第2話 新居

 俺は何度かAさんのマンションに行ったことがある。

 3LDK。一人暮らしでなぜそんな広いところに住んでるのか・・・。

 どうやって言い訳するのか不思議で仕方がない。

 いや、そうでもないか・・・俺も独身なのに3LDKに住んでたっけ。


 週末、結婚祝いを持ってAさん宅へ。

 デパートで適当なブランドの皿を購入した。多分、即日メルカリ行きだろうとは思うが、Aさんに酒なんか飲ませられないから、何をあげていいか悩む・・・。発達障害の人は依存症になりやすい。だから、Aさんも俺も、酒は飲まないようにしている。事前に何がいいか聞いとけばよかったが、忘れていたんだ。


 Aさんは最寄り駅まで迎えに来てくれた。おもてなしじゃなく、打ち合わせのためだろう。最寄り駅は上品な店ばかりが立ち並んでいる。俺には用のない店ばかり。バカ高いパン屋とか、高級スーパー、誰が買うのかと思うような洋服や雑貨の店。


 久しぶりに会ったAさん、顔だけはやっぱりかっこいい。歩いていると女性の視線を感じる。俺までイケメンになったみたいだった。

「ご両親も初婚のふりしてくれてるわけ?」

「うん」

「変わってるね」

「俺が再婚したがってること知ってるから」

「でも、バレて離婚・・・ってことになったらどうするんだよ?」

「大丈夫。逃げられないように子ども作ったから」

「え、デキ婚!?」

「うん。もう、堕ろせない」

「随分、用意周到だね」

 ・・・というか鬼畜だろう。

「だから、、、黙っててほしいんだよ。妊娠中は余計なストレスかけたくないし」

 ストレスとかそんなレベルじゃないだろう。

 奥さん相当ショックだろうな。本気で体が心配だ。

 これから会う人は、第二の被害者・・・。俺は気が重かった。何もしてないのに詐欺の共犯みたいだ。


 Aさんの家は、財閥系不動産のハイグレードマンション。

 億ションだ。

 もう何回も遊びに行ってて、見慣れたマンション。目新しさはない。

 前は亡くなった奥さんが迎えてくれた・・・けっこうきれいで、感じのいい人だった。あの人はもうこの世にいない・・・それが信じられない。あの景色にはあの人がピッタリはまっていた。てきぱきと料理を出してくれ、盛り付けはきれいだし、味だって全部おいしい。家もピカピカ。いい奥さんを絵に描いたような人だった。


「ローンまだあんの?」

「親の贈与で完済したよ」

「いいなぁ!」

「でも、ちょっと古いよ」

 持つべきものはやっぱり親だ。

 やっぱり資産家のボンボンに女が群がるのは当然だ。

「奥さん、どんな人?」

「大手商社で派遣やってた人。もとは、信用金庫に勤めてたんだって」

「へぇ」

 出会いを求めて大手商社で働いていたのかな・・・そういう人だと、Aさんみたいなのに騙されてしまうんだろうか。商社マンを捕まえるつもりが、マッチングアプリで変なのに捕まってしまったのか。理想が高いタイプだったんだろう。商社マンは実家も太い人が多い。奥さんになるのは、小学校から名門私立とかそういうタイプが標準みたいだ。


「奥さんの元彼って何やってた人?」

「会計士」

「へぇ。で、結婚できなかったわけか」

「うん。まあ、そういう人は、派遣の人とは結婚しないよね」

(*派遣社員の方、申し訳ありませんが、こういう男は普通にいますので、気をつけてください)

「君は気にしないんだっけ?そういうの」

「あんまり頭が良すぎてもね。専業主婦になってもらいたいから」

「へー。今どき専業主婦は珍しいんじゃない?聞いちゃ悪いけど、養育費は払わなくていいの?」

「いらないって。実家金持ちだから」

「すごいね」

 俺は他の言葉が思いつかないが、心の中で叫ぶ。


 すごいラッキーなやつだなお前!

 すごい最低のくずだなお前!

 養育費を受け取りたくないくらい、嫌われてんだよ!

 バーカ!!


 前の奥さんも気の毒だったけど、新しい奥さんも同じくらいかわいそうだ。

 しかし、せめて出産までは、こいつの嘘を知らないでいた方がいいのかもしれない。

「結婚式やらなかったの?」

「うん。写真だけ」

「そっか・・・」

 奥さんかわいそうだな。前の奥さんの時は、100人くらい呼んで椿山荘で結婚式をやったもんだ。まあ、普通だけど。Aさんの方で呼ぶ人がいなくて、そのくらいの規模になったんだ。


「もう、おなかに子供いたし」

「避妊しろよ」

「でも、逃げられないようにしたかったから」

「奥さん、君が初婚だと思ってるわけ?」

「うん。だって、自分から死別って言わなかったら、そんなことがあったなんて思ってもみないだろうし?離婚してるわけじゃないし・・・」

「今まで彼女いなかったのか聞かれただろ?」

「別れたって言っといた」

「へぇ・・・じゃあ、嘘ついてるわけじゃないんだ?」

「バツイチかなんて聞き方しないだろ、普通?」

「じゃあ、まあ・・・いいのかな・・・」


 俺は緊張した。Aさんが玄関前でインターフォンを押す。

「はーい」

 中からかわいい声がした。絶対、顔もかわいいはず。

 これが第一子を妊娠中の新妻か。

 うらやましい・・・ちょっと、もやもやした。

「ただいま」

 Aさんがカギを開けてドアの中をのぞく。

 ごくごく平和な新婚さん家庭の光景だ。

「お帰りなさい。こんにちは。どうぞ」

 色白の美女がとびきりの笑顔で出迎えてくれる。

 清楚で上品。 

 下はタイトスカートで、爆乳。妊婦なのにスタイル抜群だ。


「どうも、おじゃまします」

 俺を見て、その人はちょっとびっくりしたようだった。

 旦那の友達にしてはまともだと思ったのか・・・

 旦那より俺の方がタイプなのか・・・

 

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