第4話
「どうしたの?」
「だって、こんなに広い場所なのに、ひかりちゃんの傘、すぐ分かっちゃった。目印にちょうどいいね!」
と笑いながら言う。
私は、もう一度観客席に目を向けた。
確かに、他の誰の荷物よりも、あのショッキングピンクの傘が目立っていた。
ステージからでも、ハッキリと自分の傘だと分かって、私も思わず笑ってしまった。
ナーバスになっていた気持ちが、ほんのりと和らいで、少しだけあの派手な傘に感謝した。
結局、中学三年間、私とショッキングピンクの傘とのお付き合いは続き、高校入学と同時にお役御免になった。
「ひかりねぇちゃん!カタツムリがいるよ!」
と叫んだカズ君の声で、私はハッと現実に引き戻された。
カズ君の指差す溝を見てみると、小さなカタツムリがうねうねと動いていた。
「ほんとだね~。小さいカタツムリだね~」
と何だかホンワカした気持ちで答えた。
私は思わず、カズ君に、
「カズ君は、その傘、好き?」
と聞いていた。
「うん!大好き!」
と満面の笑顔でカズ君は答えた。
私は、好きなものは好き!嫌いなものは嫌い!とハッキリ言える、今のままのカズ君で居て欲しいと心から思った。
「カズ君、おやつ食べたいな~」
「おうちに帰っておやつ食べよう!」
と私は言って、二人仲良く家路に着いた。
自分の差しているビニール傘を見て、
今度は、誰よりも私自身が大好きになれる傘を買おうと心に誓った。
ショッキングピンクの傘 青野ひかり @ohagichan
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