煽るのって超楽しい

「いや、どうした勇気。いきなり俺の胸倉を掴んで?」


「どうしたもこうしたも、皆に何をした?」

  そう言って俺に怒鳴り散らす勇気。


 あれま、これは本当に記憶が消えてなさそうだな。流石陰陽師最強の安倍晴明に正教会最強の現教皇・アンノウの血が流れているだけのことはあるは。呪術に対する耐性がメチャクチャ高いな。びっくりだよ。


 でも。記憶が消えてないのは勇気だけやし。ここは白を切るか。

 いや。待てそうだな。せっかくだし煽ろう。俺ぶっちゃけ勇気みたいな人間好きじゃないんだよな。才能に溢れてて正義感に溢れてて運動も勉強も一流で女子のモテモテでハーレム作ってる人間。絵に描いたような主人公。

 まだ何の苦労もしてないような、それでいて、無駄な正義感で自分の正しさを突き通そうとする、かといって今はそこまで強いという訳でもない俺にとっては吐き気を催す性格。

 うん。嫌いだな。といっても殺したい程憎いって訳でもないし、嫌いって訳でもない、ただ、嫌いなだけで、俺の人間性的に性格的に絶対に相いれないってだけだ。

 まあ行動を観察するのは結構面白いけどね。ハハハ。我ながら良い性格しているぜ。


「何をしたか?いや。何を言ってるんだ勇気、俺は別に何もしていないぞ」

 俺は手を軽く広げながらわざとらしくそう言う。


「でも。あれは、いや待て、皆は皆はコイツのしたこと見てたよな?」

 おっとそれは悪手だよ勇気。


「いや。何も」「うん。特には」「別段。普通に席に座ってただけじゃない?」「そうだよな」

 皆分からないと答える。それはそうだって話だ。だって覚えてないのだから。


「なあ、白木は見てたよな」

 白木さんもばっちり術にかかってますね。陰陽師といってもそこまで強くないしね。この俺の呪術がかからない勇気が異常なだけだから。


「あのう。ごめんなさい勇気くん。私には勇気君の言ってることが良く分からないわ」


「マリアンヌはどうだ?」

 聖職者でも呪術に対する耐性が低ければ。それはかかるよ。


「すみません。勇気様。その陰晴って人は特に普段通りだったと思います」

 まあ。そうだよな。俺の予想した通りの答えだ。


「は?は?は?何でだよ。お前本当に何でだよ」

 おお。凄く混乱してますね。あ、因みに俺の貼ってあるご都合主義結界が今俺に優位に働いているから。今の勇気じゃあ、何をしても俺には勝てないよ。さてと。せっかくなので最後に追い打ちをかけて見ますか。


「おいおい。大丈夫か勇気。まるで悪魔にでも騙されたみたいだな?」

 俺は悪魔の部分を敢えて強調してそう言った。悪魔と戦ってる勇気からしてみれば怪しさしかないやろうな。多分俺のことが悪魔に見えてるだろう。

 まあ、左腕に七つの大罪・【怠惰】という厄災級悪魔を封印してるから、ある意味悪魔だけど。


「悪魔にでも騙されただと。まさかまさかまさか。霊力剣」

 おっと。ここで霊力剣を出すか。なるほどね。面白いことするね。常識的に考えて馬鹿だろ。でもせっかくだしここはその愚かな行動に乗ってあげるか。

 俺って優しい。


「砕けろ。そして今霊力剣を見た者の10秒間の記憶よ消えろ」

 その瞬間に全てが消える。

 霊力剣も、皆の10秒間の記憶も。


「お前は一体何者だ?」

 勇気が俺を化け物でも見るかのようにそう言ってくる。というか俺のことを恐ろしい得体の知れない化け物だと理解する。


「さあ。何だろうね。自分で考えな。ほらそれよりも授業が始まっちゃうよ。日常って大切だろ」

 俺は普段通りにいつもの様にいけしゃあしゃあとそう言い放った。


「・・・・・・ああ。そうだな」

 そうして勇気は苦虫を嚙み潰したような顔をしながら自分の席に戻った。まあ本当に苦虫を嚙み潰した人の顔は見たことないけどね。


「陰晴。今のやり取り見てて結構楽しかったです」

 どうやら猫子も俺と同じ考えのようだ。といっても俺が一から創った眷属がイトなのだから、ある意味で当たり前か。


「そうか。それは良かった。俺も結構楽しかったよ。さてさてさてこれから勇気はどういう対応を取るかな?ああ、実に、そう実に楽しみだ」

 俺はそう言って一人ニヤリと笑った。

 なお、その笑みを見ていたのはイトと勇気だけだった。


 ――――――――――――――


 以上


 面白いと思って頂けると嬉しい限りです。


 なお、次の話にて今後の陰晴と勇気の絡み及び展開について考えているのを幾つか書いていきます。

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