毒を以て毒を制す
午後23時15分………
駅前の真下に広がる地下駐車場は、地上の喧騒と比べてあまりに静かだった。止まってる車は
大部分を静寂が占める空間の中で突然、コツコツと足音が聞こえてくる。
音の発生源であるその男はフラフラと彷徨う様子はなく、ただ目的地を目指して黙々と歩いている様だ。
しばらくして男は隅の方に止まっている一台の黒いワンボックスに近寄り、助手席側のドアを軽くノック。するとガチャと鍵の開く音が聞こえ、男はそのまま乗り込む。
運転席には男が一人、後部座席は真っ暗で見えにくいがよく見ると人が4人ほど座っているのは分かった。
「最後の確認だ」
助手席へと乗り込んだ男は前を向いたまま全員に喋りかける。
「今から二週間前、お嬢が突如行方不明になりその二日後、遺体となって発見された。丁寧なことに身体中の皮という皮をきれいに剥がされた状態でな」
淡々とした口調からあまりに異常な話が飛び出していく。場の空気が全く変わらないのを確認し、男はまた同様の物言いで話を続けていく。
「犯人は
「………ちょっといいすか?」
一通り話を終えたところで、運転席の男が軽い口調で訊ねてくる。対して助手席側の男は睨むような目線を返した。
「突っ込んだことを聞くのは良くないと分かってるけど気になっちゃんで。兄さんとこってずっと『やり返す時は自分の手で』みたいな感じだったけど、なんで今回はうちらに?」
「………動けないからだよ。この事件に対して主に動いているのは警視庁刑事部捜査一課の奴らだがそこだけじゃない。組織犯罪対策部ーーーいわゆるマル暴の連中も動いててな。俺達に報復させまいと目を光らせてるんだよ」
「あー………なるほど」
「それから、長生きしたいなら無闇に首を突っ込むな。好奇心を抑えきれない奴は早死にするぞ」
「それなら大丈夫っすよ。長く生きるつもりは全くないし。それに一応、人を選んでやってるんで」
「チッ」
押し込めていた不機嫌という感情が軽く爆発した。そのまま数秒ほど間を空けて助手席の男はさらに話を続ける。
「おそらく、ヤツが捕まれば死刑か無期懲役のどちらかにはなるだろう。だが、仮に死刑になったとしても執行までの数年か数十年かという時間をヤツは生きることになる。お嬢の命と時間を奪った野郎がだ」
事務的だった口調にだんだんと感情がこもり始める。男は今回の話の中で特に重要な部分を口にし、強い怒りとともに話を締めくくる。
「前金はすでに指定の口座に入れてある。残りは成功報酬だ。どんな手を使っても良い。確実にヤツを………消してこい」
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