第75話 パパ活ドラゴン?④

「よくお似合いですよ」

「ほんと…?」


 自信が無さそうにモジモジと訊いてくるブランカはかわいらしいなぁ…。思わず頬が緩んでしまいそうになる。


『うんうん、よく似合ってる。かわいいよ』


 水色に白のフリルやリボンで華美に飾られたワンピースを着たブランカは、とてもかわいらしかった。ソックスも水色と白のボーダーで、足元までかわいらしい。胸元の赤いリボンがワンポイントで入っており、あとは全体的に白と青系統で固められている布をふんだんに使った豪奢なファッションだ。僕の乏しいファッション知識から近しい物を挙げるとすれば、ゴスロリが近いかな?ヘッドドレスとかあったら完璧だっただろう。


 なんとなく童話のアリスを連想させる実に少女らしいファッションだ。とてもブランカに似合っている。


「ふ、ふーん……」


 ちょっと照れたように顔を背けるブランカ。彼女の透き通るような白い肌は、僅かな頬の紅潮も丸分かりで少しかわいそうだ。そんなところもかわいらしいけど。


 その後、遠慮するブランカを無視して、どんどん彼女の服や下着、小物を買っていった。ブランカは顔を赤くしたり青くしたり忙しかったね。値段を聞いて驚いて、動く金額の大きさに驚いて……仕舞いには魂が抜けたように疲れ果てた顔をして黙ってしまった。


『ブランカ?ブランカ!買い物終わったよ!起きて!』

「ほけー……」


 ほけーって何語かな?


「お客様。代金ですが……全部で大金貨6枚と……」

「だいきんかろくまい!?」


 ブランカが再起動したと思ったら、また白目を剥いて沈黙してしまった。ブランカにはちょっと大きすぎる買い物だったみたいだ。なむー。



 ◇



「お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 その後、なんとか復活したブランカと共に店を出る。


「だいきんか……だいきんか……」


 ブランカはまだフラフラとした足取りで、うわごとのようになにか呟いている。まだまだ完全回復とはいかないようだ。それだけショックが大きかったのだと思う。しばらくそっとしておこう。



 ◇



 魂が抜けかけてフラフラのブランカを連れてお買い物を続行する。あと必要なのは日用品の類だ。そんなに高い金額にはならなかったからか、ブランカが再びショックを受けることは無かった。


「……ハッ!?あたしはいったい…?ここは…?記憶が……無い…?」


 もう買い物も終えて帰ろうかというところで、ようやくブランカが気が付いたみたいだ。


『おかえり、ブランカ。調子はどうだい?』

「調子…?」


 ブランカが自分の体を見下ろして驚いたように目を瞠る。


「これ!?夢じゃなかったんだ…!」


 ブランカの中では服屋での出来事は夢の中の出来事になっていたらしい。


「うーん…そうねー…パンツって言ったかしら?股に布がくっ付いてる感覚がなかなか慣れないわ。なんだかむずむずするのよねー…」


 今までノーパンが普通だったからか、パンツを穿くことに違和感があるようだ。でも、こればかりは慣れてもらうしかない。ノーパンでスカートとか危なすぎる。


「あとは……なんだか落ち着かないわ……すっごく見られてるみたい……」


 周りを見ると、多くの人と目が合った。たしかに注目を集めている。ドラゴンである僕に驚いていたり、肌の白いブランカを侮蔑する声も聞こえる。しかし、いつもよりもブランカを侮る声は少ない気がする。まぁ気のせいかもしれないけど、服を変えた効果があったらいいなぁ。


『ブランカが素敵だからね。皆見ずにはいられないのさ』


 僕はウィンクと共に軽口で応えると、ブランカが泣きそうな顔で僕を見る。


「それ、本気で言ってる…?」

『本気だよ。ブランカはとても魅力的だ』


 間髪入れずに真剣に応える。


「そう……」


 ブランカが僕から視線を外して顔を背けた。その頬が淡く染まっていることを僕は見逃さなかった。



 ◇



「あ~~……つかれたー!」


 人目に付かない所で異空間に創った部屋に帰ると、ブランカがベッドに倒れるようにダイビングした。疲れたらしい。ブランカはまだ栄養失調だ。疲れやすい体なのかもしれない。これも少しずつ改善していかないとな。


『ブランカ、疲れてるところ申し訳ないけど、ちょっといいかな?』

「なにー?」

『ブランカにプレゼントがあるんだ』

「え!?」


 プレゼントと聞いて警戒したように身を固くするブランカ。なんでそんな反応するんだろう?プレゼントって聞いたら普通喜ばない?


「はー、ふー……よし!今度はいったい何なの?」


 ブランカが深呼吸して気合を入れて訊いてくる。どう見てもプレゼントを貰えると喜んでいるようには見えない。どうしてだろう?


『いくつかあるからブランカが好きな物を選んでよ』


 そう言って僕が取り出したのは、10本の槍だ。その形や大きさも様々な槍が所狭しと空間を浮いている。


「なんだか予想外のがきたわね……。これ全部槍?」

『そうだよ』


 僕が持っている無数の槍の中から、ブランカでも扱えそうな小さめの軽い槍を10本セレクトしてみた。


「なんで槍なの?」

『だって……』


 僕は壁に立てかけられていた木の棒に包丁を括り付けただけの粗末な槍もどきを見る。


『あれじゃあ貧弱すぎるよ。もっと良い武器を使わないと』

「……それもそうね」


 ブランカも反論の余地が無いのか素直に頷いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る