第17話 白い竜2


 ダンとロッタは先日の山岳ダンジョンに来ていた。手元にはロッタが事前に用意した無数のレア遺物がある。


「これを砕いていけばいいんだね」


「そうね。ストラトヴィダッチェの説が正しければそれで竜を作れるはず……」


 ダンはさっそく目の前の遺物を砕き始めた。


 砕かれた遺物からはエネルギーが放出され、コアに向かって一直線に進んでいく。


「すごい……はっきり目に見えるくらいのエネルギー量だ……」


 夕方には全部の遺物を砕き終えた。


「これだけ砕けば十分かな……」


 二人はダンジョンを後にした。


 コアにエネルギーを与えてもすぐにモンスターが生成されるわけではなく、日を置いてまた訪れることとなった。


 翌日再びダンジョンを訪れると、期待通り竜が生成されていた。


 伝説上の白い竜……。ダンはその姿に圧倒された。


「まさかホントに……」


「こうもあっさり上手くいくなんてね……」


 二人が近づいていくと、竜が敵意を向けたので、ダンは取引がしたいという旨を伝えた。


「愚かな人間よ……。我と取引するというのがどういうことかわかっているのか……?」


 竜は心底見下した態度で告げた。


「どういうことだ……?」


「我々モンスターがなんの見返りもなしに貴様ら人間に手を貸すとでも思うたか?おおかた我の再生能力が目当てなのだろうが……」


 敵意むき出しの竜に、ダンはストラトヴィダッチェのことを話した。今世界ではモンスターと人間の共生に向かって動いてると伝えると、


「フン……笑わせる。モンスターと人間の共生だと……?なにも知らないのだな……。お前たち、そのモンスターに一杯食わされたな……」


「どういうことだ……?」


「じきにわかる……」


 竜が取引に応じる気配がなかったので、ダンは竜を作ったのは自分だと伝えた。


「なるほど……。そなたのおかげで我は生成されたのか……。では話は別だ。我の血を抜き、持っていくがいい。その程度なら協力してやろう……」


「ありがとう」





 ダンとロッタはお城に来ていた。ロッタの祖父――この国の王――に竜の血液を届けるためだ。


「本当にこんなところに入るのか……」


 ダンは緊張のあまりどうにかなりそうだった。


「大丈夫よ。私もいっしょだもの」


「そうはいうけど……国王に会うなんて……」


 城の兵士がすれ違うたびに頭を下げる。なんだかダンまで王様になった気分だった。


「こっちよ」


 ロッタにいわれるままついていくと、ひときわ豪華な部屋に到達した。


 部屋には必要以上に豪華なベッドに老人が寝ている。周りには大勢の護衛もいた。


 ロッタが意識不明の老人の口元に、そっと竜の血を流し込むと、老人の身体がまばゆい光に包まれた。


「おおお、生き返った気分じゃ……」


 老人がおそるおそる起き上がる。それをみてロッタが涙を流し駆け寄った。


「おおお、ロッタよ」


 老人もうれしそうにロッタを抱きしめる。


「ロッタが頑張ったんですよ」


「そうなのか……?ロッタがわしを助けてくれたんじゃな」


「いいえ、私だけじゃないわ。そこのダンのおかげよ」


「ありがとう。ダンくん。国をあげてお礼をするよ」


「いえいえそんなたいそうなことはしていませんから……」


「そうじゃ、いったいどうやってわしを助けてくれたのじゃ?」


 尋ねる国王の目の前に、ロッタが空の瓶を掲げた。


「白い竜の血液よ。昔おじいちゃんが話してくれた……」


 すると老人は血相を変え、


「なんという恐ろしいことを……」


 と言って震えだした。


「どういうことですか……?」


「わしが昔竜に助けてもらったときに、ある条件を出されたのだ……。わしは相当な対価を支払った……。今回もそうなのではないのか……?」


 心配そうに尋ねる老人を、ダンがなだめる。


「いえ、ちがうんです。今回は竜を作り出したので対価などは支払っておりません」


 ダンの言葉に、老人は目をまるくした。


「なんと……。今の言葉は本当か?竜を作るなど……。いったいどこからそんな発想が」


「ストラトヴィダッチェという協力的な魔物がいるんです。彼女の発案で……。まあとにかく対価は支払ってませんので安心を。でもそんな恐ろしいとまで言うなんて……。あなたが竜に支払った対価はなんだったんですか……?」


 老人は顔を険しく歪ませ、ロッタに外に出るように指示した。


「それはな……人間の命じゃよ。わしは自分が助かりたいがために、あとで代わりの人間を大勢連れてくると約束したんじゃ。罪人や反逆者ばかりだったとはいえ……わしはモンスターに人間を売るという恐ろしいことをしてしまったのじゃよ……。王として、いや人として許されることではない」


 ダンも衝撃的だった。だが国王として死ぬわけにはいかないと思ったであろう当時の老人の心境を考えると、仕方のない行為であるとも思った。


「過ぎたことですよ……。そのときあなたが無事だったおかげで、ロッタも生まれたし、今日までこの国は安定して栄えてきたんですから……」


 ダンは慰めの言葉をかけた。病み上がりの老人を、ましてこの国の功労者を、叱責する気にはならなかった。


「そう言ってくれるか……。ありがとうダンくん。ロッタをよろしく頼むよ……」


 老人はそう言うと安心して再び眠りに落ちた。今度は意識を失ったのではなく、ただの睡眠だ。衰弱していた身体が、元気を取り戻そうとしているのだろう……。


 ダンは部屋を出て、廊下のロッタのもとへ行った。


「おじいさんは疲れて寝たみたいだ。もう安心していいと思う」


「そう。よかったわ。ダン……本当にありがとう」


 その晩、二人は身体を重ねた。ダンは自分には過ぎた報酬だと思った。

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