七、獣人国主催のパーティー
七、獣人国主催のパーティー①
忙しい日々を送る中で、シェルの中のゼールの存在は薄れるどころか日に日に強くなっていった。人間国へと戻ってきたシェルは獣人国へと行くことはなくなったため、ゼールと顔を合わせることはなくなったのだが、それでもいつの日か、ゼールと再会する日を夢見て活動を続ける。
顔を合わせたとき、ゼールから笑われないよう、シェルはシェルなりに人間国の未来を考えて日々を過ごしていたのだった。
そんなある日、突如シェルの元へ獣人国からパーティーの招待状が届いた。内容は、
(ヴァンちゃんの王位継承の祝賀会……?)
シェルが人間国へと戻ってから、王位継承権第一位だったヴァンは正式に次期国王となることが決まった。それは日頃のヴァンの活動と、何より国民からの支持が大きかった。
後宮内ではヴァンの王位継承を時期尚早だと
(そのパーティーに、私が呼ばれているのは
主役はもちろんヴァンのはずである。それなのに自分も呼ばれているのはどう言う意図なのだろうか?
シェルは招待状を受けた喜び半分、疑問も持ったのだった。しかし今回はめでたい祝い事である。パーティーを欠席する理由はない。
(それに、久しぶりにゼール様にお目にかかれるかもしれないわ)
それは少し不安でもあり、楽しみでもあるのだった。
シェルはこのパーティーへの出席を表明すると、獣人国主催のパーティーへ行く準備と町の訪問でますます忙しい日々を送ることになるのだった。
それから一
シェルたち王族は
「そう気張るでない、シェルよ」
「お父様……」
「お前は、立派な姫となった。亡き王妃も喜んでいることだろう」
父王は揺れる馬車の中で、シェルに向かってそう声をかけた。シェルもその言葉に少しの自信を取り戻す。
(ゼール様に顔向けできるくらい、私は日々を過ごせていたかしら……?)
そう疑問に思うことはあったものの、父王からも認めて
獣人国へ訪問する前、町の人々へもしばらく獣人国へと行く報告をシェルは行っていた。その時も、
「我らの姫様は、
「どうかお気を付けて、いってらっしゃいませ」
そう言って、町の人々は笑顔で送り出してくれたのだ。そう言った人々の気持ちを裏切る行為だけはしたくないと、シェルは馬車に揺られながら思うのだった。
対するヴァンはと言うと、こちらも緊張した面持ちで馬車に揺られていた。獣人国へはゼールの王位継承を祝うために公務で訪れて以来になる。あの時に感じた獣人族への恐怖心を思い出してしまっていたのだ。
「ヴァンちゃん、大丈夫?」
シェルは少し顔が青くなっているヴァンを心配そうに
「大丈夫。少し、馬車に酔っただけだ」
そう答えたものの、それが強がりだと言うことはその場にいた父王もシェルにも伝わっていた。
「獣人族の皆さんは、本当に人の感情に敏感な、いい人たちよ」
シェルはそう言ってにっこりと
それぞれが獣人国への思いを胸にしながら、馬車は
人間国の王族を乗せた馬車はその後、無事に獣人国王宮へと到着した。シェルたちはまず、獣人国国王であるヴェルデ王の
シェルは久しぶりに見るゼールのその姿に、心臓がドクドクと脈打つのが分かった。相変わらずの仏頂面で立っているゼールの尻尾はゆさゆさと揺れ、耳は頭の上でピンと立っている。その耳はシェルが謁見の間に入った時に一瞬だけピクリと動いていたのを、影のように控えているフォイは見逃さなかった。
「遠路はるばる、ようこそお越しくださった。さぞやお疲れでしょう?」
ヴェルデ王は気さくな笑顔で人間国の王族を迎えてくれた。そんなヴェルデ王に人間国の王も笑顔で対応する。二人はしばらくの間談笑し、その間、ゼール、フォイ、ヴァン、そしてシェルは黙っていた。
「おっと、ついつい話が盛り上がってしまいましたな。シェルさん、お久しぶりです」
ヴェルデ王はそう言うとシェルへと笑顔を向けてきた。シェルはヴェルデ王へと頭を下げると、
「ご無沙汰しております。以前はお世話になりました」
「顔を上げてください、シェルさん。さぁどうか、明日のパーティーを楽しんでくださいね」
ヴェルデ王は楽しそうに言うのだった。
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