第4話 転校生は美少女
早乙女とはその後すぐに離れ、先に教室へ着いたのは、多分俺だった。後ろにも前にも見えなくなってしまったが、速いペースで歩いたので確実だろう。
クラスは聞けなかったので1組から6組のどこかは知らない。もちろん見に行こうとも思わない。今頃俺の噂を広めてる頃だと思えば毎休み時間が落ち着かなくなるが。
椅子にドシッと朝の疲れと一緒に座る。尾てい骨が若干痛かった。するとすぐに、朝から陽気な友人が目の前にやって来る。
「よっ!」
「太陽……朝からそのテンションは疲れないのか?」
親友であり、幼馴染とかそんな関係ではない
若干茶髪なのがトレードマークで、男女ともに人気のあるスクールカーストトップだ。しかし、人気なのだが女子から好意を向けられることは1度もないらしく、本人はそれを悔やんでは不思議がっている。
「疲れないな。だって今日は花金だぜ?テンション上がらない方が可笑しいぞ」
「花金って……学校でそんな思ってたら社会人なれないぞ」
「そんときはそんときだろ。今はまだ高2だからな、怠け者で良いんだよ」
「それもそうか」
社会人としての経験なんて皆無の俺たちに本当の花金の良さは理解出来ない。花金の良さの理解度によって、仕事が楽しいか楽しくないか計れるので、出来るなら花金の良さをあまり感じない会社に入社したい。
ゆとり世代極まれり。
「どうした、朝から悩み事を作って来ました、みたいな顔して」
俺の顔色を伺いながら完璧に読んでくるこの男、もしかしたら超能力者かもそれない。ほんの少しニヤッとしているところもポイントが高い。
変態度なら俺よりもあるぞ。絶対に。
「よく分かったな。その通りだ」
「詳しく聞かせろよ」
「大げさに分かりやすく言うと冤罪をかけられた。ちゃんと説明すると、初対面の人に一方的に変態認定されたってとこだな」
名前も経緯も話さない。話せば、もし言葉通り、早乙女が広めなかったなら自分の首を絞めるようなものだ。ここは匿名で話を進めるのが無難だ。
「何だそれ、めちゃくちゃ面白いじゃんかよ」
「お前な……その立場になれば分かるぞ。絶対にめんどくさくて、疲れるから」
「そりゃそうだろ。それは俺視点だから面白いんだからな。当人にはなりたくねーよ」
友達が教師に怒られてる際、教師の後ろでバレないように笑わせようとするあれと同じ気持ちだろう。やられる立場にはなりたくないが、怒られるとこを笑わせる立場にはなりたい。
ただでさえ友達が怒られてるとこを見るだけでも面白いのに、笑いを堪えるとこまでプラスされたら満たされるものも秒で満たされる。
「どうだ?満足したか?」
「その場にいたら満足してたな。話を聞くだけじゃ満足出来ない」
「それなら、マジで交代してほしかったわ」
「ドンマーイ」
ニヒヒと不敵な笑みと共に煽る太陽を見たのは、これで3桁だろうか。それ以上は行ってるだろうが、いつ見てもムカつくのは変わらない。
それから他愛のない会話を少しして、チャイムが鳴り響く。各々自分の席へ戻る中、担任の教師は名簿帳を右手に持って入室する。
意外と、40名も居る教室では教師に反抗する人は居ない。今の時代そんな人すら珍しいが、この学校が有名な進学校ということも少なからず関係してそうだ。
静まり返る教室に響くは教師の声だけ。朝の眠たいホームルームが始まるが、基本この時間ですることはない。連絡事項を伝えるのが主だが、毎日連絡するようなことがあるほど問題を抱える学校やクラスでもない。
結局は出席の確認だけの時間取り。
俺は退屈しながら欠伸を1つ。
「今日の連絡事項だが――1つある。始業式から2週間の珍しいタイミングだが、今日からこのクラスに転校生が来る。その紹介を今からするぞ」
この瞬間、クラス内がブワッと盛り上がる。学校生活において、転校生なんて席替えの100倍、クラス替えの10倍はワクワクすることだ。気になるのは当たり前であり、クラブ会場になるのも無理はない。
男子か女子か気になる人や、可愛いかカッコいいか気になる人、とにかく転校生に途轍もない期待を込めているのは変わりない。
「どうぞ、入って」
ガラガラっと扉が横にスライドされる。誰だ誰だ!と俺も内心は期待して、出来るならめちゃくちゃ可愛い顔で、タイプの性格をした子が来てくれないかと理想まで描いていたほど。
そして、どんな顔かと足を踏み入れた瞬間に俺の視線は転校生の顔へと向けられる。
「……えっ?」
誰にも聞こえない。ボソッと自然と出た1言は、今日の朝の出来事をすべて含んだものだった。
艶に恵まれた黒髪のポニーテールの美少女。そう、朝出会った早乙女澪という女子だった。
クラス内は俺と真逆の状態。男子も女子も、うおぉ!!と叫んで、可愛いやキレイを連呼してはヤバイヤバイと連呼する。語彙力が小学生以下になる進学校の生徒。
これが客観的に見る面白さというやつか。伏線回収速すぎな。
盛り上がりに俺は口を開けたまま早乙女を目で追った。
早乙女は教卓のど真ん中で止まり一礼する。そして一瞬俺と目を合わせると嫌そうな顔をして、すぐに元に戻した。
「はじめまして、この度、この
丁寧な挨拶を早乙女が終えると、俺はあまりの驚きに、額をドンッ!と強く机にぶつけていた。
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