第3話 まさかのLine交換

「スリッパどうぞ」

 と、中腰でスリッパを指す。

 まるでホテルのフロントのように完璧な流れ。

 でも、どうしても胸に目が行ってしまう。

 どうしてAさんなんかと・・・と、惜しい気がする。

 俺たちの前を歩いて行ったが、形のいいヒップに目が行ってしまう。

 いいなぁ。


 俺たちはソファーに座った。奥さんはキッチンにお茶を取りに行った。

 落ち着かない。ついつい後ろ姿を目で追って、きれいな足を見てしまう。家なのにストッキングにスリッパ。官能的だ。

「きれいな人だね」

「まあまあってとこかな」

「いいなぁ。20代と結婚できて」

「嘘つかなかったら無理だってわかるだろ?」

「うん」


 部屋を見回す。随分きれいに片付いている。まるで、マンションのモデルルーム。奥さん身重なのに掃除頑張ってるんだ・・・。

 ソファーは買い替えたらしい・・・ファミリー向けのファブリックのソファーから、高そうな革張りに取り換えられていた。壁紙も張り替えていて、子供がいた痕跡はほぼなさそうだった。

「ソファー買い替えた?」

「うん。カッシーナの家具」

「家具好きだったっけ?」

「別にそうでもないんだけど・・・」

「高いだろ?150万くらいしない?」

「値段、忘れた」

「でも子供いたらボロボロになるんじゃない?」

「その頃は、上から布でもかけるよ」

「なるほど・・・(前も子どもいたしね)」


 奥さんがお茶を入れてくれた。「妊婦なんだから手伝えよ」と、俺は思ったが、他人事なので黙っていた。奥さん、我慢してなんでも自分でやっちゃいそうだな・・・と思った。いい人そうだ。前の人と似てる。Aさんは、自分の世話をしてくれる人を選ぶのが得意なんだろう。


「すいませんね。妊婦さんなのに」

 俺は言った。

「いいえ。(妊娠してること)言っちゃった?」

 奥さんは笑いながらAさんを見た。自然な笑顔だ。仲は悪くないらしい。

「今何か月ですか?」

「6ケ月」

 明るいところで見ると、もうおなかが大きかった。

「もう、おなか大きいんですね」

 奥さんはおなかを撫でた。

「でも、あまり目立たない方なんですけどね」

 すごい巨乳。妊婦さんてエロい・・・。

「胸は大きくなったけどな」

 Aさんがいきなり言うので、俺は呆れつつ赤面する。

「いやだ!」

 奥さんもびっくりしていた。

「どんどん横に広がってって大変なんですよ」

 こんな美人になんてこと言わせるんだ!

「でも、もともと痩せてるからいいですよね。うちの会社に来てた派遣の人は、妊娠して20キロくらい太ったって言ってましたよ」

 それから、俺は職場で聞いたママさんたちの話を思い出して、頑張って喋った。

 Aさんは何も言わない・・・。俺は子供もいないし、妊婦さんのことなんて知らない・・・。ばかやろう!お前は何でスマホいじってんだ。

 嫌だな・・・こんな旦那。

 

 奥さんはよく喋る人だった。楽しそうに笑っていた。

 今は仕事してなくて、家に一人だとか・・・。

 寂しいんじゃないかな・・・普段一人なのが滲み出ていた。

「実家どの辺?」

「うちは埼玉の大宮で・・・」

 割と近いからなぜか安心する。なにかあったら実家に戻れるんだ。よしよし。


 1時間も喋っていたら、俺は奥さんとすっかり仲良くなってしまった。派遣の人とは喋り慣れてるから、好かれることが多いのだが、Aさんより仲良くなってしまった気がした。


 Aさんは途中でトイレに立った。俺はドキドキする。

 妊婦さんって生々しい。

 俺は次の言葉を選んでいた。


 すると、奥さんが携帯を握りしめながら、いきなり「Line教えてもらっていいですか?」と聞いてきた。

「う、うん」

 俺は慌てて自分のを取り出して、慌てて画面を操作した。

 

 旦那が戻って来る・・・。急げ・・・。何だかいけないことをしてる気がした。

 まさか・・・その体で不倫?俺は柄にもなく赤面する。

 出会ってすぐ孕んでしまうなんて・・・よっぽどの破廉恥お姉さんなのか。

 人は見た目によらないもんだな・・・。

 さすがに俺は遠慮する・・・。でも、彼女に興味はある。すごく。


 そうじゃない・・・きっと旦那のことを相談したいんだ。

 絶対そうだ・・・。


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