第36話 おもちゃドラゴン
「こちらがルー様のお部屋になります」
クレアに案内されて着いたのは、そこそこ広い離宮の一室だった。白い壁に木のフローリングのお部屋だ。床には赤みがかった茶色い毛並みの2つの頭を持つ大きなクマの毛皮が敷かれ、部屋の中にはいくつもカラフルな箱が積んである。
今回、僕用の部屋が用意されたのには理由がある。また王様や宰相、先生から僕宛てに大量に贈り物が届いたのだ。僕への贈り物をアンジェリカの部屋に置くわけにもいかず、こうして僕用の部屋が用意されたという訳だ。
贈り物と聞いて、また高価な物が贈られるのかと戦々恐々としたけど、今回は子ども用のおもちゃが主らしい。また扱いに困るような高価な物じゃなくてホッとしているよ。
「ルー様、さっそく贈り物の確認を致しましょう」
「クー」
僕が部屋に入ると、メイドさんたちがテキパキと動き出す。
「ルー様はこちらでお寛ぎください」
僕は寛いでいていいらしい。まぁ僕がメイドさんたちを手伝おうとしても、かえって邪魔になるだけだろう。僕は言われるがままにクマの毛皮の上にポフッと腰を下ろした。
それにしても、なんでこのクマの毛皮には頭が2つも付いてるんだろう?こういうクマでもいるのだろうか?
「ルー様、こちらをご覧ください。こちらは国王陛下よりの贈り物です」
僕の目の前に置かれたのは、僕と同じくらいの大きさがあるクリーム色のクマのぬいぐるみだ。テディベアってやつかな。首のリボンや、つぶらな黒い瞳がかわいらしい。
「こちらも国王陛下からです」
そう言って置かれたのは、先程のテディベアより二回りほど小さいテディベアだった。王様は、テディベアの親子を僕に贈ってくれたらしい。
「これはこちらに置いておきますね」
テディベアの親子が、僕を挟むように置かれる。
「まあ!かわいらしいです」
「本当に」
「まとめて抱きしめたくなるかわいらしさです」
「分かります」
テディベアの親子に挟まれた僕は大人気だった。ちょっと気分が良い。僕は更にかわいく見られたくて、小さいほうのテディベアを抱っこして、無邪気にテディベアの手を動かして遊んで見せる。
「ふふっ。気に入られたのかしら?」
「ルー様、かわいい」
「皆さん、手が止まっていますよ」
ふふふ。僕のかわいさに見惚れていたようだな。我ながらあざといことをしてしまったものだ。
「ルー様、こちらはハーゲン翁から頂いたゴーレム人形になります」
ゴーレムって響きが最高に異世界っぽくて惹かれるものがある。
クレアが持っていたのは、フルプレートの全身鎧を着て、槍と盾を持った騎士の人形だった。大きさは僕の半分くらい。そこそこ大きく、そして精巧な人形だった。
「こちらのお尻に在ります銀色の部分に魔力を注ぎますと……」
クレアが人形をフローリングの上に立たせると、人形のお尻を触る。
すると、人形がカションカションと音を響かせながら歩き始めた。電池で動くおもちゃみたいな感じだ。クレアの言葉から察するに、魔力で動いているのだろう。いったいどんな仕組みなんだろう?
人形はしばらく歩くと止まってしまった。魔力が切れたのかな?
「このように魔力で動くゴーレムの人形となっております。主に子どもが魔力操作を覚える助けに使われるおもちゃですね。ルー様も魔力操作に挑戦してみてはいかがでしょう?」
そう言って、僕の目の前に騎士の人形を置くクレア。
僕にも魔力ってあるのかな?
ドラゴンだし、魔力を持っていてもおかしくはないけど、魔力ってどうやって操作するんだろう?
僕は目の前に置かれた騎士の人形を持ち上げると、お尻の銀色の部分に手を当てた。そして、自分の中にある魔力を人形に注ぐイメージで、ふんっと手に力を入れると、人形はピクリとも動かなかった。ダメかぁ……。
最初から上手くいくわけないか。何事も練習が必要だよね。まずは魔力を感知するところから始めよう。
僕が自分の中の魔力を探っている間も、次から次へと僕の前におもちゃが並んでいく。大きく精巧な造りのドールハウスとお人形や、大小様々なボール。馬の形をした揺り籠や、簡単なパズル。色鮮やかな積み木に、フランス人形みたいな豪華なドレスを着た精巧なお人形、小さな木の盾と木刀、小さなクロスボウのおもちゃ、大きな犬のぬいぐるみなどなど。
どれも小さな子供向けのおもちゃだ。そして、男の子用のおもちゃと女の子用のおもちゃが一緒に入っているのは、僕の性別が分からなかったからじゃないかな?実は僕も自分の性別って分からないんだよね。ドラゴンもオスとメスがあると思うんだけど、何が違うんだろうね?
「以上の品々が贈られてまいりました。何か気になるおもちゃはございましたか?」
クレアの問いに、僕は騎士の人形とバスケットボール大のボールを指す。
「分かりました。他の物は片付けてしまいましょう。こちらのゴーレム人形でお遊びになりますか?それともこちらのボールでお遊びになりますか?」
「クー」
僕は手に持った騎士の人形をクレアに見せた。
「かしこまりました。また動かしてみましょうか?」
「ウー」
僕は首を横に振ると、もう一度、魔力を出してみようと騎士人形のお尻に触る。だが、騎士人形はまったく動く気配が無い。これは時間がかかりそうだな……。
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