第15話 真実3
三人でダンジョンを猛進する。念のためボンドは鎖に繋がれており、デルカがそれを管理している。
今回はダンの天才的な案内が発揮される機会はなかった。ボンドがすべての道を把握している。
ロッタは無事だろうか。もちろん無事だ。それは分かっている。ロッタはダンが見た中で一番強い冒険者だ。やられる訳がない。
でもあれから何日も経っている。食事は足りているだろうか。ダンジョン内で調達できる食事にも限界がある。
ダンの心配は尽きなかった。
だがそれはすべて杞憂に終わった。
ボス部屋にいたロッタは何食わぬ顔で、一行に手を振った。
「あ、ダン!助けに来てくれたの?」
ダンはロッタに駆け寄る。
「そうだ。無事かい?」
「ええ。ところで……あなた、よくも私を閉じ込めてくれたわね」
ロッタはボンドを睨みつけた。
「すまなかった」
ボンドが謝罪する。
「こいつは既に捕まって、裁判にかけられた。安心してください。ロッタ様」
デルカがボンドの鎖を上に掲げて強調した。
「食事は大丈夫だった?お腹すいてない?」
ダンが心配して尋ねた。
「なんとかね……。それより早く帰って身体を洗いたい」
ロッタは傷こそなかったがひどく汚れていた。じめじめしたダンジョンに閉じ込められていたんだから当然だ。
「ダンジョンマスターはどうしたんだ?たしかレキとかいう名前のやつ」
「ああ、それなら倒したわ。人間みたいに賢くて強い奴だったけど、なんとかなったわ」
それを聞いて、ボンドは顔色を変えた。ボンドからすれば、仲間だったのだから当然の反応と言える。魔物に人権が認められば、レキも街で一緒に暮らせたかもしれない。
ダンジョンマスターは一日経てば復活する。だがその時にはエネルギーの半分を失っている。つまり、レキが復活しても以前のような知能は持ち合わせていないだろう。そしてその時点で、ボンドのほうがエネルギー量が多いから、ボンドがダンジョンマスターになる。
「それじゃあ、さっさと帰ろうか。外ではいろいろなことが起こってるから、それも説明しなくちゃね」
ダンがロッタの手を取って帰ろうとした時だった。ボンドが突然目の前に立ちふさがる。
「残念だが、ダン。それはできない」
「何のつもりですか、親方。改心したんじゃなかったのか!?」
「レキがやられた時、俺がダンジョンマスターになったようだ。コアが、レキの復活を待たずして、俺を選んだ訳だな。レキが生きていればあのストラトヴィダッチェとかいうやつの話に乗ってやってもよかったが、レキが倒されていては話は別だ。奴は俺の……恩人だった」
「くそ、最初からそのつもりで付いて来たのか……!?」
「いくぞ!うおおおおおお」
ボンドは雄叫びを上げ、鎖を掴んで振り回し始めた。鎖の反対側が繋がれたデルカの身体は宙に浮き、そのまま乱暴に振り回される。
その姿はまるで野獣。見た目や知能こそ人間だが、やはりその本性は魔物なのだろうか……?
ボンドは鎖を自分から引きちぎり、壁に向かって放り投げた。デルカの身体もそれに伴い、壁に叩きつけられる。デルカは意識を失ったようでその場に倒れ込んだ。
「なんてことを!ロッタ、戦える?」
デルカが居なくては戦力は半減する。ダンは戦闘が得意ではないから、もはやロッタだけが頼りだ。
「一応戦えるけど、魔力がもうほとんど残ってないの」
「くそ!万事休すか……」
ダンは恐怖から後ずさる。ふとポケットに手が触れる。そのときダンは、先日、遺物鑑定省に行ったことを思い出した。これは使えるかもしれない。
――でも、ここじゃだめだ。
「ロッタ!ついてきて!」
ダンはロッタの手を引き、ボンドから逃げ出した。もちろんボンドはそれを追う。
迷路のようなダンジョンを進み、崩せそうな薄い壁を探す。
曲がり角に差し掛かり、ちょうどよい薄さの壁が、ダンたちの目の前に現れた。
「ロッタ、あの壁を崩せる?」
「やってみるわ」
ロッタは最後の魔力を振り絞り、放った。
「ファイアボム!!!」
壁は瓦礫となって地面に崩れ落ちた。
「いくよ!」
ダンはロッタの手をしっかりと握りしめ、二人でその瓦礫を踏み越えた。瓦礫はそこそこの分量があり、上を通り過ぎるのに二、三歩要する。
そのあとをボンドが追ってくる。ちょうどボンドが瓦礫の上に差し掛かった時、ダンたちは既に数歩先に立っていた。この位置なら巻き込まれる心配はないだろう
「今だ!」
ダンは先日の遺物省で受け取ったアイテム――≪小宇宙≫を使った。ボンドめがけて、黒い小球を投げる。
ボンドはそれをひょいと避ける。だが球はそのまま地面に落ちて、瓦礫と接触した。触れるやいなや、その接点を中心に、極小のブラックホールが発生した。
周囲の塵や、瓦礫が≪小宇宙≫に吸い寄せられる。ブラックホールは徐々に拡大を続け、その影響も大きくなる。それにつれ、ボンドの身体も引き寄せられる。
ついに≪小宇宙≫がボンドを捕えた。ボンドは瓦礫に押しつぶされ、身動きが完全に取れなくなった。
「やったぞ!」
「上手くいったわね」
「そうだ、デルカは無事か!?早く戻ろう」
元居た位置まで戻ると、デルカは既に意識を取り戻していた。
「うう……すまない。護衛として来たのにその役目を果たせなかった」
「ボンドは倒した。もう危険はない。早く帰ろう」
一行はダンジョンを出た。扉には大きな赤いバツ印をつける。廃棄処分の扉の証だ。これでもう二度とボンドと会うことはないだろう。
ダンはかつての恩人に心の中で礼を言い、別れを告げた。
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