第60話 冒険者ギルドとドラゴン
ブランカの言葉に前を向けば、石造りの大きく立派な建物の前だった。盾をバックに剣と杖が交差したシンプルな紋章の看板が掲げられている。ここが冒険者ギルドかな?
「いくわよ…!」
気合を入れるように呟き、ブランカが冒険者ギルドの大きな扉を開け、中へと足を踏み入れる。
「それで、ホセの野郎が……」
「ヒカリゴケの採取?割に合わねぇよ」
「最近ゴブリン共が……」
「このクエストはどうだ?」
「リザードマンの奴らを……」
冒険者ギルドの中に入ると、むあっとした熱気と活気、血と鉄と油の臭いを感じた。なんだか華やかさの欠片も無い泥臭い臭いだ。もしかしたら、これが本当の冒険の臭いなのかもしれない。
そして、その臭いの源の冒険者だ。皆、思い思いに武装した剣呑な姿だ。歌舞伎者を連想させるような派手派手しい冒険者も居る。
ふむふむ。皆、ちゃんと装備が整っているね。まさに想像していた冒険者の姿だ。やっぱりブランカの装備だけがとりわけ貧弱らしい。
冒険者ギルドに入ってすぐのロビーの右側にはカウンターテーブルが並んでおり、受付嬢たちが冒険者たちの相手をしているのが見える。ロビーの奥では、いくつもテーブルが並んでいるが、冒険者の姿で埋まっていた。料理も出されているのか、食事中の冒険者の姿も見える。
「………」
ブランカは、何も言わずに静かにカウンターの列へと並ぶ。だが、目敏い者というのはどこにでも居るものだ。
「おい、あれ」
「今日も来たのか」
「まだ生きてたとはねぇ……」
徐々に冒険者の視線がブランカに集まりだす。
「あの白いのいつまでもつか賭けねぇか?」
「お前、パーティに入れてやれよ」
「やだね。パーティの運が下がったらどうするんだ」
「そりゃそうか」
ブランカは顔を俯かせて耐えるばかりだ。その顔は能面のように無表情だ。
「クー…」
僕は首を伸ばしてブランカの頬を舐める。
「ふふっ。くすぐったいわ」
そう言って小さく笑顔を見せるブランカ。
「大丈夫よ。気にしてないわ」
強がるブランカを見ていると、なんだか胸が痛い。励ますようにぺろぺろとブランカの頬を舐める。……それにしても、女の子の顔を舐めても怒られないなんて、ドラゴンってすごいね。やっぱりかわいいは正義なのだな。自画自賛するようだけど、今の僕はかわいいドラゴンだからね。つまり、僕は正義なのだ。
「なぁ、アイツ何か持ってないか?」
「でかい…トカゲか…?」
「……まさかな」
そして、ついにブランカの番が回ってくる。
「いらっしゃいませ。本日はどんな御用でしょうか?」
ニコリと笑って対応してくれる受付嬢ちゃんは癒しだね。ブランカへの暴言に荒んだ心が、落ち着きを取り戻していくようだよ。
「薬草の買取と、ビッグボアの買取をお願いします」
ブランカの言葉に、受付嬢ちゃんが不思議そうな顔をする。
「ビッグボア…ですか?1人で…?…いえ、魔獣の買取カウンターなら外ですよ?」
「そうなんですか……」
ブランカの頬にサッと朱が走る。知らなかったことが恥ずかしかったのだろう。
「じゃあ薬草の買取お願いします……」
そう言うブランカの声は先程よりも小さかった。どうやらブランカは恥ずかしがり屋さんのようだ。
◇
薬草の買取金額は、銅貨6枚だった。これが高いのか安いのか分からないけど、大した金額ではないことは分かる。だって、さっき屋台で肉の串焼きが銅貨2枚で売っていた。これでは3本しか買えないし、3本では1食分にも満たない量だ。銅貨6枚では、食費も賄えないのだろう。ブランカが痩せ細っている訳だ。
「こっちかな…?」
ブランカに抱っこされたまま冒険者ギルドの裏に回ると、咽返るような濃い鉄錆びの臭いと血生臭い獣の腸の臭いが出迎えてくれる。気持ちが悪くなる臭いだ。僕は鼻がいいからね。こういう時はかなり辛い。
「グー…」
思わず唸ってしまうぐらい辛い。けど我慢だ。目的地は間違い無くここだからね。
冒険者ギルドの裏口は、大きなガレージのような造りになっており、中央に大きな鉄の台が鎮座していた。壁には大きな刀のようなナイフやノコギリ、ペンチやハンマーなどが吊るされている。なんだか思った通りの解体場だ。
「んだ?」
解体場の中に居た初老の男が僕たちに気がついた。
「あの……」
「おいおいおいおいおいおいマジかよ!」
ブランカの声を無視して勝手にヒートアップしながら近づいてくる初老の男。その目は大きく見開かれ、僕を見ていた。なにコイツめっちゃ怖いんだけど!?
「ドラゴン、ドラゴンだ。お前、ドラゴンだろ?」
男の手が僕に届くその寸前。ブランカが僕を庇うようにギュッと抱きしめた。
「あの!」
ブランカの声に、やっと男が反応する。
「あんたが捕まえたのか?やるじゃねぇか!バラすんだろ?オレにやらしてくれよ!」
男がブランカを拝むように懇願し始めた。
バラすって、コイツ僕を解体する気かよ!?
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