第15話 金曜日の午後
翌日、曜日で言うなら金曜日の午後、俺は自分の家の中で何故か隣に美少女を2人も添えて座っていた。呼んだことはないのだが、家に帰るといつの間にか……。
――遡ること1時間半前、放課後に入るとすぐにそれはやってきた。
「帰るよー月待ー」
早めに準備を済ませた早乙女がいつもの調子で周りを気にすることなく話しかけてくる。部活に向かう生徒が大半なので、今残る生徒は1割程度だが、それでも視線は集まる。
「帰ってあげてる立場なんだけどな。よくもそんな態度で催促出来るもんだ」
「誘ったのは月待だし、お互い了承した時点で立場は同じだよーん」
「だとしてもありがたみってのは無いのかよ」
「それはちゃんとあるよ。毎日感謝しながら帰ってる」
ガヤガヤする周りには聞こえないほどの声量なので帰る話はほとんどに聞こえてない。が、当たり前のように隣の美少女には聞こえている。
妙な圧を横から感じたのでチラッと見てみると、そこには「やっぱり仲良くなってるじゃん」という表情で俺を真顔で見てくる笑舞がいた。
放課後になると飴を食べ始めるほど飴大好きっ子で、今も口の中でコロコロと転がしている。スマホをいじりながらも、ちょくちょくこちらに視線を向けるので早乙女と話すことに集中出来ない。ってか早乙女と集中して話すことはないが。
これは理由を説明してた方がいいと思い、スマホで即座にメッセージを送る。すぐにピコンと音を立てて笑舞のスマホは通知を知らせた。誰からか察すると手を伸ばして内容を確認している。
そんな中でも早乙女はマシンガンのように催促をする。そんなに早く帰りたい理由でもないくせに、執拗に肩を揺するので美少女でなければ舌打ちして離してたとこだ。
「準備出来たでしょ?帰ろー。それで今日は金曜日だから絶対に月待の家に行ってやる!」
「……は?俺の家?」
「明日明後日は休みだから遅くまで月待の家で時間潰せるじゃん。だから遊びに行くの」
完全に俺への嫌悪感を示すことのない早乙女は、俺の有無を言わせないスピードで話しを進めていく。
そして、それに反応したのは俺でも早乙女でも無かった。
「いきなり割り込んで悪いけど、私も付いていっていい?」
左頬に飴を寄せて、モゴモゴさせることもなく聞き取りやすい声ではっきりとそう言った。珍しいこともあるものだ。あの笑舞が人と遊ぶことを自分から言うなんて。
「えーっと、朱宮さんだっけ?」
俺の言ったことを思い出したようでなによりだ。この場に来て、同じ美少女の名も知らぬ美少女となれば、自分の方が上だと思ってると他人に思われるのでファインプレーだ。
「うん、朱宮笑舞。そこの変人の幼馴染だよ」
「なんで知ってるの?」とは聞かず、俺が教えたんだと理解している笑舞は、俺を罵って距離を詰める作戦に出たらしい。
「幼馴染じゃないって何回言えば分かってくれるんだ」
「幼稚園で1回でも会話すれば幼馴染になるの」
変人には触れず、幼馴染というワードに引っ張られる俺は優先順位は正しいと思っている。変人なのはもう否定しない。
「それでそれで、朱宮さんも月待の家に来るの?」
「うん。月待とは近所だし、よく遊びにも行ってる。それに早乙女ちゃんと話したいと思ってたから行こうかなって」
「ホント?!嬉しいんだけど」
もうツッコまないが、俺と笑舞の家は500mは離れているので近所とは言い難い。しかし、人の基準はそれぞれなのでとやかく言えない。だとしても、だとしてもだ。500mって近所とか言う人いる?田舎都会関係なく500mは広すぎると思うのだが。
よく遊びに行くことはホントだが、言わなくても良かっただろうに。
――ということで、両手に花状態の今に戻ってくる。
「遊ぶって言って来たんだろ?何も始まらないんだが」
テレビをつけてただソファに座るだけの俺たちに、これから先何するかなんて決められてはなかった。やりたいことがありすぎるが優柔不断のせいで選べないとかいう、いい意味で決められないのではなく、全く案がない状態である。
「私は1人で家に居るよりましだから来ただけで、月待とイチャイチャしたいから来たんじゃないのでなにもしなくて良いでしょ」
「それただ俺のプライベートが無くなるだけじゃないか」
「まぁ、朱宮さんも居るなら別だけどねー。ちなみに、いつもは2人で何してるの?」
「俺はいつもと変わらない日常を送ってるな。笑舞は寝てる。ずーっと寝てるな」
時々枕にされることもあるが、基本笑舞は俺の家に来ても寝るだけ。起きて動画見たり映画見たりするか、ご飯食べるかぐらいしか動かない。
休日はとことん怠惰を極めるタイプだ。
「へぇー、仲良すぎでしょ」
「笑舞が俺のこと友達としても異性としても大好きっ子だからな」
「はぁ?何言ってんの?キモすぎるだろお前」
「いやいや、冗談に対して辛辣すぎるし怖すぎだろお前」
遊び感覚で笑舞を可愛いといじったり、容姿を褒めるとすぐに口を悪くして反対してくる。これが俺のお気に入りで、全く怯えることはない。
仲の良さは誰が見ても納得するほど良い。
「ってか笑舞は早乙女と話したいって言ってたから何かあるんだろ?」
「ただ話したいだけ。どんな人かなって知りたかったから。でも何も話題はないから振れないよ」
「無計画集団かよ」
類は友を呼ぶ。美少女でもそれは覆せないようだ。
【連載版】昔交通事故で亡くなったと思っていた幼馴染がこの学校に存在している話 〜誰が俺の幼馴染か、知る人は誰もいない〜 XIS @XIS
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【連載版】昔交通事故で亡くなったと思っていた幼馴染がこの学校に存在している話 〜誰が俺の幼馴染か、知る人は誰もいない〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます