第3話

いつも、私と母の関係はこんな感じだった。オシャレが好きで、自己主張の強い母と、まだオシャレにさほど興味を持てず、自己主張が苦手で、自分の意見を言えない私。


「ひかりちゃんに似合うと思って。」

と言いながら、服やら小物やらを買ってくる母に、私はどうしても、

「それは好きじゃない。欲しいものは自分で選びたい」

と言う勇気がなかった。臆病だった。


案の定、ショッキングピンクの傘で学校に行くと、道行く人の視線が痛い。

友達ですら、

「派手だけど、可愛いねー」

とは言ってくれるものの、やんわり引いているのが伝わってきて、辛かった。


私はブラスバンド部だった。

コンクールの日、生憎の雨で、ショッキングピンクの傘を差しながら、部員達と会場へ向かった。

自分達が演奏するとき以外は、観客席で他の学校の演奏を聴くことになっていた。


聴くときの場所を確保するため、まず、友達と座席に荷物を置きに行った。

貴重品が入っているものは置けないので、私は傘を座席に立てかけた。


コンクールが始まる前、パーカッション担当の私は、スネア・ドラムやシンバルなどをステージの一番後ろに運んでいた。

ステージから見る、まだ誰もいない観客席は広々していて、緊張感が高まった。

大きな会場で、座席数も多く、

(ここにお客さんが入ったら、ますます緊張するな~。)

と不安になっていた。


そのとき、同じパーカッション担当の友達がクスクス笑い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る