第8話 生きてる方がマシ
週末の夜(なんて甘美な響きだろう)、4人の少女は通話を繋ぎ、オンラインでゲームをするにした。ゲームの上手さは、萌はかなり、幸乃はまずまず、飛鳥はそこそこ、そしてレーカはまるっきりの初心者だった。
「パパに友達と遊ぶからゲームが欲しいって言ったら、泣いて喜ばれたワ。娘に友達が出来た、ああ神様!っテ」
慣れないコントローラーに四苦八苦しながら、スピーカー越しにレーカが言った。
「それ、流石に笑えへんわ」
ゲームの設定をしながら主催者の萌が言った。今からやるのは、一つのソフトに沢山のミニゲームが入った、大変に愉快なゲームだった。
「だって本当のことなんだもン。16歳になるまで友達が出来なかったなんて、お笑いヨ」
「自分ではな。ウチらは笑えへんから。それより、全員ゲーム入ったな。ほなやるで」
「今日はどうするの?」
2人の親友同士の会話を楽しみながら、もう1人の親友である幸乃が言った。
「1勝するごとに1点。とりま10戦やって、いっちゃん点が高いヤツの勝ちってことにしよう」
「優勝したらなんか良いことあるの?」
「どうやろ、考えてなかったわ。何か良い案でもある?」
「それなら」4人目の親友、飛鳥が言った。
「今日、委員会でポスターの標語を考えろって言われたんだけど、それをわたしの代わりに考えてくれない?」
「良いね」
幸乃が賛成すると、「面白そウ」とレーカがコントローラーの動作確認をしながら言った。
「待てや。そんなん、どっちか言うたら罰ゲームなんちゃうん」
「そっか。じゃあ罰ゲームにしてもらおうかな」
「良いよ、飛鳥。学校に貼るポスターの標語を考えられるなんて名誉なことなんだから、優勝した人間が考えるべきだよ。レーカもそう思うでしょ?」
「そうネ」コントローラーを凝視しながら、レーカが言った。
「何やねん、それ。絶対あべこべやん」
萌が心底嫌そうに言うと、後の3人は笑った。萌も、親友達が笑ってくれたので、悪い気持ちでは無かった。
初心者のレーカでも大丈夫なよう、操作が簡単なものから戦いを始めることにした。
ギャンブルによって転落していく人生を擬似体験できるブラックジャックは運の要素が強く、その点ではうってつけだった。
「こういうのはな、度胸やねん」
そう威勢の良かった萌が真っ先に賭けに失敗して、最高の週末の夜が始まった。
他の3人も大差なく、みんな笑いながら借金を重ねていったが、最終的には、常日頃から両親に「他人から金は借りるな」と言われていた飛鳥が、一番少ない借金額で勝利した。
結果に納得のいかない萌に合わせてもう一戦やったが、今度は幸乃が勝った。
次のタンクバトルはコントローラーの扱いの上手さに強く左右されるゲームだったので、萌の1人勝ちに終わった。これはとても不評だった。
だからその次は基本に立ち代わり、大富豪をすることにした。大富豪は少しの運と知能で戦え、そして何よりコントローラーの扱いの上手さがいらない最高のゲームと言える。
そこでレーカは、今度こそ勝つのだと息巻き、一方で他の3人も一切手加減はしなかったので、今世紀最高の試合が繰り広げられた。
結局5回行われた試合のうち、萌が1、幸乃が2、飛鳥が1、レーカが1回勝った。
初めて勝った時、文字通りレーカは飛び上がって喜んだ。1階にいたレーカの父は、何事かとビックリして2階の娘の部屋を覗き込んだが、娘の心から楽しそうな顔を観て、何も言わずに下に降りていった。
「最後はトーナメント戦にして、それぞれが2回ずつ戦おか」
戦いもあと2回を残した所で、萌が言った。上機嫌の3人は二つ返事で承諾し、そして種目は、サイコロを使ったポーカー遊びをすることになった。
「最後は特別ルールで、決勝戦と、敗者同士の同率の3位決定戦をやって、決定した順位順に上から5点、3点、0点っていうのはどうや?」
萌の提案は最高で、最後までこのゲームを楽しむという気概に満ちていた。4人全員にまだ優勝の可能性があり、それぞれが闘志を燃やしていた。
最初は飛鳥とレーカの試合だった。
レーカはルールが分からず、対戦相手から一々教わりながら進めたが、まずまずだった。それは決して順調ではなかったが、飛鳥はもっと出が悪かったので、何とかレーカが勝った。
「もしかしたら、優勝できるかも知れなイ」レーカはドキドキしながら、心の中で呟いた。
2戦目は萌と幸乃の試合だったが、こちらは圧倒的な差がついてしまった。萌は信じられないほどツイていて、幸乃は信じられないほどツイていなかった。
幸乃は次の3位決定戦でも運の悪さを挽回しきれず、飛鳥が勝った。
萌とレーカの決勝戦ほど、最後の締めに相応しいものはなかった。萌は1戦目の調子そのままに次々と高得点を出したが、驚くべきことに、負けじとその後をレーカが追ったのだ。
戦いは終盤までもつれ込み、最後の一振りになるまで分からなかったが、レーカがゲームで出せる中での最高得点を叩き出して、萌に打ち勝った。
「嘘、あり得なイ。やった、勝っタ! 優勝ダ!」
レーカは先ほど以上に飛び跳ね、大喜びした。本当に嬉しくて、思わず涙が出るぐらいだった。
ゲームで泣いたことが恥ずかしく、レーカは必死にそれを隠そうとしたが、他の3人にはバレてしまっていた。けれど誰もそれを馬鹿にしなかったし、むしろ手を叩いて一緒に喜んでいた。
「というわけで、優勝はレーカな。ほなポスターの標語を考えてもらおか」
「しまっタ。どうしよう、忘れてタ」
レーカは急いで涙を引っ込ませると、今度は慌てて脳みそを回転させた。だがあまり良い案は浮かばなかった。
「なあ、飛鳥。そもそもなんのポスターなん? 貼る目的によって、標語も変わるんちゃうん?」
「そうだ、忘れてた。わたしもよくわかんないんだけど、何か学校生活を楽しくさせるような標語が良いって」
「なんやそれ、アバウトすぎるやろ」
萌がそう言うと、不意に4人とも黙った。皆レーカが何を言うかを待っていたし、いつのまにか、自分の頭の中で何か良い標語があるかを探していた。
「『学校、最高!』って言うのは?」何も考えず、萌が言った。
「おもしろくない」よく考えて、幸乃が言った。
「そもそも友達に合うのは楽しいけど、別に学校そのものは普通やろ」
「学校が楽しいっていうのは、人生が楽しいっていうことだから、『人生、万歳!』っていうのはどう?」
「おもんな。お前も人のこと言えへんやん」
4人は笑った。笑った後、レーカが言った。
「無理やり褒めること無いヨ。良いの思いついタ。『生きてる方がマシ』っていうのはどウ?」
「うーん、どうやろ」と萌。「悪くないね」は幸乃。「良いけど、何かネガティブじゃない?」飛鳥が言った。
「そうかモ。でも無理やり何かを褒めるより良いじゃなイ? まあ、これは映画の台詞で、私が考えたものじゃないんだけド。
でも最近、昔の自分と今の自分を比べて、本当にその通りだなって思うのヨ。きっと大事なことなのよ、本当ニ。生きていれば、ゲームにも勝てるしネ」
他の3人は黙ってレーカの言うことを考えた。確かに『生きてる方がマシ』という言葉は、他人に言われるというよりかは自分たちが心の中で思っているような感じがして自然だったし、どこか社会への反抗めいたものもあって、クールだった。
「良いね、それにしよう」愉快そうに飛鳥が言った。
「良いの、こんなのデ?」
「良いよ。自分で考えたのよりずっと良い。『ご飯、美味しい!』なんかよりずっと」
「飛鳥、お前もセンスないなあ」
結局、4人はその後も夜遅くまでゲームをやり続け、次の日の午前中を寝過ごすことになった。
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