているだけだ。
「なあ、どうした? 発動したんじゃなかったのか?」
「いや」
聞かれて反射的に答えるが、次の言葉が出てこない。
「…………」
「どうした?」
「その、ちゃんと発動したんだ」
「発動した?」
「でもぉ」
星都と力也が周囲を見る。
分かってる。能力を発動したのに、なにも起きていないんだ。
「どうして?」
パーシヴァルを見るがなんでかは分からない。なんで? まさか不具合か?
「聖治君、落ち着いて」
沙城さんが俺の手に手を重ねてきた。
「もしかしたら条件が必要なのかもしれないし」
「条件? この大変な時にか?」
殺されるかもしれないって時に悠長に条件なんて揃えなきゃならないのか?
「聖治」
それで星都に声を掛けられた。
「ごめん」
「ううん、気にしないで。私はぜんぜん」
彼女はこう言ってくれるけど、気を付けないとな。焦って八つ当たりみたいになってしまった。
「無理もないよ。いずれどんな能力なのか分かる時が来るよ」
「沙城さんは、この能力は分からないのか?」
「エンデゥラスとグランは察しはついていたんだけどね、パーシヴァルに関しては」
「そうか」
俺は落ち込んでいた顔を上げると、前には星都と力也が立っていた。
星都が俺の肩に手を置く。
「心配すんな。いざって時は俺がおぶってでも走ってやるよ」
星都が言った後、力也も俺の肩に手を当ててきた。
「なにがあっても、僕たちは一緒だよぉ」
二人の顔が前にある。
途端に視界がぼやけ、二人の顔が見えなくなってくる。
俺は下を向いてパーシヴァルを消す。そして二人の手に自分の手を重ねた。
「……ありがとう、二人とも」
スパーダというのは確かに強力な武器なのかもしれない。
でも、俺にはこの二人の方がよっぽど心強かった。それは俺の能力が分からないとか関係なくて。なにより二人との結びつきの方が強く感じたんだ。
俺は二人に心の底から感謝した。
「じゃあ話を戻すか。その探してるスパーダっていうのはあてはあるのかよ?」
「ううん。私も誰が持っているのか、どこにいるのかは分かっていなくて。だから一から探さないと」
「探す、か。しかしそう言われてもな」
この町にいるんだろうが、それでも広大だぞ。
「スパーダは探知機の役割もあるから、もし近づけば光が強まるはずだよ」
言われて俺はパーシヴァルをグランに近づけてみた。黄色い刀身から発せられる光が強くなる。
「なるほど」
「スパーダを出していなくても近くにいれば感知できるから」
「なら相手がいそうな場所を探すべきだがそのあてもないとなると」
「新都じゃないか? 人が集まりそうな場所といったらあそこだろ」
「どこに行くにしても新都にある水戸駅が便利なんだな」
「そうだな。まずはそこを探してみるか」
「うん。私もそうしようかなって思ってて」
失われたスパーダ探し。最初はいろいろ葛藤とかあったけど、まさかみんなですることになるなんてな。危険なのは重々承知だけど、ちょっと嬉しく思ってる。まだみんなと一緒にいられるんだ。
「なあ、人捜しなのはそれで別にいいとしてもよ、もう一つ問題があるだろ? 逃げるとしてもどうやって逃げるよ?」
「それも重要だな」
というか、これが駄目だと全部駄目だ。最悪ロストスパーダが見つからなかったとしてもうまく逃げることができれば御の字なんだし。見つけることが出来ても逃げ切れなかったら意味がない。
「ちなみに沙城さんはどうするつもりだったんだ?」
「うーん。当初のプランは使えなくちゃったんだよね。というのも、聖治君に頼ろうと思ってたから……」
「あー、そうか」
俺が忘れてることってかなり大事なことらしいな。混乱するってことで沙城さんは話してくれないけど、いつか聞いてみよう。今の俺でも役に立てることがあるかもしれない。
「ん? なんの話だ?」
「いや、なんでもない。じゃあ逃走ルートを今の内に考えておくか。新都の捜索は明日でいいだろ」
明日はちょうど休日だからな。今から行ったところで時間も少ないし。
「うん、そうだね」
「だな」
「調べものをするなら図書館がいいんだな」
力也の提案により俺たちは図書室へと行くことにした。
*
中には放課後とあって人の数は少ないものの調べものから自習などをしている人がいる。俺たちはなるべく人のいない机に四人で陣取り水門市の地図を広げた見つめている。
水戸市は港町で海と山に挟まれた場所にある。もともとは漁港で栄えていたらしいが高度成長期に都市開発が進み町の中心部はかなり都会だ。逆に新都から離れた外周部では昔の様子が残され田舎町といった感じになっている。
「ここがセブンスソードの舞台になったのは他の町と隔絶(かくぜつ)してるから。港町でしかなかったこの水戸市が経済的に発展したのも裏で魔卿騎士団が働いていたからだと聞いてるわ」
なるほど、陸の孤島じゃないが閉鎖的な場所は儀式にもってこいというわけだ。とはいえ町をまるごと支配下に置くなんて、それだけでセブンスソードがどれだけ大規模な儀式か伝わってくる。
「この町自体が舞台装置とはな」
やることが大それている。それだけ必死というか、本気ということなんだろう。
ただ、俺たちだって本気だ。本気でこんな儀式から逃げ出してやる。
「ちなみに沙城さんは? 探しているスパーダを見つけた後だけど」
「それなんだけどね、まずは聖治君たちについていこうかなって。逃げるといっても危険だし私も協力したい。私のことはその後でいいから」
「分かった」
どの道俺次第ということだよな。逃げた後、俺がしっかりしないと。
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