第58話 従魔ドラゴン
森を出ると、遠くに立派な城壁が姿を現す。まるで万里の長城を思わせるような長大な城壁だ。上空から見ると、城壁が少し歪んだ弧を描いているのが分かる。円ではなく弧だ。だいたい半円くらいかな。こちら側から見ると、立派に見える城壁だが、実は後ろ半分はまだ未完成なのだ。それだけ、新しくできた街なのかもしれない。
『あれがモントーヤの街?』
分かっているけど、一応ブランカに尋ねる。
「そうよ。冒険者最前線の街とか、人族最南端の街とか、いろいろ云われてるわ」
今しれっと重要なワードが飛び出たな。
『ここが人族の住んでる最南端なの?』
「らしいわよ。あたしもそんな詳しくは知らないけど」
たしか、神聖ルシウス神国が、人族の生存圏の西部の中央だったから……案外、お家は近いのかも?
でも、神聖ルシウス神国の西には海があったはず……。人工衛星のように打ち上げた“神の目”には、未だに西に海が見えない。ずっと大地が続いている。どうやら、この大陸はかなり大きいようだ。人族の生存圏は、思ったよりも広いのかもしれない。
そんなことを考えていると、城壁に開いた大きな門へとたどり着く。門の周囲には、お揃いの黒地に赤のストライプの入った服を着た槍を持った人たちが居る。たぶんこの門を守る兵士かな?
「止まれー!」
兵士の1人から静止の声が告げられ、僕達は大人しく止まった。
「なんだ?アレは?」
「トカゲ?」
「だが、飛んでるぞ?」
「まさか、ドラゴン?」
兵士たちは、僕たちを遠巻きにしていた。なんだかすごい注目を集めているな。やはりドラゴンは珍しいらしい。
やがて、兵士の中から鎧も身に着けた人物が僕たちの前に現れた。兵士たちの隊長さんだろうか?
「お前か……。そのドラゴンの子どもは何のつもりだ?街への魔物の連れ込みは禁じられているぞ」
やっぱり魔物は街に入れないらしい。
「あたしの従魔?にしようと思って……冒険者ギルドで手続きしたいんだけど……」
「お前、獣使いだったのか…!?」
隊長らしき男が、驚いた様子を見せる。もしかしたら、獣使いは珍しいのかもしれない。
「白いのが獣使い?何の冗談だ?」
「しかも、ドラゴンの子どもをテイムだと…!」
「
兵士たちが、ざわざわと騒ぎ出す。聞いていると、あまり良い反応ではない。ドラゴンである僕を危険視しているのかと思ったけど、少し違うようだ。どちらかといえば……。
「冒険者ギルドの職員を呼んで来い!」
「隊長!?」
隊長の言葉に、兵士が驚きの声を上げる。
「この娘は冒険者だ。冒険者ギルドとの関係を拗らせたくはない」
なんだか嫌々だけど仕方なくって感じだ。なんだか態度の悪い兵士たちだな……。
◇
『ここがモントーヤの街か…!』
冒険者ギルドの職員さんに、僕がちゃんとブランカの言うことを聞くのかチェックが行われ、僕は無事に従魔として認められた。人間の言葉が分からない魔獣なら難しい試験も、僕ならば余裕でクリアできるのだ。僕は見事、従魔の証として赤いスカーフを手に入れ、首に着けた。これを着けていれば、人に襲われることもないだろう。
冒険者ギルドの職員さんも、ドラゴンの僕には驚いていたな。そして興奮していた。子どもでもドラゴンをテイムできるなんて、なかなかあることじゃないらしい。
夕日に照らし出されるモントーヤの街は活気に満ちていた。広場をひっきりなしに行き交う人々や荷車。広場の隅には無数の屋台が軒を連ね、客の呼び込みに声を上げている。大道芸をしている人もいるね。とにかく賑やかだ。
“神の目”で先に見て知ってはいたけど、自分で直接見るのとでは感じ方が違うな。まるでお祭りのような盛り上がりに、なんだかわくわくしてくる。“神の目”だと、テレビ越しに見てる感じなんだよね。盛り上がってることは分かるけど、場の空気感までは伝わってこないというか、冷静に見られる。
「まずは冒険者ギルドに行きましょう。こっちよ」
『はーい』
ブランカの後について飛んでいく。
「何だ!?」
「飛んでやがる!?」
「まさかドラゴン!?」
「マジもんのドラゴンかよ!?」
僕はすごく注目を集めていた。やっぱりドラゴンはとても珍しいらしい。皆、驚いている。
「見ろ!従魔の証を着けてやがる!」
「マジかよ!?誰の従魔だ!?」
「でもなんか小さくねぇか?」
「まだ子どもなんじゃない?」
これだけ注目を集めると、なにかした方がいいのかな…?
「クァアアアアアアア!」
僕はとりあえず上空に青い炎のドラゴンブレスを放った。
「ドラゴンブレス!?」
「すっげー!」
「小さくてもドラゴンってことかよ…!」
「やべぇな…!」
神聖ルシウス神国の民なら、僕がパレードでドラゴンブレスをすれば大盛り上がりなんだが……いまいち盛り上がりに欠けるな。
「ちょっとルー!何やってるのよ!人は襲わない約束でしょ!?」
『盛り上がるかなと思って……』
僕の答えを聞いて、ブランカが呆れたようにため息を吐いた。
「いい?街中でブレスなんてしちゃダメよ?従魔として認められなくなっても知らないんだから!」
『わかった。ごめんよ……』
冒険者ギルドの職員さんに、あまりに危険だと判断されれば、従魔として認められないこともあると言われていた。何か期待されているようで、ついやっちゃったけど、こういう行動は慎んだ方が良いだろう。反省だ。
「おい見ろよ、あの白いの」
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