第7話 傷跡
駅に入ると、改札前で朝のことを思い出す。俺とは真逆の改札を通っていた早乙女は、今回も同じようにするのだろうか。それとも、朝はたまたま真逆に行ったのか、これで分かる。
俺は改札の中で1番右側をスマホを翳すことで通り抜ける。そして何食わぬ顔で早乙女を見ると、早乙女も俺と同じ改札を通っていた。
スマホを翳すことも、スムーズさも同じだった。
ってことは朝のことはたまたまってことだな。うん、そう思おう。
意図的なものを感じた気もしないこともないが、都合よく捉える。人生はそうして世渡り上手になっていくものだ。あっ、持論だけどな。
せっかく後ろを見たので早乙女を待ってあげる。こうしてみるとカップルのようだが、見る人には一生そうやって見紛っていてほしい。実際は冤罪から生まれた加害者と被害者という関係だが、世の中は知らない方がいい事ばかりだからな。
「優男じゃん」
「優男じゃないわけないだろ?」
「はい、前言撤回。すーぐ鼻にかけるんだから」
「なら優男って言うな。そもそも、意味なく待ってだけで優しいと本気で思うことが違和感覚えるわ」
「本気じゃないから別にいいんですー」
一歩ずつ登る階段を1回踏み外してくれないかなって思ったのはここだけの秘密。そんなことが起こったら怪我するので願うのは一瞬だけだが、それでもこの生意気さを感じさせる性格は、良くも悪くもいい性格している。
そして駅のホームで電車を待つこと5分、何も問題は起こらず、流れるように電車に乗り込んだ。満員なんて言葉から程遠いスッカスカの電車内。好きなとこに座れるので、西日が照りつけない席を選びドシッと座る。
当たり前のようにその隣に座る早乙女。無意識に俺にとって嬉しいことをするのはやめほしいものだ。ブラックリスト入りしてるなら席を変えれば良いものを。
ツンデレか?
この車両には俺と早乙女の2人だけ。後々停車する駅から乗ってくるだろうが、それまでなんとも言えない空間を2人だけで過ごすなんて、今の俺には厳しくもなかった。
「ふぁぁ〜」
俺が隣りにいても関係なく大きな口を開けて欠伸をする。歯並びも良く、虫歯もない健康体だ。何よりも、ブサイクに見えないのは美少女七不思議だ。
「お疲れだな。今日1日で俺の2週間分は誰かと会話してたぞ。絶対に」
「そうかな?でも転校生ってそんなもんでしょ。転校初めてだから分からないけど」
「明日からもって考えたらダルくないのか?」
「んー、みんないい人だったからそこは大丈夫かな。でも毎休み時間囲まれるのは無理ー」
「分からないけど共感はしとく。それに、今週は毎日続くだろうから、頑張れよ」
「どーも。最悪、月待と幼馴染って嘘付いて半分ぐらいそっちに貸すから」
「やめろ。美少女パワーでやり返しも出来ない」
幼馴染ってワードがどれだけ話を広げるのか、俺はよく知っている。異性なら特に広がる。いつからなの?好きなの?羨ましいな、仲良くなる方法教えて、間を取り持って、と言った、女子なら仲良くなる方法、男子なら距離を縮める方法を聞いてくる。
面倒くさいし、俺を利用して他力本願で仲良くなろうとする人は好きではない。
まぁ、こう言えるのもこの立場に居るからであって、俺も早乙女と出会ってなかったらそうは思わなかったはずだ。俺が良くてもお前はダメの典型的なパターンだ。
俺最悪すぎだな。改めないと。
「ふぁぁ〜」
「この電車各駅停車だから行きより倍は時間かかるから寝ていいぞ。肩は貸さないが、カバン越しでなら貸すぞ」
「そう言って、ホントは私の寝顔を見たいんでしょ」
「否定はしないけど、そんな下心よりも善意から言ってる」
「正直だね。なら借りてあげよう。ほら、肩をさげたまえ」
「はい」
早乙女の傾ける頭の位置に肩を持っていく。きつい態勢ではないので、これから40分ほどこのままでも問題はない。
スッと香水か、早乙女家の柔軟剤の匂いが鼻腔にやって来る。何故こうも美少女はいい匂いと相場が決まっているのだろうか。ちなみにフローラル系の匂い。
カバンを挟むと言ったが、それは嘘で、現在お互いのカバンは椅子の下。つまり、俺の肩に直接早乙女の頭が載っている。
ドキッとしないのはホントに善意から貸してる証拠だ。
早乙女の右側に座る俺は右肘を付いて顔は真っ直ぐ前を見ている。緊張感もなければ下心もない。そして、眠くもないのでちょこっとスマホをイジろうかと思った時。
「月待って右目の上に傷跡あるんだね」
ん?と振り向くと上目遣いで肩に頭を載せたまま俺の右目上に視線を向けていた。
「ああ、これ?昔事故に遭って、その時に負った傷だな。一生消えることはないらしい」
「事故?」
「横断歩道で車に轢かれたんだよ。結構な重症らしかったけど、奇跡的に生きてたんだ」
「それは大変だったね。ごめん、嫌なこと思い出させちゃった?」
今度は早乙女が同情するように語気を弱くして申し訳無さそうに言う。なんとも可愛らしくて、このままお持ち帰りしたいと思うほどには惹かれていた。
もちろん冗談。
「全然嫌なことではないから、気にしなくていいぞ」
「今度こそ優男じゃん」
「どうも、優男です」
「前言撤回はしないよー。今回はホントに優男だと思ったからね」
「それはそれで照れるな」
「ぜんっぜん照れてる気配ないけどね?」
「それは早乙女の見間違い」
顔に出てないだけで、若干嬉しかったりする。やはり美少女からのお言葉は胸に刺さる。
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