第62話 換金ドラゴン
「お待たせしました」
ピッチリ冒険者ギルドの制服を着こなした美人な受付嬢さんが奥から戻ってきた。その手のトレイの上には、わりと大きな麻袋が載っているのが見えた。
「こちらが今回の報酬になります。ご確認なさいますか?」
「はい!」
ブランカが喰い気味に応えて、受付嬢さんがニコリと笑いながら、トレイの上に麻袋から取り出した硬貨を並べ始める。並べ慣れているのか、その手際はとてもよかった。トレイの上に金貨が6枚並べられ、大銀貨の10枚の塔が12本建つ。
「金貨が6枚、大銀貨10枚が12セットで120枚になります」
「………」
受付嬢さんの言葉に難しい顔を浮かべるブランカ。どうしたんだろう?
「合ってる…?」
ブランカが僕を顔に抱き寄せると小声で問いかけてきた。簡単な計算だと思うんだけど……ブランカには分からなかったようだ。
『合ってるよ。数えてくれた受付嬢さんにお礼も忘れないでね』
そう答えると、ブランカが大きく頷く。
「ありがとう!」
「いえいえ」
受付嬢さんが硬貨を麻袋に戻すと、ブランカにトレイごと差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう!って重っ!」
麻袋を片手で持ち上げようとしたブランカが驚きの声を上げる。まぁ硬貨って言っちゃえば金属の塊だし、それだけ大量だと見た目以上に重いよね。3キロぐらいあるんじゃないかな?
『僕が仕舞っておこうか?』
「ビッグボアみたいに?」
『そうだよ』
ブランカは、一瞬目を伏せて考える素振りを見せる。
「いいわ。この後すぐに使うし」
『そう?』
ブランカはすぐにお金を使うようだ。たぶん、ご飯でも食べるんだろう。もう夕日も沈みかけてる。晩ご飯の時間だ。
◇
冒険者ギルドでビッグボアを売った後、僕とブランカは飲食店が建ち並ぶ繁華街へとやって来ていた。まぁ繁華街と言っても外れの方のちょっと寂れたエリアだ。ちょっと治安が心配なエリアでもある。ブランカはこんな所に来て何をするつもりなのだろうか?
「ねえ」
そのブランカから声がかかる。
『どうしたの?』
「これ……」
ブランカが僕に差し出してきたのは金貨や大銀貨の入った麻袋だ。
「やっぱりルーが持ってて。こんな大金持ってるのが怖い。みんなあたしを狙ってるんじゃないかって疑って疲れちゃう……」
ブランカにとっては大金のようだし、緊張してしまうのも分かるかな。僕にも人間の時同じような経験したし。
『分かったよ』
僕が硬貨の入った麻袋を異空間にポイッと仕舞うと、ブランカがホッとした表情を見せた。これで盗まれることは無いからね。
その後、ブランカは目的地が決まっているのか、その足取りは軽く澱みない。そして、たどり着いたのは、場末のスナックみたいな雰囲気の小さなお店だ。店の名前は【胡蝶の夢】と云うらしい。何屋なんだろう?なんでこんな場所に来たんだ?
しかし、ブランカは僕の疑問などお構いなしに、店へと入っていく。
「マリアさん!」
「ん?なんだい、あんたかい」
ブランカにマリアと呼ばれた店主は、40歳過ぎぐらいのおばちゃんだった。しかし、すごく色気のある綺麗な顔立ちをしている。これが美魔女ってやつかな?きっと若い頃は相当モテただろう。
「今日もパン粥を食べに来たのかい?」
マリアの口ぶりだと、ブランカはこの店の常連らしい。
「うん!」
ブランカが元気よく頷くのを見て苦笑するマリア。そうだね。パン粥でそんなにご機嫌になれるブランカには苦笑いしか浮かばない。
『ブランカ、お金はあるんだ。もっと良い物を食べたらどうだ?』
「え?うーん……」
ブランカが唸りながら悩む素振りを見せる。そんなに悩むことか?
「なんだいあんた?!でっかいトカゲ……でも、空飛んでるし……ひょっとして、ドラゴン?」
マリアが僕を見て目をまん丸にして驚いている。その姿が幼く見えて、まるで少女のようだ。
「クー!」
マリアに頷いて応え、僕はブランカに要望を出す。
『ブランカ、僕もご飯を食べたいな』
「え?あぁそうよね。あなたもご飯食べるわよね」
ブランカが今気付いたような反応をする。これ、僕が言い出さなかったらご飯抜きになってたんじゃ…?
「でも、ドラゴンって何食べるの?」
『今日はお肉の気分かな』
僕の答えにブランカが難しい顔をする。
『どうしたの?』
「あなたもパン粥食べない…?」
『え?』
「お肉って高いのよ……」
そりゃパン粥に比べたら高いだろうけど……。
『お金はあるんだから、お肉でもいいんじゃない?むしろブランカもお肉食べなよ。君は痩せすぎだ。心配になるレベルだよ』
「え!?でも、お金は使うと無くなるのよ?!」
そんな当たり前のことを叫ぶブランカ。僕はその姿にピンとくるものがあった。もしかしてだけど……ブランカって極度の貧乏性なんじゃないだろうか?
ブランカの痩せ細り、やつれた顔を見て思う。こんな姿になるまで満足に食べることもできなかったら、そりゃお金の大事さは骨身に染みるほど分かるよね……。もしかしたら、お金を使うことに恐怖すら感じているかもしれない。
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