第12話 能力
「約束? お前、転校生とそんな約束したのか?」
「え?」
あれ、そういえば。なんでだろう。そんなことしたことないのに、なんでこんなこと言ってるんだ俺。
「いや、えーと」
なにかと勘違いしたのかな。まあそんなことはいいんだ。俺は彼女のそばにいる。それはもう決めたことだ。
「ぐすん」
「え、沙城さん!?」
と、見てみれば沙城さんが鼻をすすっていた。
「ううん、ごめんね。なんでもないの。ただ、すごく……」
片手で目をこすっている。見れば目が少し赤くなっている。
「ありがとう、聖治君。そう言ってくれて、正直嬉しい」
彼女は笑っている。そんな仕草が可愛い。彼女だって一人の女の子なんだ。セブンスソードは怖いだろう、葛藤だってあったはずだ。一人で心細かったに違いない。
「でもいいの? 本当に?」
彼女からの確認に俺は大きく頷く。それを見て彼女も表情を引き締め、頷いた。
「星都、力也。悪いが俺は彼女と一緒に行動する。二人でこの町から逃げてくれ」
「ちっ、おいおい」
「んー」
「……すまないな」
友人二人を見放すようで心苦しいが、俺なりに考えた結果なんだ。二人と離れ離れになるということだから星都や力也には本当に申し訳ないと思う。
「わーたよ」
「星都」
「おい力也、お前も同じ気持ちなんだろ?」
「うん」
「ん? なにがだ?」
二人はアイコンタクトでなにやら意思の疎通が取れているようだが。
「確認するが、必要なのは一本だけなんだな?」
「うん」
「おい星都」
それって、お前。
「殺し合いなんてまっぴらごめんだよ。俺は普通の生活で好きなように、自分らしく生きていければそれでよかったんだ。この日常に命を賭けるほどの不満もなかったしよ。なにより、ダチとやり合えって? ボウシット。それが一番気に入らねえ。どこの間抜けが自らそんなことするんだよ。お前に力也。友達っていうのは俺の日常にとって大事なピースだ」
ふだんおちゃらけた星都が珍しく熱く語っている。
「聖治」
名前を真剣な声で呼ばれる。
「お前は馬鹿だ、心底大馬鹿野郎だと思ったよ。だが、そんなお前でもそっちに付くって言うならよ、無視できるかよ。……一回だけだ。それだけ付き合ってやる」
そうい言うと星都はそっぽを向いてしまった。俺が沙城さんを選んだことが多少気に食わないようだがこいつの気持ちは分かった。
ほんと、いい友達だよ。
「ありがとな」
「ふん」
こんな調子だけど、俺のことを友達だと認めてくれているんだな。
「力也も、いいのか?」
「正直言うと怖いけどね、僕も星都君と同じ気持ちなんだ。友達を置いてなんていけないよ」
「まったく」
のんびりした調子なのに力也もすごいよ。きっとこの中で誰よりも優しいやつだと思う。
「ありがと、力也」
「ううん。僕たち、ずっと友達だからね」
「ああ」
そう言うと俺と力也は拳をぶつけ合った。その流れで星都ともぶつけ合う。
「ぐすん」
見れば沙城さんがまた泣いていた。
「方針は決まったな。俺たち四人は沙城さんが探しているロストスパーダを見つけ出し、それを手に入れる。それからセブンスソードから逃げればいい」
「話の流れは分かったけどよ、問題は二つだ。探し物のスパーダとその後の逃走ルートだ。探し物はともかく、逃げるのだって危険なんだろ? ちなみにだけどお前を襲ったっていう管理人、俺たち四人がかりなら倒せたりしないのか?」
「それはたぶん難しいんじゃないかな。今の私たちじゃ管理人にはかなわない。逃げるっていうのが一番現実的だと思う。それも難しいとは思うけれど。魔卿騎士団はこの儀式をするためにこの街を支配してると聞いてる。この街が経済成長をしてきた裏には魔卿騎士団の手があったていう話だし」
「それだけ昔から準備してたんだ、向こうも必死ってわけだ。そういえば管理人に襲われた時スマホが圏外になってたな」
「うん、偶然なはずがないよ。きっと騎士団の結界だと思う。スパーダ同士の戦闘が起きると自動的に発動して異なる位相に移る仕組みらしい。それか管理人が動く時だね。闇雲に動いても見つかって、規則違反だとして管理人に殺されるわ」
バレたらその場で処刑される、か。昨日の男を思い出す。槍を使うあの男に俺は殺されかけた。人を殺すことに一切躊躇いはない連中だ。
「なあ、それっておかしくねえか?」
そこで星都が聞いてきた。
「俺たちは団長になるために作られたんだよな? なのに団長よりも弱い管理人に勝てないっていうのは変だろ」
「そういえばそうだな」
星都の言う通りだ。矛盾している。どうして団長候補の俺たちが管理人よりも弱いんだ?
「それはね、朝は言えなかったんだけど、スパーダの固有能力には制限があって、スパーダを獲得することで段階的に解放されていくの。だから今の私たちでは幹部より弱い設定になってる」
「今の俺たちはレベル一で、セブンスソードでレベルアップしていくってことか」
「うん、そういうこと」
なるほど。厄介だな。これが初期の暴動を抑えるための処置ならセブンスソードは相当手が込んでる。
「気になってたんだけどよ、その固有の能力って全員にあるんだよな? 転校生のは見せてもらったけど」
「うん。皆森君にもあるはずだよ。あと名前で呼んでくれていいから。いつまでも転校生じゃあれだし」
「じゃあ沙城って呼ぶぞ。俺も呼び捨てでいい」
「え、いきなり?」
「こういうやつなんだ、気にしないでくれ」
星都は基本さばさばしてるからな。
「とりあえず俺たちがどんな能力を持ってるのか確認しておかないか? なにをするにしても情報の整理は必要だろ? 彼を知り己を知れば百戦危うからずって言うしな」
「孫子の言葉だな」
脱線にはなるが必要なことだからな、俺も賛成だ。
「とりあえずしてみるか」
俺と星都、力也はスパーダを取り出した。最初は緊張したが二度目にもなればスムーズに出すことができた。黄色い刀身をした神剣パーシヴァルを持つ。
「沙城さん、その固有の能力っていうのはどうやって発動するんだ? そもそもどうやって調べればいいのか」
「スパーダを出した時みたいに今度は能力を発動しようと念じてみればいいよ。それでできるはずだから」
「そういうものか」
そういうことならやってみるしかない。
「じゃあ俺からやるぜ」
星都が水色をした剣を両手で握り顔の前に持ってくる。そこには真剣な星都がいた。
「光帝剣、エンデゥラス」
その名を呼ぶ、自分自身でもあるもう一つの名前。
瞬間星都の姿がとてつもない速さで動き俺と力也の横を通り過ぎていった。
「うお!」
まるで特急電車が通ったような強烈な風圧に体が押される。
振り返れば俺たちから離れた場所に星都が立ち尽くしていた。
「今のは」
「これが皆森君の能力だよ」
星都は光帝剣を驚いたように見つめていた。が、すぐに表情をほころばせる。
「どうよ聖治、いいだろう。これは当たりだな」
「うん、私もいいと思う。速いっていうのはそれだけでやれることの幅が広がるし。足が速いのは生き残るには必要なことだもんね」
「星都君よかったんだなぁ」
「ふふーん。まあな」
「ま、まあ、いい部類みたいだな」
星都が鼻を高くして光帝剣を見せびらかしてくる。くそ、悔しくなんかないぞ。
「あと沙城、俺のことは呼び捨てでいいって言っただろ」
「う、うーん。そのうち、ね?」
「ま、好きにすればいいけどさ」
「次は織田君の番だけど、たぶんそれ、もう発動してるよね?」
「え?」
ああ、そうか。
改めて力也のスパーダを見る。力也が持っている鉄塊王グランは大剣だ。というより鉄の塊と言った方がしっくりくる。それほど大きな剣だ。
それを片手で軽々持てるのは重力の影響を受けないからに他ならない。
「えへへ、僕は出した時にはもう分かってたんだなぁ」
「んだよ、抜け駆けか?」
「違うんだなぁ~!」
「まったく」
状況分かってるのか、こいつは。
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