Vtuberの現実
その日の夜。YouTube上で 一人のVtuberが配信を終えようとしていた。
「はいそれじゃぁ今回の配信はここまでー。明日は20時から今Vtuberに大人気のあのゲームをやろうと思いまーす!リンメイトのみんなはもちろん遊びに来てくれるよね?待ってるからねぇー!それじゃぁ今日もー。おっつおっつリーン♪」
配信を閉じ、愛用のゲーミングチェアに背中を預けた途端、思わず気が抜けてため息が漏れる。
「あ〜………さすがに長時間キャラを保ちつつ喋るのは疲れるわぁ。まぁ好きでやってることなんだけど」
手探りで流行りのVtuberとやらを始めてみてからはや3年。今では配信にも慣れてVtuberとして配信することに楽しさを見出していた。だが3年という月日は楽しさだけではなく、ある一つの不安を生み出してもいた。
「3年間、Vtuberとして頑張ってきて登録者数は1万未満………やっぱりこっちをメインに据えるのは厳しいかなぁ?」
ときどき自分のチャンネルのアナリティクス内にあるチャンネル登録者数の推移を確認するが、グラフは基本水平のままでまれにほんのり右上へ上がる程度。はっきり言ってずっと伸び悩んだままだった。もちろん彼女なりに試行錯誤はしてきたが、爆発することはなくどれも不発のまま。いわゆる‘バズる’という経験ができないまま3年という年月が経っていた。
「継続は力なり」という言葉があるが、さすがにここまでくると続けるべきなのかどうか………続けた場合の将来に対して不安を抱くのは仕方ないだろう。
「うーん………競争率高いだろうけど大手事務所のオーディション受けてみようか………いや大手は入れた時点で多少の成功は約束されるけどそれはそれでキツそうだし、企画やるにも申請とか許可取りとかめんどそうだしなぁ。それにあの事がバレたら色々と終わるし」
Vtuber業界を常にリードしている大手のVtuber事務所。そこからデビューできれば、その時点で注目を集めることができるし手厚いサポートもあるだろう。事務所入りは彼女にとって魅力ある選択肢ではあるが、そもそもそれは無事にオーディションに合格すればの話。さらにあの事………彼女が抱えるもう一つの仕事のことを考えてると、所属すること自体が大きな懸念材料にもなりうる。
「………おっといけない。将来を憂いてないで仕事の準備しなきゃ」
PCディスプレイの隅の時刻表示に目をやると21時50分を指していた。次の予定を思い出し、勢いよく立ち上がるとそそくさと動き出す。
髪型を整え、軽くメイクをしてから部屋着を脱いで外着へと着替える。姿見で身だしなみをチェックしてからデスクの引き出しを開けて拳銃を手に取り、軽く動作確認をしてからそれをショルダーバッグに忍ばせる。
「これでよしっと。じゃぁ今日も働いてきますか」
意識をVtuberとしての自分から殺し屋としての自分に切り替え、意気揚々と家を飛び出す。彼女がその世界から足を洗うのは、当分先の話になりそうだった。
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