第37話 ドラゴンブレス

 魔力ってそもそも何?


 魔力に関して何も分からない僕。当然、魔力の操作どころか、魔力の感知さえできなかったのだが……。


 カカカカカカカカカッ!


 目の前を高速で走り抜けるのは、魔力を注ぐと動く騎士の人形だ。クレアが魔力を注いだ時は、カション、カションと一歩ずつ歩いていたのに、僕が魔力を注いだら、高速で脚を動かしてカカカッと走り始めた。あ、壁にぶつかってこけた。


 習得には時間がかかるだろうと思われていた魔力操作だけど、意外と簡単にできてしまった。理由は簡単。僕が前世の記憶を持っているからだ。


 前世の僕は、魔力なんて持っていない普通の人間だった。だから、体に魔力が無い状態を知っている。その前世の体に魔力が無い状態と、今のドラゴンの体の状態を比べてみると、鼓動とは別の熱い何かが体を流れているのが分かったのだ。


 試しに、この熱いものを騎士の人形にちょっぴり流し込むと、騎士の人形は足を高速でバタバタと動かし始めたのだ。どうやら、この熱いものが魔力で合ってるらしい。僕は、転んだままいまだに足を高速でバタバタと動かしてる騎士の人形を見て確信した。


「すさまじい魔力ですね。さすがはドラゴンといったところでしょうか……」


 転がった騎士人形を半ば呆然と見ながらクレアが呟く。よく分からないけど、どうやら僕の魔力はすごいらしい。なんだか褒められたようで嬉しい。


 一度感知できれば、魔力は自由自在に動かすことができた。なんかいろいろできそうだ。


 ドラゴンといえばやはりドラゴンブレスだろう。ということで、試しに炎をイメージして口から魔力を少し吐いてみた。


 シュボォオオオ!


 口から30センチ程青い炎が走る。ノリでやったら本当にできちゃった。


「ルー様!?」


 クレアの驚く声が部屋に響いた。そうだね。いきなり口から炎を吹いたら驚いちゃうね。それどころか、危険な猛獣と判断されて殺処分とかあるかもしれない。ヤバイ。


「ク、クー、ク~♪」


 僕は媚びた。クレアを上目遣いで見て、必死に無害アピールをする。大丈夫。怖くない、怖くない。ボク、イイドラゴン。トモダチ。


「クレア?どうかしたのですか?」

「先程青い何かが見えたような……」

「いったい何なの?」


 ヤバイ。おもちゃを片付けていた他のメイドさんたちも集まって来ちゃった。


「今…ルー様が……」


 クレアの言葉にメイドさんたちの視線が僕へと集まった。


「ルー様が?」

「何かしたの?」

「クル~クッククル~♪」


 僕はどうにか誤魔化せないかと歌いながら踊る。殺処分は嫌だ。


「今、ルー様が口から炎を…!あれが噂のドラゴンブレスでしょうか!」

「えっ!?」

「ブレスを!?」

「そんな…!?」


 メイドさんたちの視線が僕へを絡み付く。その目には恐怖の色が浮かんで……いない?


「ルー様のドラゴンブレスは初めてではないですか?ああ!どうして見逃してしまったのでしょう」

「ドラゴンのブレスなんて物語のようですね。クレアさんだけ見られるなんてズルいです」

「ねぇ、ルー様。もう一回。もう一回だけでいいから私にも見せて」


 あれ?怖がられてない…?メイドさんたちは、むしろウキウキしたような顔をしている。ヴィオなんてもう一回やってと僕にせがんでくるくらいだ。


 なんか思ってたのと反応が違うな。普通、ペットがいきなり口から火を吹いたら怖がるものじゃないのか?


「ねぇ、ルー様。もう一回。もう一回」

「ヴィオ、そうルー様に強請るものではありませんよ」


 おねだりするヴィオをクレアが窘める。


「クレアは見れたんだからいいじゃない」

「そうですよ。できることなら私たちも見てみたいです」

「ルー様、お願いできませんか?」


 なぜかは分からないけど、ヴィオもティアもアンネも怖がるどころか、僕のドラゴンブレスが見たいようだ。僕としては、怖がられないのは嬉しいからいいんだけどさ。殺処分ということもなさそうだし。


 もしかしたら、僕がドラゴンだから、ドラゴンブレスくらいできるだろうと、とっくに予想されていたのかもしれない。それぐらいクレアたちの顔には忌避感は無い。


「ルー様、お願い」

「せめて、もう一度だけ」

「よろしければお願いします」


 こうまで求められると、応えないわけにもいかないな。僕は口をカパッと開くと、先程の青い炎をイメージして魔力を少しだけ口から放つ。


「クァー!」


 シュボォオオオオオオオオオオ!


 僕の口から青い炎が走る。その長さは30センチ程、ガスバーナーのように勢いのよい炎で、ビームのようにも見える。室内だからね。これでも出力は抑えめだ。


「これが…!」

「ドラゴンブレス!」

「青い炎なんて初めて見ました!」

「すごいすごい!」


 メイドさんたちは大喜びだ。まるで、大道芸でも見たかのような反応だね。ともあれ、怖がられていないようで良かったよ。



 ◇



 その後、クレアから報告を受けたアンジェリカも僕のドラゴンブレスを見たがったので披露した。僕のドラゴンブレスを見て、アンジェリカも大喜びだった。


 怖がられるよりも良いけど、なぜ喜ばれるのか謎だ。娯楽の少ない世界だから、大道芸を見たような面白さがあるのかな?

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