第34話 こんなにする必要あるのかな……?

 ギルドを出た瞬間、多くの暴徒が群がってきた。先頭にいるソフィアさんは、群がってくる暴徒をぶん殴って、集団に凹みを作り出す。その凹みが埋まる前に、ソフィアさんが突っ込んで、さらに凹みを深くしていく。そして、僕達が通れるように、活路を開き続けるため、冒険者達が後に続いた。僕達もそれに遅れないように付いていった。


「何だ、こいつら!?」

「どうでもいい! やっちまえ!!」


 暴徒達は、無差別に人を襲うらしく、冒険者達相手でも尻込みすることなく突っ込んできた。さすがに数が多く、冒険者達を抜けてくる暴徒もいた。でも、これはソフィアさんが予想済みだ。


「『魔力障壁』」


 暴徒の目の前に障壁を張り、足を止めさせる。そこで足を止めれば、冒険者が摘まみ出してくれる。そして、僕が魔力障壁で止めたのを見た魔法を使える冒険者達が、同じように行動をしてくれた。この連携を続けていけば、少なくとも僕達に被害が出る事はない。

 おかげで、僕の中にも少し余裕が生まれる。おかげで、色々と周囲の状況が見えた。暴徒達の目は、かなり血走っていた。そこから、暴徒達の怒りを感じる。この人達は、本当にこの街への怒りを持っているのだ。

 そして、その怒りのせいで、まともな思考が出来ず、周りも見えていないように思えた。

 冷静さを欠いた分、攻撃は単調。でも、怒りの分だけ力強くなっている。冒険者達が、少し手こずる理由は、そこにあるんだと思う。

 でも、ソフィアさんには、そんな事関係ない。今も目の前から襲ってくる暴徒の腹に蹴りを打ち込んで、その後ろにいた暴徒にぶつけていた。さらには、横から来る暴徒の顎を、鞘にしまった状態の剣で打ち抜いてもいる。そこから、流れるように、三人、四人と暴徒を無力化している。

 これだけ見ると、本当に僕達だけでの突破は無理だったのかって思っちゃうけど、ソフィアさんがこの動きを出来るのは、他の冒険者がソフィアさんの死角などを補完して、僕達を守ってくれているからだ。僕と二人だけだったら、対応しきれずに僕がやられていただろう。

 その調子で、ずんずんと街の外まで向かって行く。次々に暴徒を倒しているソフィアさんの気迫に圧されたのか、段々と僕達を襲ってくる暴徒の数が減っていき、最終的には素通り出来るようになっていた。


「最初から、ソフィアさんが暴れれば良かったんですかね……?」

「ど、どうでしょうか……その場合、クリスさんが集中狙いされると思いますが」

「あぁ……確かにそうですね」


 受付の人の答えに、納得してしまった。ソフィアさんの近くに弱そうな僕がいたら、そっちを狙うに決まっている。そうなったら、ソフィアさんが本気で怒りそう。そうならずに済んで良かったと考えておこう。

 そうして、僕達は、ラバーニャの外に出る事が出来た。


────────────────────────


 外に出た後も、僕達はまとまって移動して、ラバーニャから離れた場所まで来ていた。あまりラバーニャから近いところにいると、また暴徒達が襲ってくる可能性があったからだ。

 改めて、遠くからラバーニャを見ると、街のあちこちから煙が上がっているのが見えた。暴徒が街を燃やしているのだ。それは、直接見えていない現状でも痛々しく見えた。


「こんなにする必要あるのかな……?」


 街の光景を見て、つい口からそんな言葉が漏れた。そんな僕の元にソフィアさんが歩いてきて、後ろから抱きしめてくる。


「それは、私達には理解出来ない事だよ。他者の恨みに共感出来るのは、似たような恨みを抱いている人だけだからね」

「恨み……」


 僕にも恨みはある。でも、それは、あの暴徒達とは違う。だから、あの人達の恨み、怒りを完全に理解は出来ない。出来るのは、ただの同情。可哀想だったと思う事だけだろう。


「それじゃあ、嬢ちゃん達とは、ここでお別れだな。ピリジンまでの道のりは、少し険しい。気を付けて行くんだぞ」

「はい。お世話になりました。そちらも気を付けて」

「おう」


 冒険者はそう言うと、僕の頭を少し乱暴に撫でてから、他の冒険者達の元に合流していった。そちらを見ていると、ギルドの受付の人が、こちらに頭を下げていた。なので、こっちからも頭を下げておく。ラバーニャでは、結構お世話になったから。

 そうして、僕達は冒険者や職員達と別れた。僕達はピリジンへ、あっちはカエストルへと向かう。でも、僕は少しラバーニャに後ろ髪を引かれていた。


「私達に出来る事はないよ」

「でも……」

「暴力的な解決なら、私でも出来るけど、あの街に必要なのはそうじゃなくて、政治的な解決だから」

「そう……だね」


 僕は何でも出来るわけじゃない。それは、ソフィアさんも同じだ。その事をしっかりと認識しておかないといけない。ラバーニャにいても、自分に出来る事など、何もないのだ。


「ほら、行くよ」

「うん」


 ソフィアさんに手を取られて、僕はピリジンへと進み始めた。最後に、首だけ振り返ってラバーニャの街を見る。相変わらず煙が出ているラバーニャの街は、これからどんな道を辿るのだろうか。それを見守る事は出来ないけど、これからは街にある掲示板をよく見ておこうと思う。もしかしたら、事の顛末が掲示されるかもしれないから。

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