雨模様


 空港のロビーでハワイ行の便を待ちながら紗椰が見ているのは、天気予報のアプリ画面。画面に表示されている雨マークと同じように、紗椰の表情も雨模様になっていた。


「なぁ、彰。結婚式、雨降ると思う?」


「さぁ。降らないことを祈るしかないな」


「じゃあ祈って」


「お願いしまーす」


「ちゃんと祈ってよ!」


「いや、紗椰も祈れよ」


 挙式はニ月。二人が結婚した月に行われる。この時期にハワイで挙式をあげる理由としては、結婚してから一年の節目という意味もあったが、諸々の費用が安いということが大きかった。この時期のハワイは、局地的な大雨が振りやすい雨季だった。

 それを承知で二人はハワイ婚を決めたが、実際に挙式当日の雨予報を見てしまうと、流石に気分が下がってしまった。


 挙式は、ワイキキビーチを一望できるホテルの最上階にあるチャペルで執り行われる。そのチャペルからの景色はまさに絶景で、ハワイ婚に憧れるカップルが必ずと言っていいほど挙式の候補に入れる場所であった。だが、挙式当日が雨となると、綺麗な空や海が見れなくなってしまう。


 あと少し、待てばよかったかな。


 彰は奇妙なポーズでお祈りをする紗椰を横目に、ぼんやりと考えていた。この新婚旅行が終われば、退職日を迎える。彰は、転職を決めていた。余っていた有給休暇を使って、ハワイへ行くのだ。


 転職先の会社は、今の年収を大きく上回る。子供も作れるだろうし、贅沢なものでなければ家も車も買えるだろう。そして、死ぬまでかかる紗椰の医療費も、無理なく支払うことができるくらいの収入になる。

 ハワイ旅行のシーズンである乾季に、挙式をあげてもよかったかもしれない。それ位の費用なら、あと数年我慢すれば、恐らく貯金できただろう。

 だが、新しい会社がどんな職場環境か分からない。提示された賃金に嘘はないだろうが、残業や休日出勤が大丈夫かどうかを面接時にしつこく確認されたので、激務なのだろうとは予想していた。入社して数年で新婚旅行に行けるだけの休暇がとれるかどうか、分からなかった。特別休暇の制度くらいあるだろうが、彰は入籍してすでに一年経っているので、それが使える保証もない。ならば、行けるときに行っておくのがベストだと、二人で決断したのだった。


「あー、神様。私、晴れ女やから! お願いします!」


何故か祈りながら晴れ女を強調する紗椰を見て、自分が雨男だとは言えない彰であった。




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