第31話 全く、どこに隠れていたんだか
翌日。僕は、ゴブリン討伐の依頼を受けて、一昨日来た森の中にいた。そして、今日十二体目のゴブリンを仕留めた。
「ふぅ……本当に、森の中にいるゴブリンが増えてる。拠り所を失ったから、森中に散らばったって本当だったんだ」
集落を壊滅させる前に、森に来た時も結構多いと思ったけど、今はそれの時以上だ。つまり、それだけの数があの集落及びその周辺にいたという事になる。
「全く、どこに隠れていたんだか」
少し歩いたら、すぐにゴブリン達を発見する。昨日も依頼で狩りがされているはずなのに、これだ。ゴブリンの繁殖能力の高さには、頭を悩まされると聞くけど、本当に悩まされそうだ。
「頑張っても全滅させられないんだろうなぁ……はぁ……取りあえず頑張ろう」
その後、三十体のゴブリンを倒して、街へと戻りソフィアさんと合流した。
「おかえり。今日は長かったね」
「ただいま。ゴブリンの数が多くてね。歩く度に遭遇するから」
「それはご苦労様。早速ギルドで換金しちゃおう」
「うん」
ソフィアさんと一緒にギルド行き、魔石を換金し、銭湯で汗と汚れを洗い流した後、夕食を食べて宿に戻る。そして、いつも通りソフィアさんにベッドへと押し倒された。
そんな流れの生活が一週間程続いた。その間で、段々とゴブリンの数が減っていった。
今日も討伐依頼を受けた僕は、森の中でその事を実感する。
「一週間前とは大違いだなぁ」
森の中を歩いていて、まだ三体のゴブリンにしか遭遇していない。これまでだったら、既に十数体のゴブリンと遭遇しているはずだ。
「街にとっては嬉しい事だけど、これで稼いでいた僕としては、複雑な気分かも。もう大銀貨二十枚は稼げたし」
大銀貨十枚で金貨一枚なので、金貨二枚分を稼いだ事になる。この前の集落戦での報酬の二倍だ。それを一週間で稼げたというのは、本当に大きい。本来であれば、一ヶ月掛けても大銀貨三枚くらいにしかならないだろうから。
「今日は早く帰る事になりそう。まぁ、ソフィアさんと過ごせる時間が増えるって考えれば良いか」
自分でそう言いながら、若干顔が火照るのを感じる。
「はぁ……もう告白しちゃおうかな……」
そう声に出した後、首を勢いよく横に振る。そして、自分の頬を強く叩いた。
「揺れすぎ。しっかりしなくちゃ。今はまだ気持ちは伝えない。そう決めたはずでしょ」
自分を叱咤しつつ、ゴブリンなどの魔物を探して倒していく。そして、ゴブリン達を見掛けなくなったところで、一旦街に戻る事にした。少し迷ったけど、無事に街の入口に戻ってくると、ソフィアさんが待っていた。
「おかえり。今日は早かったね」
「ただいま。ゴブリンの数が、かなり減ってたから」
「まぁ、あれから一週間だからね。元通りになったって事だから、喜ばしい事ではあるんだけど、クリスちゃんからしたら複雑な気持ちだよね」
「全部その通りだよ。ソフィアさんに、隠し事は出来なさそうだね」
「クリスちゃんと出会ってから、濃厚な日々を送ってるからね。普通に過ごしていたら、こうはならなかったかも」
確かに、ソフィアさんと出会ってから、かなり濃厚な日々を過ごしている。こう言えば、波乱の日々を過ごしているのかと思われるかもだけど、実際に濃厚なのは夜とかだけなので、何とも言えない。
「濃厚なのは夜だけって思ってる?」
「……うん」
完全に考えを読まれてしまったので、思わず視線を逸らす。そんな僕の耳元にソフィアさんが口を近づけ、囁いてくる。
「お昼も同じように過ごす?」
「身体が保たないから嫌だ」
僕の答えが不満だったようで、ソフィアさんは頬を膨らましていた。そして、何故か僕を抱き上げると、ギルドに向かって歩いていく。もう抱き上げられる事に完全になれてしまったため、何もいう事はない。
「そういえば、クリスちゃんが気になっていた情報が、ようやく集まったよ」
僕が気になっていた情報とは、多分アルス達の事だ。
「本当ですか?」
「うん。信憑性のある情報かの確認とかで、結構手間取ったけどね。お礼は、クリスちゃんの身体で良いからね」
「いつも通りって事でしょ」
「いつも通りで済むと良いね」
ソフィアさんの獲物を狩るかのような目を受けて、意識を失っても続くやつだと絶望する。何度か同じような事をされる時があったけど、かなりヤバかった。色々な意味で。
でも、ソフィアさんが態々手に入れてくれたのだから、そのくらいは許容しないといけないだろう。
「ど、どんとこい……」
「うん。いつもより可愛がってあげるね」
「あははは……」
そんな会話をしていると、ギルドに着いた。いつもの受付の人に魔石を渡して、報酬を受け取る。そんな時にこんなことを言われた。
「ゴブリンの数が減った事が確認されましたので、緊急のゴブリン討伐依頼は、今日にて終わりとなります。ご協力ありがとうございました」
「いえ、街の危機が去ったようで良かったです」
本当に依頼が終わってしまった。臨時収入があったと考えて、明日から切り替えていこうと思う。
「じゃあ、また明日来ます」
「はい。お待ちしています」
換金も終えたので、一度宿に戻り、銭湯へと向かう。そして、湯船に浸かりながらアルス達の情報を聞く。部屋だと我慢が出来ないかもしれないかららしい。なんとなくこれまでよりも激しくなりそうな気がした。また明日行くとか言ったけど、本当に行けるのだろうか。少し心配になる。
「さてと、まずは勇者達の動向ね。勇者達は無事に第三のオーブがある火山地帯まで行ったらしいよ」
「そうなんだ。まぁ、勇者特権で、ただで馬車に乗れるから、そこまで苦労はしないか」
「まぁ、その移動だけだったらね」
ソフィアさんが少し含みを持った言い方をする。
「それって、どういう事?」
「聞いた話だと、第三のオーブ入手は、結構難航したんだって」
「えっ、どうしてだろう……過酷な環境だったからかな?」
今のところ、一番時間が掛かったのは、第一のオーブだ。でも、これに関しては、連携の確認やら、自分達の役割を決めるやらで、色々と試行錯誤をしていたので、仕方ないと思う。
それを抜きにして考えると、第二のオーブを手に入れた時と比べて、時間が掛かっているとは思う。
「そこまで詳しいところは分からないけど、私としては、クリスちゃんが抜けたからだと思うよ」
「僕が?」
あまりピンとこず、首を傾げてしまう。正直なところ、勇者パーティーへの貢献度で言えば、かなり低いと思う。回復だって、ほとんど必要ではなかったし。
「そうだよ。クリスちゃん、自分がどういう知識を持っているか忘れてるでしょ?」
「知識……ああ、魔物分布?」
「そ。予め、どんな魔物が多いのかを知っていれば、色々な戦略が立てられる。クリスちゃんがいたときも、そんな風にしていたでしょ」
「まぁ、大体はね。でも、そのくらいなら、情報収集すれば手に入る情報だし、あまり心配要らないと思うんだけど」
「そんな頭の回る人達なら、クリスちゃんをこんな目に遭わせるわけないでしょ」
ソフィアさんはそう言いながら頬を引っ張ってきた。それとこれとは、あまり関係ないかに思えるけど、ソフィアさんとしては関わりが大いにあると考えていそうだ。
「少なくとも、ライミアは頭が良いけど」
「その子は、気が回る子なの?」
「……」
ライミアは、自己中心的な子なので、絶対に気が回らない。その事を思い出し、思わず黙ってしまう。
「ほら、そんな事ないんでしょ? それに、そう言った情報収集を怠っていたから、苦戦もしていたわけだし」
「そうなのかな。そういえば、だったとかしたって言う事は、一応第三のオーブは、入手出来たって事?」
ソフィアさんの話を聞いたら、入手出来たと考える方が普通だ。でも、念のため、確認しておきたかった。
「ああ、うん。そういう事」
「なら、良かった。誰も大怪我はしてないって?」
「どうだろう? そういう話は聞いてないから、多分してないんじゃない?」
「そう」
皆が無事みたいで一安心した。そんな僕の様子を見て、ソフィアさんが後ろから力強く抱きしめてくる。その力は、いつもよりも強い。
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