第2話 VRMMOライトニングウォー

「集合管もいいけどな。俺はこの、二本出しのノーマルマフラーが好きなんだ。ドルドルドルドルって低音が響くのがたまらないだろう?」

「Ninjaはな。意外と乗りやすいんだ。一番は直線安定性がいい事。どっしりとした乗り心地は気持ちがイイし、バンク角も深くて旋回性も意外と高いし」

「ただ、ノーマルのセパハンはだな。位置が低くて遠いから疲れるんだよ。直進安定性のいいこのマシンなら、高速を何処までも走りたいだろ? だから、ポジションが楽なバーハンに交換した。ハンドルバーは安いけど、このトップブリッジがね、いい値段だった。あはは」

「夏場に市街地走行するとラジエターのファンが回りっぱなしになる。アレは温風を噴き出してるからな。暑い時に暖房を浴びているようなもんで、まあ辛いわな。マジで暑い」


 走りながら彼の言葉を思い出す。その度に彼がこのNinjaをいかに愛していたのかがわかる。彼は妙な改造を嫌っていたので、ハンドルバー以外はほとんどノーマルだった。


 私はその、運営の拠点とやらに到着した。

 そこは拠点とは名ばかりの、プレハブの小屋だった。


 一丁前に立ててある看板には『VRMMOライトニングウォー日本出張所』と記載してあった。他にも東京に日本支部があるらしいのだが、何故、こんな辺鄙な場所に出張所を構えているのかは謎だ。


 ここは彼が失踪したらしい崖から5キロメートルほどの距離だ。近いと言えば近い。怪しいのは間違いないと思う。


 私はバイクを停め、ヘルメットを取った。そしてヘルメットを掴んだままその出張所とやらへ向かう。何かの時にはこのフルフェイスを打撃武器として使ってやろうという魂胆だ。


 入り口のドアを開けて中を覗く。その小部屋は約6畳で、中には二つのデスクとPCが置いてある。そして一人の男が椅子に腰かけていた。


 男と言ったが、背広を着ていただけで本当に男なのかどうか自信はない。やたら小柄だし、顔も中性的で性別の判定など不可能な容姿だった。


「ようこそ、マリカ・サイード・鈴野川すずのがわさん」

「何故?」

「名前を知っているか……ですか? それは簡単ですよ。ここを嗅ぎまわる人物の情報は全て把握できるようになっています」

「だからどうやって私の名を?」

「そこは企業秘密だと言っておきましょう。私はカミラ・ビーター。短足なのが悩みですね」

「短足? 体形など関係ないだろう」

「ごもっともです。とりあえずの自虐的コメディだったのですが、ウケなくて残念です」


 何処か人間離れしている。こういう異次元の感覚を持っている人物は宇宙人ではないかと疑ってしまう。


「おや? よく気付かれましたね。私が宇宙人である事を」


 ビックリした。

 何故、カミラは私の考えていることが分かったのか?

 さらに、自身の属性まで喋ってしまうとはどうなっているのか。通常なら隠したい事なのではないのか。


「驚いていらっしゃいますね。仕方がないです。私たちはあなた方の言う宇宙人です。出自を語ってもご理解いただけないでしょうから、ここでは異星人アギラ・アルスと名乗っております」

「異星人アギラ・アルス?」

「はい。異星人アギラ・アルスです。あなた方の感覚なら太陽系人といったイメージでしょうか」

「それはつまり、同じ星系の人をまとめてそう言っていると考えていいのか?」

「そうですね。それと言語の壁は大きいですから、私たちは想念帯会話システムを使っています」

「それはつまり、言語に込められた想念、意識をやり取りする仕組みと考えていいのか?」

「その通りです。ですから、時々は言葉に出てこない裏のアレコレを拾う場合もありまして」

「さっきの宇宙人の事?」

「そうですね。あなたがはっきりと思った事、心に強く描いた事は私には言語化されて聞こえてしまいます」

「なら、あんたには嘘は付けないって事か?」

「概ねそうですね。ただし、自身の意識をよく鍛錬されている方なら、表と裏で別の事を考えることもできますから、絶対に嘘が見破れる訳ではありません」

「なるほど」

「ええ。私が聞く事ができるのは、いわゆる顕在意識の表層部のみ。深い部分、即ち潜在意識まではとても聞くことができません」

「それは例えば、私も相手の嘘を見破ることができる」

「もちろんそうなります。顕在意識において嘘を思うなら」


 言語体系の違う相手とのコミュニケーションツールが、嘘発見器の役割を持っているとは新発見だ。どんな理屈なのか全くわからないのだが筋は通っている。


「では本題に入りたい」


 私の言葉にカミラは頷いた。


「私は一人の男を探している。名は香月かづきゆう。およそ一か月前、二人の女子高生と共にこのゲームをプレイしている」

「ふむ。我々が提供しているVRMMO、ライトニングウォーですね」

「その後に彼は失踪した。失踪当時、君たちが彼の事を調査していた」


 カミラはうんうんと頷いている。しかし、彼の表情からは何の情報も読み取る事は出来ない。異星人だから当然か。


「香月の失踪について何か知っている。そうだな」

「そうですね」


 あっさり肯定した。これにはかなり驚いてしまった。


「その……詳しく話せ」

「もちろんですよ。こちらをご覧ください」


 カミラが指さす方向に、突如モニター画面が出現した。いや、コレは立体画像を空間に投影しているように見える。パネルや機械部分などは無い。


『異界アルス防衛隊募集要項』


 モニターに日本語で表示されたタイトルだった。

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