第24話 近くの森でゴブリンの大きな集落が発見されました
翌日も僕とソフィアさんはギルドへと向かった。この街で、僕がするべき事は、今後の旅の資金を稼ぐこと。そのためにも、なるべく休まないように仕事を続けないといけない。
それに、昨日はちょっと散財してしまったから、その分も稼がないといけない。
「割の良い仕事はあるかな?」
「う~ん……Eランクの仕事だからね。昨日以上に稼ぐとなると、魔物を倒す量を増やさないと駄目かな。でも、その分大きな危険と隣り合わせになるし、そもそも、そんなに多く魔物と遭遇出来るか分からないしね」
「やっぱり、昨日本を買ったのは失敗だったかな」
「クリスちゃんのこれからの旅や目的に必要なものだし、失敗ではないと思うよ。今朝も読んでたし。ところで、参考になった?」
今朝に僕が読んでいた本は、『性別による魔力量の違い』だ。自分が使える魔力量を把握するという意味でも、男性と女性で、どのくらい魔力量が変わるのかを知りたかった。
「う~ん、まずまずかな」
一応、魔力量の違いについては理解出来た。前にソフィアさんが言っていた通り、女性には心臓とは別に第二の魔力貯蔵庫がある。それがあるから、魔力量は基本的に女性の方が多くなるみたい。これには、個人差があるから、必ずしも女性の方が多いとは限らない。
そして、これらの事から、男性よりも女性の方が魔法使いとして活動する人が多いらしい。
「治療院にいた時、男の人が少ないなぁっていうのはあったんだけど、もしかしたら、これが原因だったのかなって」
「ああ……確かに、冒険者も女性が魔法を使っている事が多いかも。やっぱり沢山魔法を使える人が魔法担当になるんだね」
「うん。多分、僕は魔力の多い男性だったんだと思う。魔力の使い過ぎで倒れるって事は、結構少なかったから。それを考えると、今の僕ならもっと魔力量が上がっているのかなって感じ」
「ふ~ん……それで、その第二の魔力貯蔵庫は使えそう?」
ソフィアさんにそう訊かれて、僕はスッと目を逸らした。魔力量の違いの理由は分かったけど、その運用法は書いていなかった。運用法も書いてあると思っていたから、ちょっと残念だった。
「先に『魔力の運用法』を読んでおくべきだったかも……」
「どのみち読むことにはあるんだから、そこまで後悔しなくても良いんじゃない? それに、本を読んだからって、すぐに強くなれるわけじゃないでしょ?」
「……うん。そうだね」
確かに、本を読んだからって、すぐに魔力の使い方が上手くなるわけではない。そこから練習をして、ようやく使えるようになるはず。だから、そんなに焦る必要はないとソフィアさんは考えているみたい。
でも、僕としては、もっと早く強くなりたい。強くなれば、それだけ稼ぐ速度も上がるし、安全性も上がるはず。そうすれば、ソフィアさんも、もっと安心して送り出してくれるはずだ。
「まぁ、短剣の扱いは、かなり上手くなっているから、強くはなってるよ」
ソフィアさんはそう言って、僕の頭を撫でる。子供扱いされている気分だけど、不思議と不快感はない。これもこの身体に順応してきているからなのか、相手がソフィアさんだからなのかは分からない。
そんなこんなで、ギルドの中に着いた。中は、いつもよりも騒がしかった。
「何があったんだろう?」
「う~ん……ちょっと嫌な予感……今日は帰ろうか」
「え!?」
ソフィアさんが帰る提案をした瞬間、受付の人が、ソフィアさんに気が付いて駆け寄ってきた。
「ああ……本当に面倒くさそう……」
受付の人が目の前に来ても、ソフィアさんは嫌そうな顔をしていた。
「Sランクのソフィアさんですね?」
「そうですけど」
「実は、近くの森でゴブリンの大きな集落が発見されました。その討伐依頼を受けて頂けませんか?」
「ゴブリンの集落程度だったら、私じゃなくても対処出来ると思いますが」
「規模が大きく、ラバーニャにいる冒険者全員に呼びかけています。お連れの方も受けて頂けると幸いです」
受付の人は、僕の方を見てそう言った。この討伐依頼は、僕も対象に入るらしい。規模が大きいと言っていたし、お金稼ぎにはちょうど良さそう。
引き受けると言おうとすると、ソフィアさんに軽く口を塞がれた。
「それで、なんで私に依頼を出すんですか? 大規模な集落とはいえ、ゴブリンの集落を破壊する依頼は、本来Dランク以下が行う依頼ですよね? それなのに、Sランクの私がいたら、後発の成長に繋がらないのでは?」
ソフィアさんの話を聞く限り、ゴブリンの集落を破壊する依頼は、低ランク者達の仕事らしい。
後発の成長という言葉から、低ランク者に実力を付けさせるためというのが理由っぽい。
「本来であれば我々もそうします。ですが、今回は報告の中に、ゴブリンの上位種ホブゴブリンが複数体いるという旨があったんです。そこから、ギルドは、キングゴブリンの存在を予感し、高ランクの冒険者にも呼びかけを行うことにしたんです。ですが、現在ラザーニャには、高ランクの冒険者が、成り立てのBランクまでしかおらず、戦力に不安を抱えているのです。これが、ソフィアさんに依頼を出す理由となっています」
これを聞いたソフィアさんは、眉を寄せていた。まだ依頼を受けるか迷っているのかもしれない。
僕は、口を塞がれながらもソフィアさんの事を見る。すると、ソフィアさんと目があった。
ソフィアさんは、じっと僕を見ると、深く息を吐いて、受付の人と向き合った。
「わかりました。依頼を受けます」
「ありがとうございます! お連れの方もお引き受け頂けますか?」
「受けます」
「クリスちゃん!」
ソフィアさんは、僕を抱えて受付の人から離れる。
「ホブゴブリンは、ゴブリンよりも強いの。そのくらいは分かるでしょ?」
「僕は、ゴブリンの掃討に徹するから、大丈夫だよ。それに、高ランクの人もソフィアさんもいるんだから、安全性も高い依頼だと思うけど」
「……まぁ、それはそうだけど、キングゴブリンがいるって時点で、危険度は跳ね上がるの。そもそもキングゴブリンの討伐は、Bランク冒険者のパーティーから上に向けられた依頼だよ。それも熟練のBランクからね。成り立てしかいない時点で、かなり危険なんだよ」
ソフィアさんの目は真剣そのものだった。ということは、ソフィアさんの言う事は本当なのだろう。それでも僕は、この依頼を受けようと思う。
「これを経験すれば、僕はまた強くなれると思うんだ。成長の糧にしたいんだ。ソフィアさんが、僕の安全を考えてくれるのは分かるけど、ソフィアさんに守られながらじゃ強くなれない。僕は、強くなることが、僕の目的に近づけると考えてる。だから、依頼を受けたい」
僕がそう言うと、ソフィアさんは、大きく息を吐いた。
「はぁ……相手にするのは、ゴブリンだけ。ホブゴブリンが来たら、すぐにその場から離れる事。いいね?」
「うん」
まだ完全に納得した感じではないけど、ソフィアさんは、僕が依頼に参加する事を許可してくれた。
「この子も参加します。装備の準備をしてきますので、一度宿に戻りますが、出発時間は?」
「第一陣は、もう出発します。その後は、各自準備ができ次第という形です」
「では、私とこの子は、準備をして直接向かいます。場所を教えてください」
「分かりました」
受付の人は、一度受付の中に戻って地図を持って戻ってきた。そして、ソフィアさんに、詳しい場所の説明をする。僕は聞いても恐らくちゃんと理解出来ないと思うので、自分の荷物の確認をする。忘れ物があれば、ソフィアさんと一緒に戻る時に取りにいけるからだ。
取りあえず、僕の準備はちゃんと調っていた。
「それじゃあ、一度戻るよ」
「うん」
僕とソフィアさんは、宿の部屋へと戻ってきた。そこで、ソフィアさんは戦闘用の装備に着替えていく。
「さっきも言ったけど、くれぐれもホブゴブリンには気を付ける事。良いね?」
「分かってる。ゴブリンだけを相手にするよ」
「多分、クリスちゃんの傍にはいられないから、なるべく他の冒険者達の近くにいてね」
「それは……いざとなれば、他の冒険者を盾にしろって事?」
僕は恐る恐る訊いた。それは、自分が生き残るために、他の者を犠牲にしろと言っているように聞こえたからだ。
「まぁ……それも有りかもね。でも、そうじゃないよ。他の冒険者が近くにいれば、クリスちゃんが危ないときに助けてくれるかもしれないからね。そこでも一つだけ気を付けて欲しいのは、フードね。大勢の人がいる中で戦う事になるんだから、いつもよりも深く被っておきなよ?」
そう言って、ソフィアさんは着替え途中の姿でフードを被せてくる。それも眼が辛うじて見えるくらいまで。
「さすがに、僕も見えにくいんだけど」
「ああ、それもそうか……じゃあ、いつも通りで良いけど、絶対に髪を出しちゃ駄目だよ。下手すると、戦闘中とか関係なくクリスちゃんを襲いかねないから」
「うん。分かってる」
僕が笑いながら頷くと、ソフィアさんも笑って準備に戻る。そうして、五分程すると、ソフィアさんの準備も調った。
「クリスちゃんは、忘れ物ない?」
「うん。ソフィアさんが準備している間に、二回確認しておいたから大丈夫」
「それじゃあ、行こうか」
僕とソフィアさんも、ゴブリンの集落へと出発した。ソフィアさんもいるし、特に問題も起こらずに済むだろう。この時の僕はそう思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます