第69話 オイルドラゴン
『まずはお風呂を片付けて、僕とブランカを乾燥っと』
浴槽と床の水を消失させて、浴槽の凹みを戻して、3メートルの白い立方体のお部屋に戻す。その際に、僕とブランカの体や髪から余分な水分を消失させ、部屋の温度も涼しい気温まで下げる。僕は気が利くのだ。
「すごっ!?一瞬で乾いたんだけど!?」
裸のブランカが髪を掻き上げながら言うけど、驚きの表情は次第に不満そうな顔へと変わる。
「髪、ゴワゴワするー…」
『これ使うといいよ』
「何コレ…?すっごい高そうなんだけど…!」
『香油だよ』
僕はブランカに香油の瓶と櫛を手渡す。高価な割れ物だからか、恐る恐る慎重な手つきで受け取るブランカ。
「これを櫛で髪に馴染ませるといいよ」
そうすれば、髪がツヤツヤのとぅるんとぅるんになる。神殿では、巫女さんたちは皆、髪に香油を馴染ませていた。石鹸で洗うと、どうしても髪がキシキシ引っ掛かってしまうからね。香油を髪に馴染ませるのは、いわばリンス代わりだ。髪の毛がとぅるんとぅるんになるし、良い香りもする。
「ほんとに使ちゃっていいの?すごく高そうよ?」
僕に献上されるような品だから最高級品だろう。高いのは間違いない。
『むしろ使ってくれた方が助かるかな。いっぱいあるから』
僕は香油の入った瓶をいくつも取り出して見せる。
「こんなにたくさん…!」
『好きな香りを選ぶといいよ。でも、その前に服を着るといいかな』
「服も綺麗になってる!」
僕はブランカに服を返す。一応服を洗っておいたのだけど、元々そういう色なのか、くすんだ淡い黄色のノースリーブのワンピースだ。下着の類は無い。ブランカの話では、パンツは贅沢品の一種という扱いらしい。
ブランカがワンピースを着たのだけど……下着を着けていないことを知っているからか、なんとも危ない感じがする。大きく開いた首や腕の穴からは、おっぱいが見えてしまいそうだし、ノーパンの膝丈スカートは、なんとも心もとない。やっぱり下着は必要だな。絶対に身に着けさせよう。
僕の決意を他所に、ブランカが香油の瓶の蓋を少し開けては香りを確認している。匂いを嗅ぐ度に、ブランカはうっとりしたような表情を浮かべていた。
「花の香りかしら?すっごくいい匂い…!」
ブランカが香油を選んでいるのを尻目に、僕は部屋を整えることにする。カーペット代わりにシロクマの毛皮を敷いて、いくつか持ってるベッドの中から、天蓋付きの大きめなベッドを取り出して設置する。ベッドに布団を敷いて、ひとまずベッドは完成だ。
「なんかすごいことになってる!?」
ブランカの驚く声が少し心地良い。
「なにこれ!?白いクマ?と、もしかしてベッド?すごい!まるでお姫様のベッドみたい!」
まぁ実際にお姫様が使うことを想定して作られたベッドだからね。ブランカの感想は間違っていない。
他にもソファーやローテーブルなど、家具を設置していく。
「あなたって、もうなんでもありね……」
ブランカが、もう驚くことに疲れたのか、僕を呆れたような顔をして見ていた。なんかちょっと心外だ。
「意外と柔らかいのね。もっと硬くてチクチクしてるのかと思った」
ブランカがシロクマの毛皮の上に素足で踏み出すと、少しはしゃいだ声を上げる。そのままソファーまで移動すると、ボフンと跳び込むようにソファーに腰を下ろした。ソファーはブランカをぽよんと優しく受け止めた。ぽよんと跳ねるのが楽しいのか、ブランカがソファーで跳ねて遊んでいる。
「見て見て!すごい!ぽよんぽよん!」
その姿はとても微笑ましいが……スカートの裾が翻って捲れ上がっている。おまけにノーパンで脚を開いているものだから無毛のお股が丸見えだ。やっぱり最低でもパンツは必要だね。明日、絶対に買わせよう。
『ほらほら、遊んでないで髪をやっちゃおう』
「そうだった。やり方が分からないのよ。どうすればいいの?櫛に香油を垂らせばいいの?」
香油の使い方が分からなかったらしい。たぶん人生で初めて使うのだろう。
『たしか、まずは手の平に1,2滴取って広げるんだ』
僕は巫女さんたちが香油を使う様子を思い出しながらブランカに教える。
「そんなちょっとでいいの?」
『うん。ちょっと少ないくらいでいいんだよ。足りなければ継ぎ足せばいいし』
「それもそうね」
ブランカが1滴の香油を手の平に取って広げる。
『後は髪を手櫛で梳いたり、キュッと髪を握るようにして髪に香油を馴染ませる』
「はーい」
たしか、巫女さんたちは、タオルで髪を乾かした後に香油を使ってたかな。たぶん、髪が完全に乾き切る前の、しっとりした状態で使うのが本来の使い方なのだろう。
ブランカの髪は、もう乾かしてしまった後だ。順番を間違えちゃったね。まぁ初めてのことだし、ドンマイドンマイ。
「なんか、あんまりサラサラにならないんだけど?まだ髪がギシギシするわ」
『今日は順番を間違えちゃったみたいだね。本来は、髪を乾かしきる前に香油を髪に馴染ませるんだと思う。どうする?もう1滴足してみる?』
ブランカは、自分の髪を一房手に取って匂いを嗅ぐ。
「でも、匂いはこれで十分だと思うの。これ以上付けると逆に臭くなっちゃうかも……」
そう言って困った顔を浮かべるブランカ。香油って言うくらいだから匂いも強いのだろう。付け過ぎは良くないか……。
『残念だけど、今日は失敗だね。サラサラヘアーは、また明日のお楽しみにしよう』
「はーい……」
ブランカが残念そうな声を上げて、ソファーに深くもたれかかった。
『今日はもう寝ちゃおう。明日はいろいろとやりたいことがあるからね』
「やりたいこと?」
『それも明日のお楽しみだね』
「えー…」
不満そうな声を上げるブランカと共に、僕はベッドへと飛んでいくのだった。
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