第2話
小泉さんは俺がコントラクターへ志願する事を予想していたのか、隣の椅子に置いていた鞄から新たな資料を取り出し会議机の上へ広げ始めた。
「では、早速ですが現在、組織で行っている支援についてご説明いたします。」
「よろしくお願いいたします。」
「まず、我が組織では、コントラクターの皆様に衣食住のご提供を無償で行っております。」
「衣食住の提供ですか?」
「はい、我々のメイン事業は宿泊施設の運営と成っております。コントラクターの皆様には会員様として毎回の料金を頂かずにサービスを提供しております。」
「それは豪勢な話ですね。」
俺が関心した様に答えると小泉さんは、それほどでもと軽く眼を伏せた。
「但し、ご提供しております内容は、此方が皆様の働きぶりや将来性を判断して決定しております。ですので、お部屋内容や案内いたしますサービスは一律ではございません。」
「今から自分で賄えって言われるより、よっぽどマシですよ。」
小泉さんが見せてくれた主なサービス内容と至極最もな注釈に理解を示すと、恐縮ですと会釈する。
「また、コントラクターの活動に必要な装備品や消耗品の提供、ご依頼の斡旋、移動手段の提供、提携している専門店への紹介等も行っております。」
「かなり手広くやっているんですね。」
小泉さんが提示した資料は、パワーポイントで製作したスライドを印刷した物の様で、簡単な図や文章で発言の内容を補強している。
提供可能な装備品を纏めたリストの中には、映画で見た事のある銃火器や無線機、暗視装置等が当然の様に並んでおり、日本では非合法であろう品を当たり前に扱っている彼らの組織力に驚いた。
俺がリストを食い入るように見ていると、会議机に置かれた固定電話が鳴り出した。
小泉さんは此方に断りを入れた後、素早く受話器を取り何事かを話終えるとその様子を見ていた俺に謝罪した後、話し始めた。
「倉内様。申し訳ございません。当ホテルの支配人がご挨拶も兼ねて夕食会を行いたいと申しておりますが、今晩のご都合いかがでしょうか?」
「特に予定は、無いので大丈夫ですよ。」
小泉さんに了承の意を伝えると、彼は保留にしていたらしき電話口へ数言伝えて受話器を戻した。
「お時間までは、どの様にお過ごしに成られますか?良ければ周辺で予約を取りますが?」
「だったら、小泉さんに時間があれば俺の今後について相談しても良いですか?」
「では、軽食でも取りながらお話をお伺いさせて頂きますね。朝からお呼びしてしまったので、空腹では無いですか?ご注文が有れば何なりとお申し付けください。」
「じゃあ、エルドナルドのハンバーガーをデリバリーして貰って良いですか?今は、アレがどうしても食べたくて。」
色々と緊張したストレスからジャンクな食べ物を食べたくなったので、ダメ元で聞いてみる。
「かしこまりました。メニューがお決まりでしたら、此方で手配いたします。」
「ありがとうございます。えーと。ダブルチーズバーガーとポテトのLサイズ、ナゲットとコーラのLサイズをお願いします。ナゲットのソースは、マスタードで。」
小泉さんが直ぐに了承してくれたので、頭に浮かんだメニューをその場で伝えると、直ぐに小泉さんは復唱し、固定電話でどこかに連絡を入れた。
「この部屋にお届け致しますので、先に相談をお伺い致しましょうか?」
「ありがとうございます。先ず、今日中に解決したい問題に今夜の夕食会で着る服がありません。それで、先程のサービスに有った衣食住の提供を受けたいのですが。」
小泉さんにコントラクターに成る上で心配な事や資料中に有る意味が分からない単語に付いて確認して居ると、注文したジャンクフードを乗せたトレーと共に驚きの荷物が届いた。
なんと既製品だが仕立ての良いスーツが一式が運び込まれてきたのである。
どうやら、これからお呼ばれす場所のドレスコード的にフォーマルな格好が必要らしく、いそいそとそれに着替えて夕食会の場所へ向かう。
今日一日入り浸った会議室から、支配人が待つと言う地下の会員制ラウンジへエレベーターを使用して移動する事になった。
「此方です。少々滑るので足元にご注意下さい。」
目的階に着いた事を知らせる音が鳴り、扉が開くと洗濯洗剤と漂白剤の匂いがする湿った暖かい空気で顔を押される。
どうやら、ホテルで使用したシーツ等を洗濯するランドリースペースの近くの様で、役職を持つ様な人間と会食をする場が有る様には感じない。それに地下空間の性か天井も低く、通路も狭く感じる。
自分の頭に浮かんだ疑問を口にする事無く小泉さんの後に続いて歩いて行くと、ペンキで白く塗られた無機質な扉の前へ案内される。
小泉さんがその扉をノックすると、内側から扉が開けられた。
飾り気の無い扉の内は、それまでの通路や扉からは想像出来ない程に広い空間が広がっていた。
内装は黒を基調にしてシックに整えられており、複数のボックス席と木製のカウンターには、年齢や性別、人種さえも違う様々な客が酒と食事、談笑を楽しんでいるようだ。
室内には、ムードの良いジャズテイストの曲が生バンドにより、会話の邪魔に成らない程度の音量で流れており落ち着いた空間を演出している。
ラウンジ内は、映画のセットの様でとても素晴らしい空間だが、客の中にはピアスやタトゥー、傷跡の目立つ厳つい者も多く目に付いた。
そう言った者達の内、コントラクターと呼ばれる存在は、如何ほど居るのかなんて意味の無い様な事が頭に思い浮かびながら、案内をする小泉さんの後に続いてラウンジの奥へ移動する。
「倉内様をお連れしました。」
「入ってちょうだい。」
「どうぞ中へお入り下さい。」
「失礼します。」
小泉さんの案内で辿り着いたのは、奥まった所に有り、ラウンジ無いから視線の通らないVIP席だった。
そのソファーに座って居たのは、赤いイブニングドレスを着た妙齢の異国人女性と後ろに控えるホテルの従業員だった。
女性が着る露出の多いドレスからは白く美しい肌が大胆に見え、隠された胸部もタイトな作りでその豊満さを引き立てており、とても魅力的に映る。
白人特有の目鼻がハッキリした顔立ちは、おち着いた雰囲気と溢れ出る妖艶さを放ち泣き黒子と、後ろで結ばれたブロンドのロングヘアーで花を添えられている。
「組織により、この周辺の組合運営とこのホテルを任せられている。レベッカよ。どうぞ、お掛けになって。」
「倉内と申します。本日は、お招き下さりありがとうございます。」
彼女の着席を促す声と共に対面の椅子を小泉さんが軽く引くのでそこへ座ると、給仕の人間が脇から現れ水を注いだグラスとメニュー表を用意してくれた。
「気にしないで頂戴。支援するコントラクターの顔は、しっかりと確認しておきたい性分なの。」
「今後とも宜しくお願い致します。」
緊張している自分を見て女性は少し笑った様な気がする。
「此処の料理は、どれも美味しいと好評よ。細かな注文にも対応してるから、気にせず言って見て。勿論、ジャンクフードでも用意するわ。」
「良いですね。貴方の様な美しい人と、こんなにムードのある所でジャンクフードを食べるなんて、滅多に経験出来そうにありませんし。」
彼女は既に注文しているか頼む物が既に決まっているのか、メニュー表を見ずに俺へ注文を促して来た。
その際、俺の朝方の話を持ち出して情報的にアドバンテージを持っている事を匂わせて来た。
俺は、作りが豪華で値段の書かれていないメニューを見ながら、微笑みを浮かべて此方を観察している美女の対処法を模索するのだった。
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