第16話 白い竜


 帰って来た一同は、休息と勝利の宴を兼ねて、食卓を囲んでいた。


「まさか親方が、あんなことになるなんてな……」


 ミリダが嘆息した。


「まあまあ、あんな人のことはもう忘れて、今日は楽しみましょうよ!」


 フィレットがケーキを切り分けながら言った。


 ミリダがフィレットの物言いに顔をしかめる。ダンも同じ思いだった。ダンはいまだに親方のことを吹っ切れないでいた。


「でも、お店はこれからどうするんですか?」


 藪から棒にフィレットが尋ねた。


「そりゃあ、ミリダさんがやっていくんじゃないですか?年齢的にも、経験的にも……」


 ダンが答える。


「おいおい……やめてくれ。私はそんなガラじゃないって。ダンこそどうなんだよ。いつか自分の店を持ちたいんじゃなかったか?」


「え?僕でいいんですか?いつか自分の店を持ちたいとは前から思っていましたが……まさかこんなにはやく夢が叶うなんて……」


 ダンが恍惚の表情を浮かべる。


「まあ、そうなったらすぐに潰れるかもしれんがな!」


 ミリダがそう言うと、大きな笑いが起きた。


 ひと段落して、フィレットがまた話題を提供した。


「それにしても、ロッタさんがお姫様だってのも驚きです」


「ほんとだよね、僕もいまだに信じられないでいるよ」


 視線がロッタに注がれる。ロッタは少し照れて、言った。


「あ、でもでも、今まで通り、友達として接してね。そのほうが私もうれしい」


「当然です!ロッタさんは今まで通り、私のライバルです」


 なんのライバルだろう……?ダンは思った。


「しかし……私まで宴に参加してよかったのだろうか……」


 デルカが申し訳なさそうに、ダンの顔を見て言った。


 ダンはそれに笑顔で応える。


「もちろんいいに決まってるじゃないですか!デルカさんも友達ですよ!」


「そうよ、ダンと一緒に助けに来てくれて、うれしかったわ」


「そんな、ロッタ様まで……!もったいないお言葉、恐縮です……」


 デルカが顔を赤らめる。


「そういえば、ロッタ。白い竜について、あれから何かわかった?」


「いいえ。何も……」


「明日、一緒にストラトヴィダッチェのところへいこう。紹介するよ。彼女なら何か知っているかもしれない……」


「ありがとう。助かるわ」


 その日は一晩中、馬鹿騒ぎが続いた。そしてみんな疲れてその場で寝てしまった。





 ダンとロッタは昨夜の約束通り、ストラトヴィダッチェの元を訪れた。ストラトヴィダッチェは今や魔物と人間との共生のために働く大使で、捕まえるのに苦労した。


「やあストラ。君は透明になってずっと僕の隣にいたから、知ってるとは思うけど、こちらロッタ。この国の王女様だよ」


「どうも、ロッタです」


 ストラはなにやら書類に目を通しながら応えた。


「やあ、どうも」


「忙しいのはわかるけど、愛想がないなぁ」


 ダンが言ってようやく、書類を置いた。


「これは失礼。集中していたものでね。それで、用件は?」


「白い竜について、何か知らないかと思ってね。ロッタがどうしても会いたいんだ」


 ロッタとの会話のとき、ストラも透明になって横にいたはずだから、これも知ってるだろうけど。


「なんだ、それなら簡単だよ」


 どうやら協力してくれるらしい。


「同じような環境のダンジョンには同じような生態系が生成されることは君たちも知っているだろう?まずは、ロッタの祖父が白い竜を見た場所と同じような環境を用意するんだ」


 ダンは馬鹿にされたような気がして腹が立った。


「いやそれはわかっているんだよ。それはもう試した。探したけど、そんな珍しい環境、都合よく存在しないよ」


「いやいや、そうじゃない。用意すればいいんだ。ないなら作り出せばいい。山を魔法でくり抜いてでもなんでもすればいい」


 目から鱗だった。そんな発想、人間は思いつかない。まさに魔物ならではの発想だ。とダンは思った。


 ロッタも驚いたようすで、顔を見合わせる。


「なるほどねぇ」


「でも、環境を用意しただけじゃダメだろ?」


「そのとおり。よくわかってるじゃないか。環境を用意したら、次はそこで遺物を砕くんだ」



「「遺物を砕く???」」



 二人は再び顔を見合わせた。


「破壊した遺物は、一番近くのコアに吸収されるんだ。そうやってコアに十分エネルギーを与えてやると、環境に応じた新しい魔物が生まれる。コアに餌と環境を用意してやって、意図的に竜を産ませるんだよ」


 もうなにがなんだかわからなかった。あまりに飛躍した発想に、二人はしばらく言葉を失った。


「つまり……竜を作れるっていってるのか?君は……」


「ああ、だからそういってるではないか」


「でも、どうやってそんな大量の遺物を……?僕はあまりお金を持っていないぞ」


「そこは……ほら」


 ストラがロッタを横目で見る。


「お姫様の権力を使ってだな……」


 ああ、なるほど。と思い、ダンもロッタを見る。


 期待の視線を浴びて、ロッタが言った。


「そうね、まかせといて!」


 作戦は翌日から決行されることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る