第3話 アルス防衛隊

 異界アルス……防衛隊……募集要項。


 もちろん意味不明だ。しかし、一つ可能性があるとするなら、あのゲーム……ライトニングウォーが選抜試験になっているのかもしれない。対戦でいきなり七連勝した彼は、常識はずれな技量なのだと思う。


「なかなか鋭いですね。そう。私たちが運営しているVRMMOライトニングウォーは、異界アルス防衛隊の選抜を兼ねているのです」


 まただ。私の心の言葉が聞かれている。これはもう、気にしても仕方がないだろう。


「防衛隊……つまり戦闘機のパイロットを募集していて、その選抜にあのゲームを使っていると考えていいのだな」

「その通りです。もちろん歩兵も戦車の乗員も、戦闘艦の乗員も同じく募集しています。何せ異界アルスは広い。陸海空の全てが戦場なのです」

「世界中から志願兵を募っているのか?」

「そうです。地球だけでなく、他の星域においても同様です」

「他の星域? まさか銀河中で?」

「その通りです」

「では銀河中で志願兵を募っていると?」

「そうです。銀河中で」


 めまいがしてきた。

 私たちは、宇宙規模の、しかも銀河全域での戦いに巻き込まれているというのか?


 それは一体、誰と戦っているんだ?


「我々が戦っている相手が気になりますか?」

 

 また意識を読まれている。


「もちろんだ。それに、そんな大事であるなら何故、国家的な動きがないんだ?」

「理由は二つあります。一つは、前線が異界アルスにある事です。もう一つは、地球人類は未だ宇宙規模の認識を共有できていない事です」

「三次元宇宙に前線がないし、我々地球人類にはそもそも理解できないと?」

「ええ。宇宙人の存在は認めても、光速を越えて宇宙を飛び回る事など想像すらできない。いや、最先端の科学がそれを否定している状況です。もちろん、きちんと認識している人もいるのですが、その事を公的に発言するのは不可能でしょう」

「つまり、君たちの存在そのものが証拠であるにもかかわらず、それを認めないし公表もできないと」

「そういう言い方もできますね。要するに、裏宇宙から異形の生命体が侵攻してくるなどとても信じる事ができないのです」

「裏宇宙? 何だそれは?」

「宇宙は多次元化構造であるとご存知ですか?」

「聞いたことはある。我々の宇宙を三次元宇宙と言っているし、ビッグバンに始まる宇宙論は多次元化しないと説明すら不可能らしい。しかし、私が理解している訳じゃない」

「一般の人はそうでしょう。小難しい理屈など理解できませんし、理解する必要もない。さてこの宇宙は三次元から十三次元まで、まあ、玉ねぎの皮のように重なり合って存在しているのです。それと同時に、表と裏の二重構造でもあります」

「まさか、敵はその裏からやって来ていると?」

「ご名答。さすがですね、鈴野川女史は」


 褒められはしたが、何の事やら理解不能だ。


「現実はそう単純ではないのですけれども……」


 カミラが解説してくれた。


 この十三次元の宇宙は概ね球形らしい。そして表と裏が重なり合っている。高次元で重なっているため、お互い行き来する事は出来ない。しかし、宇宙空間にはその距離が近い場所があるのだという。


「一般的には十三次元を突破しないと行き来は出来ないようになっていて、十の次元を超えることは事実上不可能です。しかし、この宇宙にはその距離が近い領域、要するに、次元を二~三ほど突破すれば表と裏を行き来できる、つまり、五次元か六次元で行き来できる領域があるのです」


 モニターに図解が表示された。大きな球が二つありそれと接触している極小さな球が一つあった。


「便宜上三次元的な図になっていますが、実際はもっと複雑です。この裏宇宙と接している小さな球を、我々は異界アルスと呼んでいます。位置としてはいて座の方向、銀河系の中心部に向かってちょうど500光年の距離となります。この異界アルスと同じような領域、この図案では中央部の小さな球となりますが、この三次元宇宙に数百個ほど存在していると言われています」

「そんなに?」

「ええ。この付近、銀河系には一つだけですが。この異界アルスを突破されると裏宇宙から容易に侵攻できる。ですから我々は、異界アルスを防衛すべく日々努力しているのです。これらの現状を踏まえ、異界アルス防衛隊が組織され、また協力していただける人員を募集しているのです」

「彼はその話に乗ったと?」

「ええ。視力が落ちてしまった自分でも戦えるのならと」

「彼はパイロットとして志願したんだろ? 大丈夫なのか?」

「大丈夫です。身体的な欠損や障害は補正されます」

「まさか? そういう人物を優先しているのか?」

「そうではありませんが、五体満足で生きられるのならと希望される方は多いです。そうですね。戦場で実際に戦い致命傷を負った方も、傷が回復するならと喜んで」


 こいつらは死神のように戦場をうろつき、死にかけた兵士をスカウトしている。そして再び生を与え、また戦場で戦わせているんだ。


 悪魔の所業か。しかし、異界アルスを防衛できなければ裏宇宙からの侵攻は止められない。


「私も行く。パイロットとして香月と共に戦いたい」


 私はカミラに対し、堂々と宣言していた。 



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