第67話 お風呂ドラゴン②

『はぁー…』

「はぁー…」


 思わず出たため息がブランカのものと重なる。


「ふふっ。気持ち良いわねー…。こんな気持ち良いことが、この世にあっていいのかしら…?」


 浴槽の淵に頭を乗せて、だらんと力を抜いたブランカが、ぷかぷか浮きながら呟く。どうやらブランカはお風呂が気に入ったようだ。よかった、よかった。


『そろそろ出るかー?』

「えぇー…」


 ブランカが不満そうな声を上げる。たしかに、湯船に浸かるのは至福の時だが、お風呂の大目的である体を洗って綺麗にしないといけない。


『ほら立って。体を洗うぞー』

「分かったわよ……」


 ブランカが浴槽に立ち上がると、お湯に隠れて揺れていたブランカの体が、お湯を割って露わになる。細く針金のような手足、痩せて丸みを失ったお尻に、細すぎる腰。くっきりとあばらの浮いた脇腹に、おっぱいを名乗るのも烏滸がましい平坦な胸。ブランカには悪いが、貧相な体と言われても仕方がないと思う。その肌は桜色に上気し、多少色気が上がった気がしないでもないが……それでも魅力的と言うよりは、見ていて心配になる体つきだ。


「よいしょっと…」


 ブランカが脚を上げて、浴槽から出る。ブランカの体つきを魅力が無い心配になると言っておきながら、僕の視線はブランカの胸やお股、お尻を追っていた。いや、うん。自然と目が行っちゃうんだよ。だって男の子だもん。


『じゃあ、まずは頭から洗おうか』

「はーい」


 ブランカは素直に返事をして、立ったまま石鹸を泡立て頭を洗い始める。その様子を僕は下から見上げてるんだけど……下からだといろいろ丸見えだね。見てはいけないと思うけど、ついつい視線が行ってしまう。すごい吸引力だ。某掃除機かよ。


「あたし、シャボンを使うなんて初めてよ!」


 ブランカの声は弾んでいた。石鹸を使えることが嬉しいらしい。そんな無邪気な様子を見せるブランカは、頭を洗って目を瞑っているからか、僕の視線には気が付かないようだ。その脚を浅く開いて、リズミカルに左右に揺れているブランカの様子は、まるでエッチなお店のダンスショーのようですらある。その様子をほぼ真下に近い位置から見上げる僕。特等席だね。ブランカの秘密が丸見えである。


『……ブランカ、目を瞑って立っているのは危ないよ。座ったらどうかな?』


 僕の中の僅かな良心が、これ以上見てはいられないとブランカに声をかける。


「そうね、そうするわ」


 ブランカがペタンと女の子座りをして、そのエッチなダンスショーは幕を閉じたのだった。少し惜しいことをした気がするけど……がっつきすぎるのも良くないからね。ほどほどにしないと、バレた時が怖いのだ。


『髪を洗うというより、頭皮を洗う感じがいいらしいよ』

「ふーん……」


 ブランカが頭をゴシゴシと洗っていくのを見ていると、僕の視線はそのちょっと下に吸い寄せられる。そう。ブランカのお胸だ。その先端の淡いピンクが僕を魅了する。ブランカは色素が薄いからか、本当に綺麗な淡いピンクなんだ。ブランカの胸は変わった形をしていて、おっぱい自体は平坦だけど、小さくピンクの乳輪部分がぷくっと膨らんでいる。俗に云うパフィーニップルだ。たぶん、ブランカが少しはおっぱいがあると言った原因だろう。ブランカの胸は全然膨らんでいないけど、その乳首だけは膨らんでいるんだ。


「ふっふふーん♪」


 そんな揺れる健気なピンクが僕の視線を奪う。できることなら触りたいところだが……。今日会ったばかりの女の子のおっぱいを触ってはダメなことくらい僕にも分かる。この100年くらい、女の子のおっぱいを触ると逆に喜ばれるという特殊な環境に居たけど、それぐらいの常識は僕にも残っているのだ。だから、今は見るだけで満足しよう……。くっ!自由におっぱいが触りたい放題だった巫女さんパラダイスが恋しい…!


「このくらいでいいかしら?」

『いいんじゃないかな……』

「なんでちょっと悲しそうなのよ…?」


 楽園が恋しいんだよ……。


『流すぞー……』


 天井から温水のシャワーを降らせる。


『石鹸はしっかりと洗い流すんだぞー』

「はーい」


 ブランカが素直に返事を上げながら頭をわしゃわしゃしている姿は、なんだか毒気が抜かれる光景だった。抜かれたからというわけじゃないけど、ちょっと賢者タイムみたいな気分だ。


 賢者気分の僕は考える。ブランカの今後について、どうするべきかを。


 どうするべきかは最初から分かってるんだ。僕はブランカを見捨てられそうにないからね。助ける方向なんだけど……問題は、ブランカに自立できる力があるかどうかなんだよね……。


 ブランカが1人でも生きていける力を持てるかどうか。


 今日見た限りだけど、ブランカは迫害まではいかないけど、白眼視され、孤立している状態だ。こんな状態では街の中で仕事を探すのも難しいだろう。安全で稼げる仕事なんて皆したいからね。そういうのは、権力や縁故がものを言うのだけど……ブランカには無さそうだ。娼婦という選択肢もあるけど、ブランカは気が乗らないようだし、今は無しだ。


 となると、残るは冒険者のように街の外に出る危険な仕事だけど……。


 僕はブランカの痩せ細った体をチラリと見る。腕力があるとは言えないし、魔力もそれほど多くはない。平均以下だろう。肉体的な資質は低い方だ。普通はこういった欠点をパーティで補うのだけど……ブランカとパーティを組んでくれる人は居なそうだったな……。


 これといった技能があるわけでもなければ、パーティを組める見通しもない。そんなブランカが、実力主義の冒険者社会で、暮らしていけるだけの稼ぎを得ることは、とても難しいと言わざるを得ない。なんで冒険者なんてやってるんだ?冒険者くらいしか職が無かったんだろうな……。


 これは冗談抜きで一生面倒を見る必要があるのかもなー…。


 無邪気にシャワーを浴びるブランカを見ながら、そんなことを考えるのだった。

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