第61話 解体ドラゴン
「ルーを解体なんてさせません!」
「クー!クー!」
そうだ!そうだ!
「半分!半分だけでいいから!」
半分解体って何だろうね?活け造りとかかな?
「ダメです!」
ブランカが断固とした態度で老人の願いを断ち切った。
「そんなぁ……」
男は意気消沈したようにしゃがみ込む。
「あの、買取をお願いしたいんですけど……」
「ドラゴンの!?」
男が元気にキラキラ笑顔で顔を上げるが……。
「違います。ビッグボアです」
ブランカの言葉に、またしょんぼりと顔を俯かせる。
「はぁ……。ビッグボアか……。で?ブツはどこにある?」
男がひどくやる気が無さそうに、ふらりと立ち上がった。この男で大丈夫だろうか?そんな心配までしてしまう。
「ルー、出して」
「クー!」
ブランカの指示に従って鉄の台の上にビッグボアを出すと、男が目と口をポカンと開けた間抜け面を晒した。
「なんじゃこりゃ!?」
そんなに驚かなくても……そう思ってしまうほどの驚きっぷりだ。
「これが…これがドラゴンの魔法か…!?」
「そうです!」
「クー!」
なぜかブランカも一緒に誇らしげに胸を張っている。
男が恐る恐るといった感じにビッグボアへと手を伸ばした。
「すげぇ…まだ温かい、心臓が動いてやがる…!」
心臓動いてるんだ。僕もビックリである。中の時間を止めていたし、そういうこともあるかな。
「時空を操るなんてマネ、只のドラゴンにできるわけがねぇ。もしや、とんでもねぇドラゴンなんじゃあ……?」
まるで信じられないものを見たような目で僕を見て呟く男。男からは僅かに畏れおののくような気配を感じた。
神龍だよって言ったら驚きのあまり、そのまま逝っちゃうかもなぁ……。
◇
「バラしてみっから待ってろよ。おーい!」
男が人を呼ぶと、数人がかりでビッグボアを解体し始める。動物の解体なんて初めて見るけど、意外と淡々と行われる。それに、血飛沫が上がるなんてこともない。たしかにドクドクとけっこうな量の出血はあるけど、血が飛び散るスプラッタな感じではなかった。なんていうか、もう作業といった感じがしっくりくる光景だ。
「傷も病気も無い。キレイなモツだ。肉厚だし、おまけにメスだ。運が良いな。こいつは高値が付くぞ」
僕にはよく分からないが、高値が付くらしい。やったね!
「解体の手間賃や骨やモツの処理賃を差っ引いて、金貨12枚ってとこだな」
「金貨!?」
金貨12枚が適切な値段かどうか分からないな。ぼったくられてる可能性もあるけど……。金貨ってことに驚いてるくらいだ、ブランカもビッグボアの相場とかは知らなそうだな。
「それでいいか?」
男の言葉に、黙ってぶんぶんと首を縦に振るブランカ。どうやら値上げ交渉とかはしないらしい。
「金貨じゃ使いにくいだろ?半分大銀貨でいいか?」
またも黙ってぶんぶん頷くブランカ。完全に相手の言いなりだけど、これでいいのかな?
『ブランカよかったの?値上げ交渉とかしなくて』
「だって金貨よ!しかも12枚も!」
うーん……たしかに金貨は高価なのだろうが……今のブランカの様子は、騙されていないか心配になるレベルだな。完全に金貨に目が眩んでいる。
「こっちに来い。おーい!会計だー!」
男に呼ばれるままに解体所の奥へと行くと、カウンターテーブルがあり、奥から受付嬢が現れた。
「えーっと……金貨6枚と大銀貨120枚ですね。少々お待ちください」
そう言って奥へと戻っていく受付嬢。
金貨6枚で大銀貨120枚か。金貨1枚で大銀貨20枚になるらしい。
『大銀貨って普通の銀貨とはどれぐらい違うんだ?』
「全然違うわよ。大銀貨1枚で銀貨3枚分の価値があるの」
大銀貨1枚で銀貨3枚……。金貨1枚で銀貨60枚になるのか。計算が面倒だな。
『銀貨は銅貨何枚分の価値があるんだ?』
「銅貨10枚で銀貨1枚よ」
『なるほど……』
ここは分かりやすいな。
『つまり、金貨1枚で銅貨600枚分か……』
ブランカが薬草を採取して稼いだ金額が銅貨6枚だから、ビッグボア1匹で薬草を採取する1200倍の儲けがあるわけだ。ブランカが興奮するのも分かるな。というか、薬草安すぎるのでは…?
「あなた計算ができるの!?」
ブランカがめちゃくちゃ驚いている。え?そんな驚かれる?単純な掛け算だよ?
『簡単な計算だよ?』
「あたしには無理よ……」
『えー……』
もしかして、ブランカって学力低い?それとも計算が苦手なだけ?
『ブランカ、足し算は分かる?引き算は?』
「……指が足りるなら」
つまり、指を折って数えないと計算ができないのか……。
『文字は読める?書ける?』
「どっちも無理よ……。そんなのお貴族様か商人の子どもくらいしか分からないわよ?」
『そうなの?』
学校……は無いにしても、寺子屋的なサムシングは無かったのかな?
「だって農民には必要無いものだったんだもん……」
ブランカが拗ねるような口調で言う。そんなブランカはかわいらしいけど、どうやらブランカはヤバイレベルで学力が低いらしい。いや、学力が云々というよりも学ぶ機会すら与えられなかったみたいだ。
そして、ブランカはどうやら農民の娘だったようだ。それがどうして冒険者なんてやってるんだろう?訊いていいのかな?重い話になったらアレだから、落ち着いたら訊いてみよう。今は保留の方向で。
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