第78話 ウッズドラゴン
その後も順調に薬草を採取していくブランカ。僕は嬉しそうなブランカを見守りつつ、周囲を索敵も欠かさない。レーダーのように生物を感知する索敵の魔法と“神の目”を使って二重の索敵網を作り、周囲を警戒する。
「大量、大量。これはもしかしたら銀貨いくんじゃないかしら?」
それだけ大量に採取して、やっと銀貨1枚……薬草の採取は割に合わないのではないだろうか?
『……はぁ』
嬉しそうなブランカになにも言えず、小さくため息を吐くと、レーダーに感があった。それなりの生物が5体固まって移動している。冒険者のパーティかな?
確認のために“神の目”を向かわせると、人影が5つ映しだされた。ブランカよりも小さい人影だ。禿頭に小さなツノが2つ。体に似合わず大きく尖った耳。ヤギのように横長の瞳孔。薄緑色の肌。ゴブリンだ。ゴブリンが5体、まるで冒険者のようにパーティを組んで森の中を移動している。
ゴブリンたちは粗末ながらも武装していた。キラリと光る黒い石の穂先の槍を持つゴブリンが2体。木の棒に石を括り付けた石の斧を持つゴブリンが2体。戦利品なのか、錆びの浮いた鉄の剣を持つゴブリンが1体だ。
ゴブリンか……。どうするかな?
僕は薬草をせっせと採取するブランカと、森の中を移動するゴブリンたちの様子を見ながら考える。ゴブリンは、ブランカの初めての獲物に相応しいだろうか?
生き物を傷付けたり殺めたりすることにストレスを感じる人は意外と多い。僕もかつてはそうだったから分かる。命を奪うのは怖いのだ。
蚊とか小さな虫を殺すことはなんとも思わなかったけど、魚を殺すのはちょっと気持ち悪かったかな。哺乳類、例えば犬や猫なんて殺すどころか傷付けることさえ怖かった。たぶん、自分に近いものほど殺すことが怖くなるのだと思う。人間ってそういうふうにデザインされてるんじゃないかな?同族を殺さないように。でも、人類の歴史を振り返ってみると、僕の考えはマイナーなものかもしれないね。
話が逸れちゃったけど、問題はブランカがゴブリンを殺せるかどうかだ。
初めての獲物が人型のゴブリンというのは、少しハードルが高い気がするけど……。
『ブランカはゴブリン殺せる?』
迷った僕はブランカに訊いてみることにした。
「え?ゴブリン?………勝てるかしら?」
どうだろう?体格差もあるし、得物の差もある。たぶん勝てるんじゃないかな?
『勝てたとして、ちゃんと殺せる?殺す覚悟がある?』
ブランカが薬草を摘む手を止め、眉を寄せて悩む素振りを見せる。
「たぶん…?」
なんとも煮え切らない反応だね。
『実はゴブリンのパーティを見つけたんだ』
「ッ!?」
ブランカが弾かれたように素早く槍を構えて周囲を見渡す。
「……どこ?」
近くに居ると思ったのかな?それなら悪いことをした。
『ごめん、ごめん。まだ遠くだよ』
「?近くには居ないの?」
『うん。まだ遠く』
「ふー…」
ブランカの体から力が抜けていくのが分かった。
「ビックリした……」
『ごめんよ。それでゴブリンなんだけど……』
僕は“神の目”に映るゴブリンの様子をブランカに教える。
「千里眼って云うのかしら?あなたってほんとになんでもアリね……」
『索敵は得意なんだ。それでゴブリンはどうする?』
「いっぺんに5匹はムリよ」
『じゃあ、僕が4体倒すよ。これで残りは1体だ』
「……なんだか、どうしてもあたしに倒させたいみたいね。それって、あたしがやる意味ある?」
ブランカが不審そうな目で僕を見る。
『あると思うよ。早めに生き物を殺す経験をしておくのも悪くない。相手はゴブリン。1対1だ。今のブランカなら、たぶん勝てる。あとはブランカの覚悟の問題だよ』
「覚悟……」
ブランカが俯いて考え込み、30秒程で顔を上げる。僕を見る顔は、なんだかさっきまでとは別人のように冷たい無表情を浮かべていた。
「……やるわ」
『本当にいいの?』
「どうせいつかは
そう据わった瞳で言うブランカ。13歳の少女に生き物を殺すように教唆するなんて、日本なら間違いなく警察のお世話になっているだろう。僕も悪い大人になってしまったものだな……。
◇
『ここで待ち伏せしよう。ゴブリンたちは向こうからやって来るよ』
ブランカと一緒に木の影に隠れて待つこと5分程。ゴブリンたちが落ち葉の上を歩くガサガサという音が聞こえてきた。
『来たよ。ゴブリンが5体』
最初に姿を現したのが石の斧を持ったゴブリンだ。その次に槍を持ったゴブリン、剣を持ったゴブリンと続く。斧2体、槍2体、剣1体のフォーメーション。どうやら剣を持ったゴブリンがこのパーティのリーダーみたいだ。時折ゴブリンたちに指示を出しているような動作をしていた。
ブランカにとっては初めての戦闘だし、残す相手は一番弱そうな石の斧を持ったゴブリンにしよう。
『じゃあ、僕の魔法と共に戦闘をスタートしよう。僕が4体のゴブリンを倒して、残る1体はブランカ、君が倒すんだ』
ブランカが僕に頷くことで応える。
『じゃあ、いくよ。3、2、1、0!』
合図と共に弾かれたようにブランカが木陰から駆け出した。
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