第11話 この感じなら、思っていたよりも早く終わるかもしれない!

 勇者パーティーとして、旅をしていたとはいえ、この身体の状態で尚且つ一人で外に出るのは不安しかない。だけど、ここは一人で乗り切らないといけない場面だ。

 ここを乗り切る事が出来れば、これから先の旅にも自信を持てるようになるかもしれない。教えてもらった事を、しっかりと活かせるように頑張ろう。

 そう思いながら、僕は、依頼の受注と同時に貰った薬草の絵を参考に、薬草探しを始めた。

 その最中に、ここにいる魔物のことを思い出していた。王都で読んだ魔物の分布が正しいのであれば、確か、ここにいる魔物は、スライムとゴブリンだけのはず。その事から言えるのは、生息しているのは、比較的弱い魔物だという事だ。これなら、今の僕でもギリギリ対応出来ると思う。判断を間違わなければだけど。

 そんな事を考えつつ、近くにある森の中に入る。薬草が生えている場所は、大体森の中となっているらしい。草原にもなくはないが、生えている数が桁違いとの事だ。

 森の中に入って、少しすると、早速薬草を見つける事が出来た。しっかりと、貰った絵と目の前にある薬草を見比べる。


「うん。これが薬草で間違いない。治療院にいた頃は、加工済みのものばかり見ていたからなぁ。実際の薬草は、こんな感じなんだ。旅の中で、何度か見た気がする」


 見つけた薬草は、勇者パーティーとして旅をしていた時にも、何度か見た事があるものだった。薬草が、こんな身近にあったとは、もう少し色々な事を学んだ方が良いかもしれない。お金を稼いで、余裕が出て来たら、植物図鑑みたいなものを買うのも有りかもしれない。


「この感じなら、思っていたよりも早く終わるかもしれない!」


 そう思って張り切った僕だったが、そう簡単にいくはずもなく、三時間程掛けて規定数を集める事が出来た。森の方が生えているという話だったが、それでも見つけるのは、結構難しいものらしい。

 後は、森の中だから、意外と紛らわしい植物が多いのと見晴らしが悪すぎるのも、時間が掛かる要因だ。


「ふぅ……ようやく集め終わった……ちゃんと、数は足りているよね」


 集め終わった事に安堵しつつ、薬草の数を確認していると、ある重大な事に気が付いた。そう、森の中を歩き回った結果、街の方向が分からなくなってしまったという事に。


「……そもそも来た道って、どっちだっけ?」


 その場でキョロキョロと辺りを見回してしまったために、自分がどこから来たのか全く分からなくなっていた。方向音痴になる理由は、こういうことなんだろうなと改めて思い知った。


「これは……まずい……でも、ここでジッとしていても、迎えが来るわけじゃないし、頑張って街まで戻らないと……」


 取りあえず、勘で歩いて行くことにした。これまでの経験から、自分の勘が正しいとは思えないけど、ここは仕方がない。頑張って、ファウルムまで戻ろう。ソフィアさんも待っているだろうから。

 適当に真っ直ぐ歩いて行っていると、運が良い事に、森を抜けることが出来た。森を抜けた先には、一本の道があり、それは二方向に伸びている。


「どっちに……あっ」


 どっちに行けば良いんだろうと思い、道の先を見てみると、少し離れたところに街の姿が見えた。森の中を適当に歩いたとはいえ、ファウルムからは、そこまで移動していないと思われるので、ここから見える街がファウルムのはず。

 僕は、ホッと安堵しつつ街に向かって歩いていく。街に近づいていくと、見た事がある街の入口が見えた。


「良かった。ちゃんとファウルムに帰って来られた。ん?」


 ファウルムに帰ってこられた事に安堵していると、入口にソフィアさんの姿がある事に気が付いた。ソフィアさんは、何故かキョロキョロと周囲を見回して、落ち着かない様子だった。どうしたのだろうと思いながら、近づいていくと、僕の事を発見したソフィアさんが、走ってきた。


「クリスちゃん!」


 何故か、ソフィアさんに抱きしめられる。いきなりの事なので、少し戸惑ってしまう。一体、何があったのだろうか。


「えっと……どうしたんですか?」

「クリスちゃん、全然帰ってこないんだもん。何かあったんじゃないかと思って、心配だったんだから。というか、森じゃなくて、道から帰ってきたよね? もしかしてだけど、森の中で迷子になった?」

「あははは……」


 笑って誤魔化したら、すぐに察された。


「やっぱり、私がお金を出した方が……」


 僕を抱きしめながら、ソフィアさんが真剣な顔をしてそう言う。本気でお金を出した方が良いと考えていそうだ。実際のところ、ソフィアさんの方が正しいのだと思うけど、僕は、そう思わない。


「そこまで過保護にならないで良いですよ。これでも、結構良い経験になっていますし」

「でも、自立されると寂しいものなんだよ……」


 ソフィアさんは、本当に過保護な親が言いそうな事を言い出した。


「年齢を考えてください。そもそも自立している大人です」

「見た目」

「…………」


 きちんと自立はしていると言いたかったのに、見た目からして、まだ自立は早いみたいな風に言われた。確かに、少し幼めの顔立ちにはなっているけど、実年齢の方を優先して考えて欲しい。


「はぁ……でも、本当に無事で良かったよ」

「はい。怪我もしていませんよ。それに、ちゃんと薬草も集めたんですから」


 僕は、ベルトに取り付けられた大きめのポーチの中を見せる。


「本当だ。ちゃんと集められたんだね」


 そう言って、ソフィアさんは僕の頭を撫でてくる。大人しく撫でられていて、ある事に気が付いた。


「これ、結局子供扱いになっているのでは……」

「そんな事ないよ」

「本当ですか?」

「うん」


 子供扱いされていないかと思い、そう訊いたのだが、ソフィアさんは真顔でしていないと言う。それなら、そうなんだろうと思おうとしたけど、そもそも最初から子供扱いではあったという事を思いだす。


「まぁ、良いです。後は、これをギルドに持っていけば良いんですよね?」

「うん。じゃあ、ギルドまで行こうか」


 薬草を集め終えた僕は、ギルドに戻っていく。その道のりは、ソフィアさんが先導してくれた。ギルドに戻った僕は、受付のお姉さんの元に移動する。


「薬草を集め終えました」

「はい。ご苦労様です。ギルドカードも一緒に頂けますか?」

「はい」


 僕は、集めた薬草とギルドカードを渡す。受付のお姉さんが、薬草の数を数えていく。


「はい。規定数丁度ですね。では、こちらが報酬となります」


 確認を終えた受付のお姉さんが、ギルドカードと銅貨四枚をトレイに置いて渡してくれる。


「これで、どこかまで行けますか?」


 乗合馬車の料金を詳しく知らない僕は、ソフィアさんに訊いてみた。


「これだとカエストルまでは行けないね。そもそも乗合馬車にも乗れないかな。最近の料金の値上げは凄まじいからね。三年くらい前なら、これでも行ける街もあった気がするけど、ここから行ける街ではなかったかな」


 そう言われた僕は、肩をがっくりと落とす。やっぱり、乗合馬車の料金を集めるには、時間が必要だ。そんな様子を見た受付のお姉さんは、苦笑いをしていた。

 しょげている僕の頭をソフィアさんが撫でる。


「さっきも言ったけど、地道に頑張っていこう。クリスちゃんの成長のための旅でもあるんだから」

「成長……まぁ、そうですね」


 成長のための旅と言われ、一瞬違和感があったけど、色々な意味で成長してきているし、合ってはいるかもしれない。それに、焦って危険な旅になるくらいなら、しっかりと安全に進んでいった方が良いに決まっている。


「よし! これから頑張ろう!」

「お~」


 何故かソフィアさんが音頭を取っていたけど、僕達は二人で気合いを入れた。


「それじゃあ、宿屋に戻ろうか」

「そうですね。そろそろ夕方にもなりますし」


 時間帯的に、これから依頼を受けると、戻ってくる前に夜になる事が予想されるので、ソフィアさんに従って宿屋に戻る。そして、今日も夜ご飯を食べてから、銭湯へと向かった。

 一仕事を終えた後のお風呂は、いつもと違い、身体に染み渡るような感覚に襲われた。


「ふ~……」


 先に身体を洗って貰った僕は、湯船の中で蕩けていた。そこにソフィアさんが入ってくる。


「何だか、いつもよりもゆるゆるになっているね?」

「薬草採取をしたせいか、何だか気持ちいいんです」

「ああ、いつもと違う疲れだから、感覚が変わっているって感じかな。一人の採取はどうだった?」


 ソフィアさんは、後ろから僕を抱きしめつつそう訊いた。


「元々、勇者パーティーにいた頃に、森を歩いた事があるので、凄く緊張するみたいな事はありませんでした。ただ、この身体になってから、ソフィアさんが、守ってくれていたので、ソフィアさんがいない事に、少し不安を感じたって感じです。それも最初だけですけど」


 僕は、冒険者になって初めての依頼の感想をそう伝える。


「これからも一人で出来そう?」

「それは大丈夫です。ただ、方向音痴だけはどうにかしないといけないかなって思いました」

「それは、そうかもね。ただ、何が原因か分からないと治しようがないと思うよ?」


 方向音痴になる理由は、何となく森の中で分かっている。


「多分、キョロキョロと身体の向きを変えてしまうので、来た道とかが分からなくなるっているのが原因だと思うんです。だから、それを意識して減らせば治るのではと思っています」

「うん。無理だと思うよ」

「え!?」


 原因は分かっていると言ったら、すぐにソフィアさんに否定されてしまう。驚いた僕は、後ろを振り返る。抱きしめられているので、完全に振り返る事は出来なかったが。


「だって、クリスちゃん、街中でも迷子になるでしょ? 態々道を教えてもらったのに、道を間違えて風俗街に迷い込んじゃうんだよ。絶対、キョロキョロ以外にも致命的な何かがあるはずだよ」


 ソフィアさんにそう力説されてしまった。確かに、ユリージアでは、道を教えてもらったにも関わらず、風俗街へと迷い込んでしまった。あれの原因は、人の流れに乗ってしまった事にあるはず……多分……


「まぁ、クリスちゃんが、今、言った事は実践してみた方が良いかもね。ちょっとは、マシになるかもだし」

「そうですよね。ちょっとでも良くなるのならやった方が良いですよね」

「うん。結果が出ると良いんだけどね……」


 ソフィアさんはそう言って、僕の髪に顔を埋めていた。

 そんなに、僕の方向音痴は重症だろうか……まぁ、ギルド内で、道を間違えるくらいだから重症なのかもしれない。

 充分にお風呂を堪能した僕達は、銭湯から出ると、すぐに宿屋に戻った。

 そして、いつも通りに下着姿になると、ソフィアさんに抱えられてしまい、ベッドでは無くソファに連れて行かれる。


「? ベッドに行かないんですか?」

「うん。ちょっと、趣向を凝らそうと思ってね。いつもと同じだと飽きちゃうでしょ?」


 正直なところ、飽きるという考えは全く浮かんでいなかった。どちらかと言うと、ソフィアさんが飽きそうになるからとかなのかな。

 そんな風に思っていると、ソフィアさんの膝の上に向き合う形で座らされた。

 いつもと違うのなら、少しは耐えられるかと思っていたが、そんな事は全く無かった。そして、ソフィアさんが言っていた事も、何となく理解した。いつもと違うってだけで、ここまで変わるとは思っていなかったのだ。

 行為が終わった後は、ソフィアさんの手で、ベッドに運ばれたらしい。僕は、ソフィアさんの上で眠ってしまったみたいで、全く覚えていなかった。

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