第30話 周り迷惑も考えて
ソフィアさんと一緒にラバーニャの街道を歩いていると、ソフィアさんが感慨深いという風に頷き始めた。
「クリスちゃんも、もうDランクか。ランクが上がったからって、浮かれちゃ駄目だよ?」
「分かってるよ」
「無茶もしちゃ駄目だよ?」
「……分かってるよ」
「本当に? 何度も約束しているけど、守られた例しがないけど?」
ソフィアさんにジト目で見られる。僕は、スッと目を逸らしてしまった。実際、毎回のように約束を破っているから、何も言えない。
そんな僕を見て、ソフィアさんは小さく笑うと、何故かいきなり抱き上げてきた。
「えっ? どうしたの?」
「約束破った罰。説教しても分からないみたいだから、こうして恥ずかしい思いをさせてるの」
「……もう散々されているから、恥ずかしさもなくなってきたんだけど」
「え~……じゃあ、ここでキスとかした方が良い?」
「良くない」
時々、ソフィアさんが何を考えているのか分からない。往来のど真ん中でキスなんてしていたら、通行の邪魔でしかないだろうに。
「周り迷惑も考えて」
「じゃあ、周りに迷惑が掛からなかったら、外でも沢山キスして良いの?」
「……沢山は嫌かな。目立つし」
「ふぅん」
ソフィアさんはにやにやとしながら、僕を見てくる。
「やっぱり、クリスちゃんもえっちになってきてるね」
「ソフィアさんと一緒にいるからですね」
僕がそう返すと、ソフィアさんは、頬を少し膨らませた。それだけで、「失礼な」と言っている事が分かる。最近、ソフィアさんのちょっとした仕草とかで、何を言いたいのか分かるようになってきた。それを感じる度に、ソフィアさんの事が好きだと自覚していく。
好きだと言うのは簡単だけど、僕には色々な事情がある。それを考えると、やっぱり伝える事は出来なかった。
「さてと、そこの下着屋に寄っていこうか」
「ついこの前も下着を買ったんだから、少しは我慢した方が良いと思うんだけど」
「え~……綺麗に着飾ったクリスちゃんをぐちゃぐちゃにしたいのに……」
「狂った情欲を向けないで欲しいんだけど」
「狂ってないし~クリスちゃんが可愛いのがいけないんだし~」
そっぽ向きながらそんな事を言うソフィアさんに、呆れ気味のため息が溢れる。
「まぁ、今日は依頼を受けなくて暇だし、付き合うよ」
「やった!」
ソフィアさんは笑顔で喜ぶと、僕の頬にキスをして、下着屋へと連れて行かれた。色々と選んでいたけど、結局買ったのは一つだけだった。まぁ、もともと大量にあるから、似たようなものばかりだったっていうのが理由だったけど。
「さてと、夕飯も買って、宿に戻ろうか」
「持ち帰り?」
「うん。ちょっとした話もあるからね」
「?」
心当たりがなく、何の話をするのか見当がつかない。ただ、それは外では話したくないような内容みたい。取りあえず、ソフィアさんと一緒に夕飯を買って、宿の部屋へと戻ってきた。そして、夕食を食べながら話を始める。
「それで、話って?」
「キングゴブリンが集まってきた理由について」
「分かってるの?」
「ううん。分かってはない。でも、一つだけ有力な仮説があるんだ」
「仮説?」
ソフィアさんは、少し間を置いてから話し始める。
「キングゴブリン達は、別の場所から追い立てられたんだと思うんだ。だから、三つの集落が合わさる事になった」
「なるほどね……でも、何に追い立てられたの?」
「地竜」
地竜の名前が出て来た途端、僕は食べる手を止めた。地竜に関する事という事は、僕も関わってしまってると考えられるからだ。
「それって、本当?」
「仮説だよ。キングゴブリン達が集落を放棄して、別の集落まで避難するような相手ってなったら、地竜は申し分ないからね。直近の出来事から推測した事だけど」
「キングゴブリン達は、そんなに長い距離を移動したの?」
「そう珍しい事でもないよ。クリスちゃんも、自分達に危害が加えられるような存在とは距離を取りたいでしょ?」
「それもそうか……」
僕がそう言うと、ソフィアさんがすぐ心配そうな顔になった。自分でも気付かぬ内に、声が沈んでいたからだ。今回は被害者が出ていないとはいえ、やっぱり責任は感じてしまう。正直、ここにソフィアさんが来ていなければ、多くの被害者が出ていたと思う。Bランクパーディーの人達が、キングゴブリン一体に倒されているのを考えれば、派遣された冒険者が全滅していてもおかしくはなかった。
「その後の状況までしっかりと考えなかったから……」
「そうだね。事前に予期出来れば、防げたかもしれない事態ではあるよ。でも、それは出来なかった。悔やむのは良いけど、いつまでも引き摺らないようにね」
「うん」
そうは言われても、やっぱり少しは引き摺ってしまう。僕達の浅慮が原因だから。魔王を倒すためといえば、何でも許されるわけじゃない。それが、今になって痛感する。
「はぁ……あっちもしっかりと考えていると良いけど」
「別に気にしなくても良いんじゃない? もうクリスちゃんには関係ない事だし」
「そういうわけにもいかないよ。僕は、元々パーティーの一員だったんだから」
「今は関係ない。そうでしょ?」
ソフィアさんはそう言いながら、布で僕の口元を拭う。どうやらソースが付いていたみたいだ。
「そんなに気になるなら、クリスちゃんが依頼に行っている間、こっちでも調べてみるよ」
「ありがとう」
ソフィアさんは仕方ないといった風な顔をする。ソフィアさんからすると、アルス達勇者パーティーは気に入らない存在なのかもしれない。
「さてと、ご飯も食べ終わったし、銭湯に行こうか」
「うん」
ご飯を食べ終えた僕達は、銭湯へと歩いていく。その最中、僕は路地裏の方に視線を向けると、複数の人が集まっているのが見えた。
(あれは……奴隷?)
首に光を反射する首輪が見えたので、その人達が奴隷だという事が分かった。ソフィアさんは、まっすぐ進んで行くので、すぐに奴隷達の姿は見えなくなった。
「奴隷って、自由に動き回れるものなの?」
「ん? まぁ、ある程度は出来るよ。買い物を命令する人もいるから。どうして?」
「さっき、路地裏に集まっているのが見えたから」
「……まぁ、そういう趣味の人もいるから」
「えっ!? そういう事なの?」
見た感じそんな風には見えなかったけど、僕が見ていたよりも多くの奴隷がいたのであれば、見えていなくてもおかしくはない。というか、あまり注目しなくて、良かったかも。他人の行為なんて見たくないし。
そんなこんなで、僕とソフィアさんは銭湯で身体を洗い、湯船で温まった。
その後、宿に戻ってきた僕は、短剣の状態を確かめていた。ゴブリンとの戦闘で、結構使ったから、手入れをしておいた方が良いかもしれないからだ。見た感じ、そこまで消耗している感じはしないので、ちょっと安心した。
「まだ使えそう?」
「うん。刃も欠けてないしね」
「うんうん、大事にしてくれて嬉しいよ」
ソフィアさんはそう言って頭を撫でてくる。撫でられる事自体は特に気にしないけど、刃物を持っている時は、危ないからやめて欲しい。
「私も一緒に剣の手入れをしようっと」
ソフィアさんも一緒に剣の手入れをしてから、いつも通りの事をして、就寝した。
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