第74話 パパ活ドラゴン?③
僕はピンクと白の魔法少女の服のイメージをマヌエルに伝えていった。
「そんなにスカートが短くていいんですか!?」
「大きなリボン……アリかもしれません…!」
「そんなに長いソックスは初めて作ります…!」
「そのソックスを留めるガーターベルトというのはいったい…?」
「見せパンとは何でしょうか?」
マヌエルにはとても斬新なデザインに思えるようで終始驚きの声を上げていた。中でも一番驚いていたのが……。
「シルクを下着に使うのですか!?」
『そうだよ。肌触りが良いからね』
「たしかにそうですが……あの輝く布を下着に…!」
マヌエルにとっては予想外のことだったようで、とても驚いていた。
◇
魔法少女服の他にも普段着や下着、靴下や靴など、思いつくかぎり注文していると、店の奥から店員さんが戻ってきた。ブランカはどうしたんだろう?
「会長?お部屋にご案内なさらないのですか?」
「ああ!わたくしとしたことが、つい夢中になってお客様にお茶をお出しすることも忘れてました。すみません、お客様。すぐお部屋の方にご案内いたしますので……」
「お連れ様もお部屋でお待ちですよ」
どうやらブランカは先に部屋に案内されたらしい。
「さあ、こちらへどうぞ」
『その前に、アレを貰えないかな?』
僕は店に飾られていた服の1つを指して言う。水色が涼しげなドレスのように飾りのたくさん付いた膝丈のワンピースだ。たぶん見本として飾られてる非売品だろうけど、ブランカによく似合うだろう。
「あちらですか……。お嬢様のサイズに合わせて新しくお作りすることも可能ですが、いかがいたしましょう?」
『すぐに欲しいんだ。アレでいいよ』
本来なら新しく作ってもらった方が良いのだけど、それだと時間がかかってしまう。ブランカにはすぐに着られる服が必要だ。あの貧相なワンピースはすぐに卒業させた方が良い。
人の見た目ってとても大事だ。ブランカは、皆とは違うその白い肌と髪が原因で差別に遭っているけど、その中には、ブランカが貧民のような貧相な格好をしていることで侮られている部分もあると思う。服装を変えただけで差別が無くなるわけじゃないけど、少しでも少なくなれば良いと思う。
「かしこまりました」
『あと、既に出来てる服や下着があれば見せてほしいな』
◇
僕もマヌエルの案内で店の奥の部屋へと通される。生地の見本も兼ねているのか、パッチワークのタペストリーや、布で飾られた部屋だ。布自体が高級品なことを考えると、とても豪華なお部屋である。
その部屋の中で、ブランカが借りてきた猫のように大人しくソファーに座っていた。どことなく緊張しているような、気を張りつめている様子が伝わってくる。ブランカは、ドアが開くと弾かれたようにこちらを向き、僕の姿を見つけると安堵したようにフッと表情を和らげた。
『お待たせ。良い子にしてた?』
「それ、あたしの台詞よ?」
そんなことを言い合いながらブランカの横に座ると、ブランカの手が伸びてきて、僕を膝の上に乗せた。僕は、まるでぬいぐるみのようにブランカに抱っこされてしまった。もしかしたら、ブランカは心細かったのかもしれない。この豪華な部屋に、貧相な格好のブランカはひどく似合わない。居場所の無さを感じていたかもしれないね。
『実はブランカにプレゼントがあるんだ』
「え?あなた何か買ったの?」
ブランカが、なぜか心配そうな目で僕を見る。
『うん。あの水色のワンピースを』
僕が店員さんの持ってる水色のワンピースを指すと、ブランカが驚き悲しむような表情を浮かべた。なんでそんな顔を浮かべるんだろう?プレゼントなのだから喜んでほしいのだけど……。
「……あんな高そうな物を…!」
どうやらブランカはお金の心配をしているらしい。ブランカは守銭奴だからね。
『お金の心配はしなくていいよ。布が思ったより高く売れてね。大金貨10枚も予算があるんだ』
「だいき!?」
ブランカは大金貨という響きに驚愕している。そうだね。ブランカが一日頑張って危険な森で薬草を採って銅貨7枚としたら、大金貨1枚で約260日分のお給料だからね。高額すぎて普通の庶民には縁の無い硬貨なのだろう。布はやっぱり高級品らしい。しかも、シルクの布1巻きでそれだ。僕はまだ何巻きもシルクの布を持っている。もしかすると、積もり積もって小さな国の国家予算くらいあるかもしれないね。
『だから、本当にお金の心配はしなくていいんだよ。さあ、あの服を着たところを僕に見せてよ』
「え?今?」
『今見たいなー』
「でも……」
ブランカの視線がマヌエルへと注がれる。たしかに、男の人の前で着替えるのはダメだね。
『着替えちゃっても構わないかな?』
「もちろんですとも。そういうことでしたら、わたくしは席を外しましょう。以降はこちらのミレイアになんなりとお申し付けください。ではでは、ごゆっくり」
「ミレイヤです。よろしくおねがいいたします。お着替えのお手伝いをさせていただきますね」
「ええ!?」
マヌエルが部屋を去り、ブランカの悲鳴と共にお着替えが始まった。
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