第2話 告白された俺


 ところが……


「増山、俺、増山のことが好きなんだ」


 告白されたなんて小学校ぶりじゃないだろうか。陽菜には俺から告白したし。

 俺は目の前で顔を赤らめながら俺を見てくるイケメンの顔をじっと見た。イケメン――男だ。同性だ。

 名前は山崎颯真やまざきそうま。同じクラスの人気者。同じ中学出身で、何回か同じクラスになったことはあるが、あまり話したことはない。


 そんなイケメンが平々凡々な俺に告白?


「……罰ゲーム?」

「違う。本気なんだ」

「えっと、なんで?」

「中三の頃からずっと好きで、諦められなかった」


 たしかに中三の時も同じクラスだった気がするけど、話したことないじゃん。てか男同士だよな!


「俺、付き合ってる子がいるから……」


 そもそも山崎のことよく知らないし。クラスのムードメーカーみたいな感じなのはよくわかるけど、あんま絡まないし。

 俺には陽菜より好きになる人なんて現れないし。


「……わかった」

「その、ごめん」

「でも、増山に彼女がいるって知っててもずっと諦められなかったんだ。だから、頼みがあるんだ」

「頼み?」

「増山と彼女のデートを見せてほしい。そしたら諦められる気がするんだ」






 ――それで、あんまり必死だったから、いいよって言っちゃたんだ?


 ごめん……。


 陽菜は怒っていなかった。ただ面白そうに笑っている。


 ――いいよ。朝陽くんを狙うライバルだもん、顔見ておきたい。でもどうやって三人で会うつもりなの?


 一応考えはあるんだけど、な。






「陽菜ちょっと遅れてくるし、あんまり長居できないって」

「日を改めた方が良かったかな?」

「いや、できれば今日にしてほしいって」


 先に二人で喫茶店に入る。メニューを眺めていると俺のスマホが震えた。


「悪い、ちょっと電話してくる」

「うん、わかった」


 そのまま外に出ると、ダッシュで家に戻る。用意してあった花柄のワンピース、ベージュのカーディガン、花のワンポイントがついたサンダル。白のレースソックス。


 ――勝負服!


 陽菜が意気込んでいる。メイクをする俺の手にも力がこもる。


 ――じゃあ、いこう


 うん。あとは頼む。


 ――任せて


 ここからしばらくは陽菜に任せることになる。俺の姿が見えないばかりに申し訳ないが、やる気満々な陽菜は可愛い。




「山崎颯真、くん?」


 周囲の視線が集まるのがわかる。イケメンがしばらく一人でいたと思ったらこんなに可愛い女の子が声をかけてきたんだから、当然かもしれない。


「あの二人、お似合いね」


 近くの席から聞こえてきた声に傷つく。うう、俺では確かに陽菜と釣り合わない。


「……君が」

「初めまして、陽菜です」


 陽菜が頭を下げると山崎も頭を下げる。それから陽菜が山崎の向かいの、さっきまで俺が座っていた席に座る。


「朝陽くんは?」

「電話してる」

「そうなんだ」


 陽菜もなかなか演技が上手い。俺がここにいることなんて知っているくせに。


「増山から、俺のことなんて聞いてる?」

「告白されたって。諦めるために彼女といるところが見たいって」

「うん、そうなんだ。今日はわざわざありがとう」


 はたから見れば美男美女のお似合いのカップルなのに、二人とも平凡な俺のことを好きって言うんだから驚きだ。

 うん、自分で考えた作戦だけど、陽菜と山崎を二人っきりにすることが不安になってきた。陽菜がこんなイケメンに惚れたらどうしよう。


「増山のどこが好きなの?」

「全部。あなたは?」

「俺は、幸せそうに笑った顔かな」


 二人が俺の好きなところを言い始める。何とも居たたまれない状況だ。


「でも俺が好きなったのは、君のことを思って笑う増山だからなあ。好きになったと同時に失恋したんだ」


 そう、山崎は続ける。

 イケメンは悲しそうな顔をしてもなおイケメンである。


「でも、一年間諦められなくて。こうして会ってみたら諦められるかなって思ったんだけど」

「……人の気持ちは簡単に変えられないから、無理に変わらなくてもいいと思う。私にはどうしようもできないし、諦めて、なんて言う資格はないから」


 さすが陽菜だ。優しすぎるだろう。

 さて、そろそろ俺も戻らないと。


「ごめんなさい、もう帰らないと……ちょっとくらいなら朝陽くんと二人でお茶してもいいよ」


 そう言って、陽菜は喫茶店を後にする。


 喫茶店を出ると、また、家に走る。


 ――山崎くん、朝陽くんのこと本当に好きなんだね


 そうかな。


 ――うん、私のライバルとして認めてあげてもいいかも


 陽菜がどんなに認めても俺は陽菜以上に好きにならないんだけどなあ。



「悪い、遅くなった」


 喫茶店に戻ると山崎が顔を上げる。


「陽菜、もう帰っちゃった?」

「うん、少し前に」

「悪かったな、今日は……奢るよ」

「いや、俺のわがままに付き合ってもらってるんだし、俺に奢らせて」


 そのまま二人でコーヒーを飲みながら他愛ない話をした。意外と楽しかった。

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