六、人間国の姫④

 それからのシェルは活動的だった。

 父王に言われた通り、しかるべき手続きを取ってから町の人々への訪問を行っていく。これには町民たちも驚いていたようで、初めて自国の姫を見る者も多くいた。

 今まで姿を見せなかった自分たちの国の姫が、こうして間近に来てくれることは町民たちにとってうれしいことでもあったのだった。

 シェルはそうして町の雰囲気を肌で感じることで、自分が獣人国と人間国のためにできることは何かを模索していく。


(ヴァンちゃんとゼール様の橋渡しができるといいわよね)


 いつしかシェルはそう思うようになるのだった。

 そのための町民たちとの交流会でもあったし、積極的にヴァンが受けている講義に同席もするようになった。

 今まで人任せだった政治についても少しずつこれから勉強するつもりだった。町民たちとのふれあいの中で、どうしても答えられない政治的な質問などもあったため、そう言ったものを少しでもなくすためにも、自身での勉強は不可欠と感じたのだ。

 精力的に活動するシェルのことは少しずつ平民たちにも認知されていき、自国の姫を誇りに思う者も出てきた。

 とりわけシェルが気にかけたのは、人間国に住む貧しい人々だった。


(こんなにもその日暮らしの人たちがいるなんて、全く知らなかったわ……)


 シェルは生活に苦労したことはなかった。母である王妃が亡くなり、家事を自分で行うことはあったが、その日に食べるもの、着るものに困ることはなかったのだ。

 しかしそんなシェルとは真逆の生活をしている人々が少なくともこの人間国にも存在していると知ったときは、シェルは雷に打たれたような衝撃を受けた。


(彼らのために、私にできることは何かしら……?)


 貧しくなった人々の多くが、病気に苦しみ、医療費を支払うのもやっとの生活を送っていることを、訪問での聞き取りで知ることができた。シェルは父王に、この貧しい地域にいる医者を支援する代わりに、医療費の減額を提案した。

 言うのは簡単だが、対策するには色々とやることがあるようでまだ実現には至っていない。しかし父王もまなむすめの提案に前向きに検討していた。

 それ以外にも、シェルは自分の食べる量を少し減らし、食糧支援を貧しい地域に行ったりした。


「少ないですけど、少しでもおなかの足しにしてくださいね」

「いつも、ありがとうございます、姫様……」


 貧困層の住む地域へ訪問に行くたびに少量でも食料を持っていく。老人や子供たちを中心に、その家族も含めてシェルは感謝されることが多くなった。

 こうして庶民に寄り添う姫となっていったシェルの人気は、人間国国内でうなぎ登りだった。

 加えてヴァンもこのシェルの活動に刺激を受け、時間があれば一緒に町を訪問、聞き取りを行っていた。国民たちはこの小さな王子に夢中になった。


「シェル姫様とヴァン王子がいれば、この国は安泰じゃ」

「一生懸命、我々のことを考えてくださる」


 こういった国民の声は次第に大きくなり、やがて獣人国にも届くことになる。

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