改定前 第26話「悪役令嬢とヒロインの女子トーク3/5:仏頂面の侍女は乙女ゲームの存在を信じるか」

アデルに話を聞かれてしまったウチ達は、前世の事はウチが、ゲームの事はクレアさんがアデルに説明した、信じてくれると良いんだけど……。


「なるほど、よくわかりました、そういう事だったのですね、色々と納得がいきました。」

「え、アデル、信じてくれるの?」

「いくつかよくわからない単語はありましたが。たとえば”ゲーム”というのは、読み手が文章を選択することで、物語の行く末がどんどん変わり、挿絵は動いて声も出るという、

 ページをめくらなくても良い本、と理解しました。似たようなものなら、魔法で作れなくもないでしょうし」


「アデル、意外と考え方が柔軟なのね……? 普通こんな事誰も信じないはずなのに」

信じてくれるとは思わなかった、っていうかこの子フツーに頭良いよね?地頭が良いっていうやつ?


「前世どうのというお話ですが、お嬢様は嘘のつけないお方ですし、突然性格が変わったように見えても、やはりお嬢様はお嬢様でしたので。

 それに、クレア様は私の名前をご存知でした、お嬢様は高名な方ですので、ご存知でも不思議はありません。が、私の名はそうはいかないでしょう? これが信じる根拠となる証拠の一つです」

「お嬢様が1人で前世だの何だのを言っていたなら、単に変な事を言っている、と思うだけですが、初対面どうしの2人が同じ事を言っているなら、それは簡単に否定できません。

 さらに、クレア様が私の名前をご存知だった事で、私が加わり、関係者は3人です。ですが私は面識がありません、何かあるものとして行動する方が合理的です。

 この世界が乙女ゲームと同じ、というのは正直よくわかりませんが、お嬢様やクレア様の前世が生きていた世界、というのが存在するのであれば、この世界もそういったものの一つなのでしょう、というくらいには理解しました」

物凄く理路整然と説明されてしまった、やだこの子怖い。


「もう一つ確認させて下さい。私は、どのような描かれ方をしているのですか? その、”ゲーム”で」

「え、えええっと? 単にロザリア様に忠実な侍女、というだけで、むしろロザリア様とは距離を置いていた感じでしたね。ロザリア様の行為をあきらめめつつも、ロザリア様がする嫌がらせを、たしなめていた感じでしたし」

何か妙にクレアさんが慌てて説明する、っていうか、妙にアデルを警戒してる? 大丈夫だよ? その子良い子だよ? ちょっと怖いけど。


「そうなの? 私とアデルは特に仲が良いってわけじゃなくて?」

「はい、ゲーム中のロザリア様は、とにかく人間不信の塊のような人で、それはアデルさん相手でも変わりませんでしたから」

「……わかりました、いえ、単にちょっと気になっただけなので」

アデルは一応納得してくれたようで安心した、おかげでこの子に変な嘘つかなくて済むよ。



「もともと、ロザリア様は悪役令嬢になってしまっても無理もないだろう、と言われてまして、ゲームのファンの間でもむしろ同情する声が高かったんです。」

いい機会なので、クレアさんにゲーム中のロザリアの話を聞いてみる事にした。現状とのズレがどれほどかを知れば、参考にならないか、とのアデルの意見からだった。


生まれてすぐ次期王太子妃としてリュドヴィック様と婚約して、王太子妃教育で色々ココロのバランスを崩していた、という所まではウチの体験と同じだった。使用人達とうまくいっていなかった事も。

「ですがロザリア様のお母様は、ロザリア様が魔法学園に入学される直前に、突然王太子様がロザリア様のお宅に入学前の挨拶で訪れる事になって、その準備の無理がたたって病状が悪化し、そのまま亡くなったんです」

 そして、その服喪も明けきらぬうちに学園に入学する事になったので、心の中がギリギリどころか、もう色々破綻してる感じでしたね」

アデルとウチは顔を見合わせる、どう考えてもウチが階段から落ちた所から全てが変わり始めてしまっていた。


「ですので、ロザリア様は婚約者といえど、王太子様をひどく憎むようになってしまっていて、関係は最悪だったんです。で、王太子様は魔法学園に入学してきたヒロインを見初みそめたわけですが、

 それをどうしても許せず、入学してから出会った同級生といっしょになってヒロインをいびるようになった、というのがゲームの始まりの展開だったんです。

 王太子様の方も、ロザリア様のお母様の事で責任を感じていて、どうしてもロザリア様に強く出られなくて、色々悩んでいる所を、ヒロインが天真爛漫に接するのでそのうちほだされる、って感じでしたね」

ゲームの中のロザリアも、リュドヴィック様に恋心を抱いてたとしたら、お母様の死に関係してるわ、他の女の子に興味持つわ、じゃ、そりゃ怒るわよねー。リュドヴィック様の方は最初のあの無関心なままだったろうし。


「ゲームのエンディング……つまり、結末の1つではヒロインと王太子様が結ばれるという事で、婚約破棄が発生するわけですが、別に王太子様が修道院送りにして、ざまぁ、とかではなく、ロザリア様にとってはむしろ救いだったような描かれ方をしてますね」

「はぁ、本当に色々とギリギリだったのね……」


本当にギリギリだった、ウチは前世の記憶を取り戻してから色々やってたけど、それが奇跡的に今の状況に結びついていたのか、やっぱり正義は守るものだな、うん。

色々状況を整理してみると、本当にきわどい所で今の状況にたどりついていた事を知り、ちょっとした脱力感を味わう、やだこの世界怖い。


「えっと、で、クレアさんはこれからどうするの? その、”ゲーム”と同じように行動するの?」

ウチはそれだけは気になっていたので、聞いてみた、リュドヴィック様だけは取られたくないし!絶対誰にも渡さんし!


「とりあえず、もう”ゲーム”の事は気にしない事にします。なんかもう、色々違ってしまっていて、今後どうなるかわかんないですし。そもそもここに来たのは、魔法学園が国民の義務だったからなので、

 入学するまでは税金が安くなってたりで、一応、国に感謝してたので。

 まぁ、玉の輿があると良いな~とは、正直まだ、思ってますけど」


「その”タマノコシ”という言葉の意味はわかりませんが、先程のゲームの説明から考えると、高位貴族の生徒と恋人か婚姻関係になりたい、というのであれば、おすすめいたしません」

ウチが安心していると、アデルが突然かなり真剣な顔でクレアさんに警告した、いつもの仏頂面に見えるけど、ウチにはわかるのだ。


「まず、”ゲーム”では王太子様もその”攻略キャラ”に入っているようですので。もしも王太子様を篭絡ろうらく、つまり口説き落とそうとするのなら、ローゼンフェルド侯爵家を敵に回しますよ?」

いやだからアデルさん! なんでそんな殺気丸出しでしゃべるの、クレアさんもウチも涙目になりかけてるんですけど!


「い!いえいえいえいえ! 王太子様とは絶対にそれは無いです! だって先程『お前を処刑したい』とまで言われたんですよ!? お姉さまへの恩もありますし、絶対にそういう事にはなりませーん!!」

クレアさんが物凄い勢いで手のひらも顔も横に振ってアデルに断言した。ウチも何故か隣でうんうんとうなずいた。だって怖いんだもの。


「賢明です、お嬢様はこう見えても、ローゼンフェルド侯爵家一族の希望を背負っているのです。長い年月をかけて教育し、磨き上げ、完璧な貴族女性として、王家へと王太子妃として送り出すその全ては、いわば一つの事業なんです」

”こう見えても”というのに引っかかるけど、よくよく考えると、ウチには物凄いお金も手間も時間もかかってるわけで、それが侯爵家の投資になってるわけか。うわー、ウチ自分を大事にしないと。



「それと、相手になる”攻略キャラ”がどういった方々か教えていただけますか?」

「えっと、王太子様はもうご存知ですよね? あとは先程いらっしゃったクリストフ様とか、その弟さんとか、だいたいは貴族の人ばっかりですね。そもそも魔法学園の生徒とか教師の人が大半なので」

「やはり、王太子様絡みと予想はしていましたが。その人達とも関係を築こうとするのは、おすすめいたしません」


「ねぇアデル、クレアさんもゲームのような行動はしない、と言ってるんだからもう良いんじゃないの?」

「一応の念押しです、これはクレア様の今後を守る為、でもありますので。何故貴族の生徒が駄目かと言いますと、おそらく全員婚約者がいらっしゃるからです。仮の場合も多いですが、まず結婚までこぎ着ける事は不可能です」


「ええ!? ゲームではそんな事、一言も言って無かったですよ? 婚約関係にあるのは、王太子様と、お姉さまくらいで」

「省略されたんでしょう、全員に婚約者がいる。なんて事になったら、登場人物が単純に倍になって、物語内での人間関係の収集がつかなくなりますから」

アデルの言葉に、ウチらは、ああ、と納得してしまうのだった。


「あぁ~、でも実のところ、本当はちょっと玉の輿狙ってたんですよね……」

攻略キャラには全員婚約者がいる、という事実にがっくりとうなだれていた。まぁ、玉の輿は女の子の永遠の夢よね。


「クレア様、この学校は一応身分の差が無い、という事にはなってはおりますが、それはあくまで教育上の利便性が大きいのもあるのです。それぞれのお家の事情となりますと、それは学園とは無関係の事ですので」

「そっかぁ、でもそうするとー、そういう貴族の男子生徒にですよ、例えば、親しくなろうと、自分から話しかけるー、とかいうのは?」

「とんでもなくはしたない行為、という事になりますね。下手するとその歳で愛人かめかけ狙いなのか、と言われかねませんよ?」

「う、うわ……。あの、ハーレム、つまり、何人もの男子生徒の好感度を上げて、何人も側にはべらす、みたいな事をやらかせば?」


「お答えしましょうか?」「いえもう十分です!」

アデルさーん! 小首かしげて可愛らしく言っても怖いからね!? クレアさんもう泣きそうだからその辺で!


次回 第27話「悪役令嬢とヒロインの女子トーク5/4:ご飯よ!この世界って食事の事は何って言うのかしら」

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