十二姉妹
川谷パルテノン
カロン
もうこれは水ではないのかというほどに希釈したカルピスに想いを馳せた三万年。私は来る手紙を読まずに焼いて後悔を募らせた。近年の研究によればストレスという毒は一度蝕まれると死ぬまで寄生されるらしい。まったく恐ろしい話である。今日も
私には十一人の姉がいる。皆死んだ。死んだにも関わらず十一人はまだ居るのである。夜になるとガラス窓をわざわざ鳴らせて侵入してくる。「カロン、カロンや」と私の名を呼ぶ。ふざけるな。誰のおかげで私がこんなけったいな邸に住まわされていると思うのか。居たければ居ればいい。なら私を逃してくれ。蓄音機の針をおとす。姉達はこれがたいそう嫌いだった。
「カロンッッ やめてッ」
口々に悲鳴。とても気分がいい。私は踊る。肩が食器棚にぶつかって陶器の割れる音がする。椅子が転がって脛が痣をつくった。こんなにも愉しいのなら毎晩だっていいだぞバカ女共め。
「カロンッ カロンッ」
私はやめない。独りにした罰を思い知れ。かりそめの絆なんて犬も食わないさ。
目覚めると全身に痛みがある。はしゃぎすぎたろうか。片付けは面倒だが老い先と引き換えに指を鳴らして済ませよう。マルティアニマの呼吸を確認してカーテンを開けた。朝だ。旅行にでも、そんな思いつきは三歩先で過去になる。
十二姉妹 川谷パルテノン @pefnk
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