第6話 一夜明けて

 翌朝、目が覚めた俺は仰天した。

 俺はダブルベッドで寝ていたのだが、あの椿さんが素っ裸で俺に寄り添っているじゃないか!


 何かみっともない叫び声をあげたのだろう。椿さんが気づき目を開いた。


「正蔵さま、おはようございます」

「お……おはよう」

「昨夜は激しかったんだから」

「ええ?」


 俺は再び仰天した。

 何も覚えていない。俺が何かしたのか?


 そう思って自分の下半身に目をやると、何も身に着けていなかった。俺も素っ裸だったのだ。


「まさか、俺、やっちゃったんですか?」


 慌てふためく俺の態度が面白いのか、椿さんはニコニコと笑うばかりだ。


「あの? 椿さん?」

「はい、正蔵さま」

「俺、昨夜は何をしたのでしょうか? 全然覚えてないんですけど」

「昨夜、私は酔った正蔵さまをこのお部屋にお連れしたんですが……」

「はい……」

「いきなり押し倒されて……」

「えええ?」

「盛大にゲロをぶちまけられました。それで私も正蔵さまもゲロまみれに」

「あっ」

「仕方がないので、正蔵さまの服を脱がせてお肌をきれいにお拭きして、そのままお布団に寝かせました。ああ、私一人でやりましたから、正蔵さまのお裸を鑑賞したのは私だけですよ」


 俺の裸を鑑賞しただと?

 とりあえず素直に謝ろうと思ったのだが、そこには突っ込みたくなる。裸の鑑賞だとか、アンドロイドのすることだろうか?


 何と言ってよいのかわからず、俺は絶句していた。すると椿さんはその豊満な胸元を隠しもせず俺に抱きついてきた。そして唇を合わせる。


「正蔵さま。今日から椿は正蔵さまの物です」

「え?」

「だから、私が正蔵さまの専属アンドロイドとして身の回りのお世話をします」

「ええ?」

「家事全般と夜のお勤めです」

「えええ?」


 なんてこった!

 この、人間そっくりで超美形のアンドロイドが俺の専属でお世話してくれるとか、そんな話があっていいのか? しかも、夜のお勤め付き?


「うふふ。実は、綾瀬重工では新型アンドロイドのモニターを募集しているのです。正蔵様にはアルバイトとして私のモニターをしていただきたいのです」

「アルバイトですか?」

「はい。日給一万円で」


 目が飛び出るかと思った。そんな高給でいいのか?


「異論はないようですね。ではこちらの電子書類にサインをお願いします」


 彼女の差し出すダブレット端末に軽く目を通し、承諾をタッチする。


「これでいい?」

「はい。ありがとうございます。これで椿は正蔵さまの所有物となりました。今日からずっと一緒ですね」


 非常に嬉しそうな椿さんである。アンドロイドが何故このように喜ぶのか意味不明なのだが、そんな事はどうでもよくなった。俺は椿さんの眩しい胸元から目が離せなくなっていたからだ。


「はーい。朝食ですよ」


 二段のワゴン車を押して部屋に入ってきたのはメイド服姿の夏美さんと翠さんだった。


「昨夜はよく眠れましたか?」

「あははは。全然覚えてなくて」

「次はオレと飲もうぜ」

「はい」


 何気ない俺の一言で椿さんの表情が曇った。これはもしかして嫉妬?


「夏美さん。正蔵さまはお貸ししませんよ」

「わかってるよ。冗談だって」


 二人の間に何か盛大な火花が散っているような気がする。

 今度は翠さんが声をかけてきた。


「さあ正蔵さま。昨夜のお召し物ですが、クリーニング済みでございます。お着換え、お手伝いしましょうか?」

「結構です。正蔵さまのお世話は椿の仕事です」


 何か嬉しい申し出だったが、椿さんに断られてしまった。


「翠、オレたちは邪魔者みたいだから」

「ですわね。退散しましょう」


 俺と椿さんの着替と朝食を置き、二人は部屋を出て行った。


 俺は朝食を食べながら昨日からの出来事を整理してみる。

 頼爺の工場で夏美さんと出会ったのは偶然だろう。夏美さんの運転するバイクのタンデムシートに乗ったのも偶然にちがいない。

 彼女は試作型のアンドロイドで人間そっくりに作られている。そして搭載されているAIも人間そっくりだ。同型の試作機は他に二体いて、それが椿さんと翠さんだ。この、アンドロイド三姉妹とも言うべき固体はそれぞれ個性があって、同型とは思えないような違いがあった。そして理由はわからないのだが、何故か三人とも俺に好意を寄せているようだ。


 そしてその中の一体である椿さんが、どうやら俺を独占したいらしい。これは、彼女達の制作者である綾瀬紀子博士の意向だと考えられる。そして、俺にモニターを依頼してきたのは、恐らく何か事故が起こっても身内だから訴訟ごとにはならないからだろう。


 そしてこれは推測だが、このアンドロイド三姉妹にはラブドールとしての機能がある。これは俺にとって、非常に嬉しい事ではないのか。それとも、悪戯好きな叔母の策略かもしれない。これは叔母に直接確認するしかないだろう。


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