第13話 帰宅②

 そして、当然のように俺の予想は当たる。


 「それは今後のお楽しみでしょ」


 「無策は絶対に失敗するぞ」


 「それはそれ。考えればなんとかなるでしょ!月待ぐらい」


 「……格下に見るなよ。お前も変わらないからな」


 「いや、多分私が身長以外は何もかも上だね」


 「……そういうことにしとくか。俺は大人だし」


 「知ってる?大人は自分でそういうこと言わないんだよ」


 「お前が大人を語るな」


 言い終わるとそこにはムスッとした見た目だけ完璧美少女が存在した。ここに来て何度目か、不覚にも可愛いと思ってしまった自分がいる。


 流れるような攻防に最初から負けしかないほどの会話を続ける。傍から見ればどんぐりの背比べなのだろうが、今の俺には謎のプライドがあった。絶対にこの女に言い負かされたくないと。


 俺もまだまだ子供だと自覚しているが、無自覚なとこがより子供らしい。この先が思いやられるが、高校2年ならまだ猶予はある。その間に成長してやる。この女よりは。


 にしても……可愛いのがズルくてウゼェ……。


 今にも「もういいもん!」と言って拗そうな早乙女だが、思っていたよりそんなことはなく、ここで少し成長をしたのかと思わされた。


 「ねぇ、今思ったんだけどさ」


 「今度は何?」


 「そのお見舞いの子って、その朱宮って言う子じゃないの?」


 これはもしかすると正解か?!という顔で窓の外から俺に視線を戻す。その長いポニーテールが顔に当たりそうな勢いに俺は一瞬仰け反る。


 「笑舞は違うって言ってるから残念だけどハズレ。でも俺も笑舞だと思うんだよな」


 「ん?どういうこと?」


 「笑舞は違うって言ってるけど、俺の勘では笑舞なんだよ。根拠もなにもない俺だけの思い込みだけどな」


 何度も聞いたが笑舞ではないとの一点張り。そこまで言うなら信じてやろうと思うが、違うと思う度に違和感を覚えたモヤッと感が現れる。


 「何それ。月待の勘なんて当たらないでしょ」


 「チクチクしてんな。そんなにさっきのが効いたのかよ」


 「効いてませーん」


 これで効いてないなら拗ねるなよ……。


 正体不明の女子の『拗ね』は取り扱いが難しいと聞く。なんでそういう原因を作ったのかすら分からないのだから、実質初見殺しの慰めイベントだ。どの選択肢を選ぼうと、寸分違わず答えを出さなければ待つのはビンタか、言葉での罵り。


 早乙女なら別に気にかける必要のない間柄なのでそこまで深くは考えないが、一応女子であり、秘密も過去の嫌な思い出も抱える人であるので最低限は気遣う。


 そんなこんなのやり取りを繰り返すと、いつの間にか降りる駅へ着いていた。昨日と変わりない時間帯に、変化があるのは隣の人の機嫌だけ。


 「ほら、降りるぞ拗ね子」


 「変なあだ名つけるな」


 と言いながらもしっかりと席から立ち、自分のカバンを持って準備をする。窓も閉め、忘れ物がないかも確認する。


 「なら拗ねるな」


 「拗ねてないもん。勝手な解釈で話進めるな」


 「それは悪かった」


 余裕を持って電車から降りる。俺ら以外に降りるのは定時で帰れたサラリーマンぐらい。同じ学校の生徒は部活動に勤しんでる最中だ。


 「ってかあだ名つけられるの嬉しくないのか?ちなみに、俺からつけられて喜ばない女子居ないんだけど」


 「関係性によるかな。少なくとも今この瞬間キモい男子グランプリを世界で開いて堂々の一位獲得の月待に、カッコつけてあだ名つけられるのは最大の不名誉かな」


 「……倍以上の悪口で返すなよ。冗談を真面目に返されるといとも簡単にメンタルボコられるな」


 「はーいざまぁみろ。そのままボコボコにされろー」


 階段に差し掛かる前、俺の目の前にわざわざ出てきてパンチを食らわせようとしてくる。それを大人視点から見てやる。


 「……お前、女子って性格してないな。不意な可愛げしかないじゃないか」


 「変態月待に可愛く接したら襲われるし、不意な可愛げとか言ってるのもキモくて、もう関わるのやめるレベルだし」


 「はい、言ったからな?関わるなよ?方向音痴だろうがもう付き合ってやらないし、学校の困りごとは全部知らないから」


 「……ちょっ……ちょっとそれは……話が違くないですか?」


 勢いに任せてペラペラと言いたいことを言った結果だ。自分から方向音痴としてのデメリットを更に追い込むというドMのようなことをやり始めた。


 困ったように言葉を詰まらせ、人差し指同士をちょんちょんとつけて恥ずかしさを顕にしながら今まさに後悔中だ。


 「困るのか?1回一緒に帰ったなら覚えてるだろ。そこまで早乙女の方向音痴は重症なのかよ」


 「行きはもう覚えたけど、帰りは朝との景色と街並みが変わったように見えて、何回帰っても覚えられないの」


 「なるほど……まぁ、頑張って帰ってくれよ」


 完璧に帰れる俺には理解が出来なかった。しようとしても最初から無理なら共感も難しい。


 「えぇー、そこは付き添うとこでしょ」


 「お前が関わるのやめるって言い出したんだぞ?無理に俺と帰ろうとしなくても良いんだぞ」


 「…………」


 シュンと萎れた早乙女を見ると、絶対に俺の良心が働きかける。これだから美少女という存在はダメなんだ。


 「はいはい、俺の後ろを付いてくるなりなんなりすればいいだろ。隣に並んで帰らなといけない縛りはないんだし」


 「……そっか、その方法があったか」


 どうやら鶴の一声で息を吹き返したらしい。はぁぁ!っと目にハイライトが戻ったようにキラキラさせる。眩しい笑顔はどんな性格でも似合うらしい。


 「ツンデレ月待なんだから」


 ツンツンと人差し指で横腹を突いてくる。


 「はぁぁ……多分お前は人間関係を勉強した方が良いぞ」


 「えへへー、嫌」


 清々しいほどの笑顔での拒否。もうこれにも慣れてきたな。

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