第66話 お風呂ドラゴン
「なんで服を脱がなくちゃいけないの?」
ブランカが不思議そうな顔で僕を見る。
『まずは体を洗おう。その間に服も洗濯しておくよ』
「そうは言うけど、水もなにもないじゃない?」
『水なら出せるよ。ほら』
僕は部屋の天井からシャワーのように水を降らす。
「冷たっ!?くない…?あったかい」
シャワーだからね。40度くらいのぬるま湯にしておいたのさ。
『これで体を洗えるでしょ?』
「……あなたって、もうなんでもありね……」
ブランカが疲れたような呆れたような顔で言う。まぁたしかに、今の僕はなんでもできると言っても過言ではないかもしれないね。
『よかったらこれを使いなよ』
僕はタオルと石鹸をブランカに手渡す。
「何この布?ふわふわしててすごく柔らかい。こっちは……シャボン?綺麗な花の形をしてて、とってもいい匂い」
ブランカが感動したようにタオルをにぎにぎしている。
「なんであなたがこんなの持ってるのよ?」
『貰い物だよ』
正確には貢物、献上品だね。神聖ルシウス神国で神として崇められていた100年間、王族をはじめ、貴族や商人たちから、いろいろと物を貰う機会が多かったんだ。それらの大半は、使われることもないまま僕の異空間の倉庫に入れっぱなしになっていた。丁度良い機会だから、これからはどんどん活用していこうと思う。
「貰い物……ほんとに使っちゃっていいの?自分で言うのも恥ずかしいけど、今のあたし、めっちゃ汚いから、この高そうな布、思いっきり汚しちゃうわよ?」
ブランカが心配そうな顔で僕を見るけど、なにも問題は無い。
『いっぱいあるから使い潰しちゃっていいよ』
100年の間に、個人では使いきれないほど溜まっているからね。
「あなたがそう言うならいいけど……」
ブランカが“もったいない……”と呟くのが聞こえた。
今から体を洗うんだから、部屋をお風呂に改造しちゃってもいいな。
僕は部屋の右半分を50センチ程凹ませてお湯を張り、浴槽を造る。
「えっ!?何!?何なの!?」
急に現れた浴槽に、ブランカが驚きの声を上げる。事前に一言あった方が良かったかな。僕はブランカに事後報告する。
『お風呂だよ』
「お風呂って……」
ブランカが、なみなみと湛えられ、もうもうと湯気を上げるお湯に手を伸ばしながら言う。
「あったかい……これがお風呂…?お風呂なんて、普通はお貴族様か大商人でもなきゃ無理よ…?」
神聖ルシウス神国の神殿には温泉が湧いていたからあまり意識していなかったけれど、考えてみれば、お風呂には大量の水と薪が必要だから、庶民にはちょっと経済的に難しいかもしれないね。
どうやらブランカには初めてのお風呂になるようだ。これは最初からマナーをはっきりと教えた方が良いだろう。
『ブランカ、お風呂に入るマナーを教えてあげよう。まずは服を脱ぐんだ』
「え?あ、うん……」
ブランカが僕を見て一瞬思案した後、おずおずと服を脱ぎ始める。一瞬躊躇したのは、恥ずかしさからだろうか。ブランカの頬に朱が走った。
ブランカが茶色く薄汚れたノースリーブの膝丈ワンピースを捲り上げると、徐々にその白い裸体が露わになる。痩せ細った太ももに、脚の付け根、無毛のお股に鼠蹊部。夕食を食べたからか、少し膨らんでいるお腹にあばらのくっきり浮いた脇腹。本人曰く、少しは膨らんでいるらしい平坦な胸。痩せ過ぎててくっきり骨や筋が浮いている裸体は、色気を感じる前に心配になってしまう。
『……なんでパンツ穿いてないの?』
思った以上に痩せ細ったブランカの体に言葉を失い、つい素朴な疑問が口から出てしまった。なんで膝丈ワンピースなのにノーパンなの?痴女なの?
「パンツ?ああ、都会のお金持ちだと穿く人もいるみたいね。でも、田舎の貧乏人は基本穿いてないわよ」
そういうものなんだ…?パンツって基本的に全員穿く物だと思っていたよ。
そういえば、巫女に選ばれるのは貴族や大商人の娘だったもんな。僕と今まで接してきた女の子は皆パンツを穿いていたけど、彼女たちは皆、金持ちの娘だ。パンツを用意する余裕があったのだろう。ブランカの言葉が事実なら、この世界ではノーパンの方が一般的なのかもしれない。
衝撃の事実にカルチャーショックを受けていると、ブランカが手やタオルで股間や胸元を隠しながら言う。
「あんまりジロジロ見ないでよ……」
見ていたつもりは無いけど……その恥ずかしがる姿はいいね。恥ずかしがる女の子はいいものだ。グッとくる。やっぱり恥じらいは大切だな。
『ごめんごめん。じゃあ体の汚れを流しちゃおうか。桶は無いからシャワーで流しちゃおう』
天井から温水のシャワーを降らせると、ブランカが髪や体を手で流し始めた。
「このシャワーっていうの温かい雨みたいね。なんだか気持ち良い」
シャワーを浴びるブランカを見て思う。濡れた裸体って、なんでこんなに魅力的に映るんだろうね?
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