第35話 ようやくマレニアだぁ……
僕達は、順調にピリジンへの道を進んで行った。その道のりは、悪路だったり勾配が急な山だったりと、これまでの旅路と比べて本当に険しい道のりだった。
日の出と共に出発し、日没前に野営の準備をし、夜はすぐに眠る。ソフィアさんの言うとおり、慣れない行程に加えて、あまり力がない身体という事もあって、代わりに見張りをするという事は、全然出来なかった。行程五日目の時に、夕食前の三時間程睡眠していたけど、それ以外は、ずっと起きていた。
そうして、六日目にピリジンへと着く。着いたのが日没直前だったので、ここで一泊してから、朝に食糧を買い込んで、すぐに出立するという話になった。夕食は、ラバーニャで買った食糧の残りを食べる。
そして、ここには銭湯がないようなので、身体を拭くだけになった。ここまでの行程では、近くの川で水浴びが出来たので、これだけだと、少しもの足りない気持ちになった。でも、少し前までは、こういう生活が当たり前だった。ソフィアさんと一緒に過ごすようになって、少し贅沢になっていた事を、この時に改めて実感した。
ピリジンの中でなら、見張りをする必要もないので、二人でしっかりと休む事が出来た。
翌日の朝早くに起きて、身支度をすると、食糧を買いに向かう。朝の早い冒険者などもいるので、こういう日持ちする食糧を売っている店も、早くから営業している。その代わり、夜は閉まるのが早い。だから、昨日の夜に食糧を買わなかったのだ。念のため、一週間分の食糧を買い、そのままピリジンから出立した。
ここから次の街バルムントまでは、途中に小さい街を挟んで四日掛かった。ピリジンへの行程よりも楽だったけど、ここでは二度ほど戦闘が起こった。その二度とも、ソフィアさんが瞬殺したから、僕は特に何もせずに済んだ。それだけソフィアさんにとって弱い相手だったという事だ。
ピリジン同様バルムントでも一泊した僕達は、食糧補給の後、徒歩行程最後の街マレニアへと向かった。マレニアへの行程は山岳地帯を挟んでいるので、一番険しい道のりだった。途中、巨大な牛に襲われたけど、ソフィアさんが首を刎ねて倒した。僕も見た事がない魔物だったから、少し驚いた。ソフィアさんも見たことがない魔物だったため、新種のものだろうとの事だ。Sランク依頼では、よくある事なので、ソフィアさんは全く動じていなかった。
そんなハプニングにも襲われながら、一週間掛けてマレニアへと辿り着いた。
「ようやくマレニアだぁ……」
「よく頑張ったね。ここから王都まで、馬車で半日だけど、一週間くらいは滞在しようか」
「賛成。ソフィアさんも、ちゃんと休んで欲しいし」
「ありがとう」
ソフィアさんはそう言いながら、頭を撫でてくる。嫌な気はしないので、されるがままだ。
「さてと、ここには銭湯があるから、久しぶりにゆっくり浸かろうか」
「その前に宿を取らないと」
「だね。善は急げだ!」
ソフィアさんはそう言うと、僕を抱えて走り始めた。ここまでずっと徹夜だったのに、異常なまでに元気だ。いや、もしかしたら、徹夜だから元気なのかもしれない。
そのままの調子で進んで行くと、いつも通りの高級宿に着いた。ソフィアさんは、マレニアには良く来るみたいで、宿の人とは顔馴染みのようだった。そのおかげか、いつもよりも早く手続きを終えて、僕の元に戻ってくる。
「それじゃあ、荷物を置いて、銭湯に行こう」
「うん」
部屋に荷物を置いて、銭湯セットを持ち、銭湯へと向かった。いつも通りの貸し切り風呂にくると、ソフィアさんが丁寧に身体を洗ってくれる。ここまでちゃんとタオルで拭いていたけど、久しぶりの銭湯だから念入りに洗うみたい。
「よし! 綺麗になった! 今すぐ抱きしめたいところだけど、先に湯船に浸かってて」
「うん。分かった」
ソフィアさんが抱きしめを耐えた理由は、自分も久しぶりの銭湯で普段よりも汚れていると思ったからだろう。多分、自分も念入りに洗うから時間が掛かるだろうし、最初は足だけ浸けておくことにした。
(ここまで、どのくらい掛かったんだろう。その場その場での日数は数えていたけど、もう覚えてないや。この身体にも慣れちゃったなぁ。結構長い間、この身体のまま過ごしているけど、あれを除いたら、特に体調不良とかない。もうすぐに死ぬ事はないって判断して良さそう。後は、元の身体に戻るために、性転換薬の作り方を見つけ出すだけだ。まぁ、これが一番の難関だけど、時間を掛ければ見付かるはず。いや、やっぱり楽観的過ぎるかな……)
そんな事を考えていると、身体を洗い終えたソフィアさんがこっちにやって来た。
「何を悩んでるの?」
ソフィアさんはそう言いながら、僕の脇に手を入れて持ち上げ、抱き抱えたまま湯船に入っていった。
「う~ん……やっぱりクリスちゃんの身体は癒やされるなぁ」
ソフィアさんはそう言いながら、僕の髪に顔を埋める。いつもの事だから、何も思わないけど、そのまま深呼吸するのはどうかと思う。
「それで、結局何を考えてたの?」
「もうすぐ王都だから、元の身体に戻る薬の作り方を探せるなぁって。魔法の使い方とか、錬金術の基礎的な使い方とかは、理解出来たしね」
「そうだね。もうすぐ王都か……」
そう言うソフィアさんの声は、少し暗い。王都に着くという事は、ソフィアさんとの護衛契約も終了という事だからだと思う。
「ソフィアさんは、王都に着いたら、どうするの? すぐに旅立っちゃう?」
「ううん。しばらくは王都に滞在するつもりだけど。特に目的とかないし。クリスちゃんと夜を過ごせなくなるし、風俗に行くかな。正直、満足出来るかが心配だけど」
ソフィアさんがそれを人生の楽しみにしている事は知っている。だけど、まさかそこの心配をしているとは思わなかった。
「女性なら誰でも良いのかと思ったけど、そうでもないの?」
「誰でも良いってわけじゃないよ。私にだって、好みはあるもん。今の好みは、白い綺麗な髪と青い綺麗な瞳をした年上だけど年下な小さい女の子だよ」
「全部の特徴が僕じゃん……」
「そう言ったつもりだけど?」
ソフィアさんはそう言って、僕の頬にキスをしてくる。
この旅で、ソフィアさんの好みが完全に僕の容姿になってしまったみたいだ。嬉しい事だけど、同じような人なんてそうそういないから、これからどうするのかちょっと心配だ。
「僕の時は良いけど、あまり激しくしないようにね。ソフィアさんは、遠慮がないから」
「遠慮がないのは、クリスちゃんにだけだよ? やり過ぎると出禁になるかもだからね」
「…………複雑」
「もう、素直に嬉しいって言えばいいのに」
ソフィアさんはそう言って、強く抱きしめてくる。ここで嬉しいなんて言ったら、今日の夜からどんな目に遭うか分かっているので、そこは言わないでおく。ただでさえ、二週間以上ぶりなのだから、少し抑えめでちょうどいいはずだ。
その後、二十分程話ながら湯船に浸かってから、帰り道で夕食を買い、宿へと戻った。その際、やけに街が騒々しいなと感じた。
「祭りでもあるのかな?」
少し気になって、食事をしながらソフィアさんに訊いた。
「え? そんなものあったっけな……」
ソフィアさんにも心当たりはないみたいだ。
「じゃあ、新しい祭りかな」
「見た感じ、本番はこれからみたいだから、私達も楽しめるかもね」
「それは、ちょっと楽しみかも」
ソフィアさんとの思い出作りになりそうだ。そう思うと楽しみになった。
夕食を食べ終えて、歯を磨き終えると、いきなりソフィアさんに身体を持ち上げられた。
「きゃっ!?」
驚いてソフィアさんを見るのと同時に、ソフィアさんの唇で口を塞がれた。お風呂、夕食と夜にやるべき事を終えたので、ソフィアさんの我慢も限界になったのだろう。
いつも通りベッドに押し倒される。そして、声が出なくなるまで弄ばれ続けた。
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