第55話 スパコンドラゴン
深い森の上をバサバサと飛びながら思う。なんとか大地に辿り着いたけど、いったいここはどこなんだろう?どっちに行けば正解なんだ?現在地も目的地である神聖ルシウス神国の場所も分からない。地図が欲しい。欲を言えばGPSのような物が欲しい……。在るわけないかGPSなんて……。
「クッ!」
無いなら作っちゃえばいいじゃない!
僕はさっそく“神の目”を創り出すと、それを上空へと飛ばす。この“神の目”は、まるでそこにカメラがあるかのように視界を確保し、周囲の光景を見ることができる魔法だ。“神の目”という本体が在るわけではなく、自由に動かせる視界を創造する魔法である。
この“神の目”で、遥か上空から人工衛星のように地上の地理を確認すればいいのではないだろうか?これなら迷子になる心配も無さそうだ。時間はかかるだろうけど、目的地である神聖ルシウス神国を見つけることができるだろう。
僕は、“神の目”を創っては様々な方角の上空へと飛ばしていく。遥か上空から地上を見つめる人工衛星のような使い方をできるし、偵察用のドローンのような使い方もできる。たしかパパドラゴンが言っていたっけ。『魔法に必要なのは自由な発想』だって。自分で言うのも恥ずかしいけど、この“神の目”の使い方は我ながら賢いのではないかと思う。
頭の中にいくつも“神の目”の視界が浮かび、それらの情報を元に、頭の中に詳細な地図を描いていく。人間であった時にはできない芸当だろう。この神龍という体は、体はもちろん頭もハイスペックだ。なんて例えればいいのか……頭の中に高性能なパソコンがある感じなのだ。特に記憶力や演算能力という点では、人間には不可能なのではないかと思うほど、正確に処理できる。我がことながら、本当に生物なのか疑わしくなるほどだ。
頭の中でマッピングをしながら飛んでいると、人工物を見つけた。そこそこ大きな街だと思われる。視界を拡大して確認していくと、立派な城壁を備えた都市のようだ。街の中を闊歩しているのは、人間に見える。けれど、神聖ルシウス神国の人間の白い肌とは異なり、褐色の肌を持つ人間たちだ。黒人というよりもアラビア人といった感じだね。
人里が見つかってよかった。今の僕はドラゴンだけど、人の姿を見るとやっぱり安心する。僕の魂はまだ人間ということなのだろうか?もう人間として生きた時間よりも、ドラゴンとして生きた時間の方が長くなっているのだけど、まだまだ根は小市民の人間のままだ。
友好に接してくれるかどうかは分からないけど、とにかく人間の街に行ってみよう。
僕は翼を羽ばたかせると、人間の街の方角へと飛んでいくのだった。
◇
もうすぐで人間の街という所で、ヤバイ現場を見つけてしまった。森で少女とイノシシが対峙している。
その少女の格好が問題だ。普通の村娘みたいな軽装、言葉を飾らずに言うなら、継ぎ接ぎだらけのシンプルな作りのボロを身に着けた貧民と思われる少女だ。手には木の棒の先に包丁を括り付けただけの手製の槍を持っており、一応武装はしているが、そんな装備で大丈夫か?
少女自身も分が悪いと分かっているのだろう。槍を構えてはいるが、へっぴり腰だし、脚が震えている。どうみてもイノシシ相手に勝てそうにない。
対するイノシシは立派な牙を持つ大柄なイノシシだ。たぶん100キロは軽く超えているだろう。気が立っているのか、前足で地面を掻くと、少女へと突進を開始した。
テュンッ!
突進を開始したところで、イノシシは何かに躓いたかように転んだ。
「ヤァアッ!」
イノシシは、転んだまま少女の前まで滑ると、そのまま動かなくなる。少女はイノシシが突進してきたことに反応すると、避けるどころか、手製の槍をイノシシの顔に向かって突き出していた。うん。介入してよかったね。危うく少女がイノシシに撥ねられるところだった。
僕は、イノシシが突進を開始した時点で、イノシシの脳天をドラゴンブレス改で貫いていた。少女がイノシシに勝てるとは思えなかったためだ。さすがに人が死ぬのを見過ごすことはできなかった。
それにしても、イノシシの突進に正面から挑むとか、この少女の胆力すごいな。普通は避けるなり、もしくは恐怖で動けなくなると思うんだけど……。
「いったい何が…?さっき見えた白い光は何…?」
少女が周りをキョロキョロと見渡している。
「誰かの魔術…?あたし、助けられたの…?」
さすがに自分の槍の一撃でイノシシを倒せたとは思わないらしい。まぁそうだよね。そんな貧弱な槍の一撃で倒せるほどイノシシは弱くない。
「誰か居るの?出てきなさい!」
どうしようかな?
このままスルーすることもできるけど、この地の人間がドラゴンに対してどんな対応を取るのか見るためにも会っておこうかな。ドラゴンに好意的だといいんだけど……。
僕はゆっくりと高度を落として少女に近づいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます