第2話 同調と揉め事

 コミュ障を適当に誤魔化しているんだと思われればそれでも別に構わない。言えるのは、俺の気持ちを知らないくせに適当言うなってことだ。


 人と話すとき、特に元気な女子と関わる際、俺はこの気持ちに気付く。常にこの気持ちは何処かにあって、でもそれはホントに小さくて忘れやすいものだから意識に置かれることはないんだ。


 だから、元気な女子とはあまり関わることは避けている。


 自慢でも鼻にかけてるわけでもないが、俺は学年では有名な方だ。理由は運動が得意で、120人の男子でトップの身体能力を誇る。だから良く陽キャの女子と関わるのだが、正直苦だ。


 贅沢な悩みだと思われるが、仕方ないんだ。類を言えばイップスのようなもの。キレイな球を投げたいのに、思うように投げられない。俺も普通に話せるなら何も気にせず話したい。でも、ムッとモヤッと邪魔する気持ちが遮る。


 昔交通事故に遭った俺は、その日からこの気持ちに気付いた。きっとその時に出来たんだとは思うが、それは事故の派生で、トラウマを違うように思い込んでるだけだと思う。


 だから、俺は知らないんだ。この気持ちがなんなのかを。


 まぁ、今になっては知りたいとは思わない。だって約10年も解決しなかったことを、今更躍起になってまで知りたいと思うか?それに、この気持ちがあるだけで生活がしづらくなることもない。だから俺はそのまま放置することにしている。


 それが今、目の前の美少女によって気になりかけるのだから、視線なんて向けず読書に夢中になる。いや、なりたい。


 ペラペラと捲る音が、ガタンゴトンと線路を走る電車よりうるさく聞こえる。完全に集中しているから?それならうるさくは思わない。


 うるさく思うのは、目の前の美少女も本を読み始めたからだ。同調したかのように捲るタイミングが同じになる。あっちも合わせてるわけではなく、無意識だ。それが気になりすぎて、俺の捲る音と合わさり二重に聞こえてうるさく思う。


 周りには座る人も多く居る。だが、どれだけ音を吸収してもはやり耳に届く。


 止めてくれよ……。


 朝から違和感を覚えることが多く起こる。それは俺にとってストレスではないが、気にはなる。思い返せばきっと意識するから。


 なんとかならないかな。


 なんて思いながらも、電車は止まることなく終点へ向けて走り続けた。


 俺が降りる駅、そこは9割が学生しか降りない場所。朝の利用で限定だが、それでも割合は高い。俺もその1人で、落ち着かない気持ちとともに重たい腰を動かす。


 そして同調済みの美少女もタイミングは同じ。


 これ運命かよ!


 少し背中を伸ばすフリをして美少女が左右どちらの扉から出るか先に行かせて確認する。しかし、同調は続いた。美少女も背伸びをしていた。


 もうこれは諦めて俺から素早く降りようと、左側へ足早に向かう。忘れ物をしていないか確認するのも忘れない。


 そしたらそりゃそうですよね?美少女も同じ側へ足早に向かっていた。


 心を読むおばさんは居なくとも、心を読んで嫌がらせをする美少女は目の前にいたらしい。やはり出会って思うが、最悪だ。


 扉前でゼロ距離ほどに近付いた俺は、好まぬ気持ちと、この可笑しな同調を重ねてしまい限界が来ていた。


 「あの、すみま――」


 「あの!さっきから私のマネばっかりしてますよね!」


 周りの乗客にはギリギリ聞こえない程度の小さめで、でもしっかりと何を伝えたいか分かる声で俺の言葉を遮る言葉は、全くもってブーメランだった。


 「えっ……それは君じゃないの?」


 本気で言っているのか?正気なのか?といった皮肉を込めた声色で答える。


 俺がマネをするなんて、どうしたらそんな自意識過剰とも言えることを恥ずかしげもなく面と向かって言えるのか、知りた過ぎて夜も眠れないな。


 「私がそんなことすると思います?」


 「えっ…………そっくりそのまま返してもいい?」


 「します。するような顔してますし、なんなら実行してました!」


 「……顔で判断するのか……」


 電車内からはまだ3歩しか出ていない。黄色い線の内側まで下ってと言われてもギリギリ安全圏のとこだ。そんなとこで初対面の子と、早朝から揉め事。流石に人目につくので、ここは俺が大人になるってか、事態収束に全力を尽くす。


 「この度はマネしてすみませんでした。今後絶対に関わらないので許してください」


 はぁぁ、とため息はつかない。仕方ない謝罪と思われれば何度も謝らせられるし、良くない印象を持たれる。それは今後同じ学年として生きる為に避けたい。


 美少女の力は鶴の一声だ。あいつキモイと言えば、あいつをキモいと思えと言ってるようなもの。つまり、その通りに信者を動かせるのだ。ならば美少女のマネをした男としてのレッテルを貼られた今、最低の体裁を保つためにするべきは心の底から謝罪が必要だ。


 「ダメです。君のそれ、私と同じ制服ですよね?ならこれから関わるかもしれませんし、気持ち悪いと思ったこの気持ちは消えません!なので許しません」


 頑なに何故そこまで必死になるのか分からない。だってマネしてないのに罪を認めてあげたんだぞ?俺に対して感謝するべきでもあるだろ。


 俺はもう限界に限界を重ね、体裁よりもこの女をどうしてやろうかと考えていた。

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