第7話 沢山の人に裸を見られるのは恥ずかしいもんね
ファウルムが大きい街だからなのか、冒険者ギルドは結構大きな建物だった。少し緊張しつつ、ソフィアさんに連れられて、中へと入っていく。
ギルドの中は、思っていた以上の人で埋め尽くされていた。ちょっとびっくりしてしまった。
「受付に行くよ。絶対に離れないでね?」
「は、はい!」
ソフィアさんと手を繋いで移動しているからなのか、新顔が入ってきたからなのか、周囲の人からじろじろと見られる。
でも、見られるだけで、変なトラブルも無く受付まで移動出来た。見た目と態度が怖いだけで、意外と良い人達(?)なのかもしれない。
「練習場を使いたいんですけど、手続きをお願い出来ますか?」
受付に来たソフィアさんが、受付の人に何かのカードを見せると、たったの一分で手続きが終わった。驚く程早く終わった手続きに、目を丸くしてしまう。
「ふっふっふっ、Sランク特権」
「ああ、なるほど」
ソフィアさんが自慢げにそう言った。その言葉のおかげで、何でそんな早く手続きが終わったのか分かった。Sランクともなると、そういう面でも特典が付くみたいだ。ソフィアさんのSランクらしいところを初めて見た。
「じゃあ、練習場に向かうよ」
「分かりました」
僕達は、練習場へと移動した。てっきり沢山の冒険者で一杯なのではと思っていたのだけど、そこには、全然人はいなかった。というか、誰も利用していない。
「誰もいないですね? 運が良いんでしょうか?」
「いや、好き好んで使う人は少ないだけだね。皆、練習よりも実戦で学ぶって感じだから」
「そういうものなんですか?」
「完全な自由業だからね。こういう場所で練習するのもしないのも、完全に自由だよ。自己責任とも言うけど」
冒険者をやっている人は、思っていたよりも、自由人が多いみたい。縛られるものが、ほぼない分、気楽に続けられるとかなのかもしれない。ただ、ソフィアさんの言うとおり、基本的に自己責任になるから、そういう面も考えておかないといけないかも。
そんな事を考えながら、二人で向き合って立つと、ソフィアさんが剣を鞘に納めたまま構えた。
「それじゃあ、始めようか。習うより慣れよだよ。好きに打ち込んできて。でも、隙を見せたら、私も打ち込むから、そのつもりでね」
「は、はい」
僕は、緊張しつつも鞘ごと短剣を外して構える。相手は、Sランク冒険者だ。元勇者パーティー所属とはいえ、勝てるわけがない。多分だけど、元の身体に戻っても、それは覆らない。だから、胸を借りるつもりで行こう。
ソフィアさんは、剣を構えたまま、僕の構えを見ていた。
「う~ん……もう少し半身の方が良いかな。相手から見える面積は小さくしておくの。そうしておくことで、攻撃が当たる箇所が限られてくるから」
「な、なるほど」
ソフィアさんに構えなどを修正して貰う。
「よし! じゃあ、掛かってきて!」
「はい!」
僕は言われたとおりに、ソフィアさんに斬り掛かる。ソフィアさんは、その一撃を難なく受け流す。そして、隙だらけの背中を晒してしまった僕に軽く打ち込んだ。
「うっ……」
「受け流されたら、すぐにその場を抜けるか、反転すること。背中を晒している時間が長いと、それは隙でしかないからね。綺麗な背中が傷だらけになっちゃうよ」
「わ、わかりました……」
僕はもう一度向き直って、ソフィアさんに斬り掛かる。今度は大振りの一撃では無く、軽い牽制のような一撃だ。ソフィアさんは、それも簡単に弾き返す。でも、今回はそこまで体勢を崩される事は無かった。僕の一撃が軽かったからだ。
そこから、何度も同じ軽い攻撃を続けていく。そうやって、ソフィアさんが隙を生むまで攻撃を続ける。
そして、ようやくこじ開けた隙を突いて、ソフィアさんに鋭い突きを放った。しかし、その隙は、ソフィアさんが敢えて用意した道だった。僕の一撃は、ギリギリで避けられてしまい、また背中に一撃受けてしまった。
「っ痛……」
「中々良い感じだね。その調子で、このまま続けていこう」
「はい!」
それから数時間掛けて、短剣の戦い方を学んでいった。今日の指導が終わると、僕は息も絶え絶えとなっていた。
「はぁ……はぁ……」
「うんうん。良い感じ。クリスちゃんが真面目に頑張ったから、それなりに戦えるようになっているね。でも、まだ試験突破は難しいかな」
「そう……なん……ですか?」
結構良い線行ったのではないかと思っていたけど、ソフィアさんからしたら、まだまだみたいだ。何かが足りていなかったのかな。
「うん。目で反応してからの速度が、少し遅い。目が良いからなのか分からないけど、私の攻撃自体は見えているんだと思うけど、それに身体が追いついていないんだよ。後は、フェイントに引っかかりすぎ。さっき言ったように、私の攻撃が見えているからか、全部に反応しようとしているのかもね。そこら辺の見極めもしっかりね」
「わかりました」
ソフィアさんの指導は、かなりしっかりとしていた。今のところ、強くなった実感はないけど、強くなれるような気がする。
「じゃあ、武器を置きに宿屋に戻るよ」
「……武器を置く?」
そのまま宿屋に戻って、汗を掻いた身体を拭くのだと思っていた僕は、ソフィアさんがやろうとしている事が分からなかった。武器を置くと言うからには、また宿屋から出て行く事になるのだろうけど。
「ふふふ、何をするかは後のお楽しみだよ」
「はぁ……?」
僕達は、ソフィアさんに言われたとおり、宿屋に武器を置いて、再び宿屋の外に出てきた。その時、ソフィアさんは荷物の中から別の袋を持ち出していた。そして、何故か、その中に僕のドロワーズも一枚入れていた。その行動で、何となく連れて行かれる場所が分かった気がする。
それは、僕にとって最大の試練なのかもしれない。
「ここだよ! やっぱ、汗をかいたら、ここだよね! ユリージアじゃ、まだなかったから、早く入りたいと思っていたんだ!」
ソフィアさんに連れてこられた場所は、僕が思っていたとおり、銭湯だった。一般市民が入れるお風呂が置いてある施設だ。まだ、普及し始めたばかりで、これがある街とない街がある。ユリージアには、まだ存在しない施設だった。
僕も、入った事があるのは二、三度あるかないかくらいだ。
そして、ここで一つ問題がある。それは、僕が入る場所が男湯では無く女湯だということだ。昨日の夜のこともあっても、まだソフィアさんの身体を直視する事は慣れていないのに、これから不特定多数の女性がいる場所へと行かないといけないのだ。
「あ、あの! 僕は、大丈夫です! タオルで拭くくらいで平気です!」
「はいはい。全然ダメだから、早く行くよ」
帰ろうとする僕の手を取って、ソフィアさんは銭湯の中へと入っていく。今の身体で、ソフィアさんの膂力に勝てるわけもなく、抵抗しても無駄だと悟った僕は、いっそのこと楽しむしかないのではと錯乱しつつ、覚悟を決める。
だけど、僕の心配は杞憂に終わった。ソフィアさんが割高の貸し切り風呂を借りてくれたからだ。
「沢山の人に裸を見られるのは恥ずかしいもんね」
「あ、ありがとうございます」
ソフィアさんは、僕が自分の裸を見られる事を恥ずかしがっていると勘違いしたみたい。実際は、見られる事じゃなくて、見る事の方に抵抗を覚えていたのだけど、そこは正さなくても良いかな。変な事を考えていると思われそうだし。
「それじゃあ、早く脱いで、中に入ろう。疲れたから、きっと気持ちいいよ」
ソフィアさんは、そう言ってスルスルと服を脱いでいった。そんな中で、僕だけ服を脱がないわけにもいかないので、同じく服を脱いでいく。完全にすっぽんぽんになった僕に、ソフィアさんが手を差し伸べる。さすがに、こんな狭いところで、迷子になるわけはないのだけど、何となくその手を取った。
そして、ソフィアさんと一緒に貸し切り風呂の中へと入っていった。中は、洗い場が一つと一人ではいるには、大きすぎる湯船があった。
「私がクリスちゃんを洗っても良い?」
「え? ああ……良い……ですよ」
貸し切り風呂を借りてくれたので、ここで断るのは違うと思い了承した。身体を洗うくらいなら、何の問題もないはずだしね。
「やった! クリスちゃんに触り放題だ!」
ソフィアさんはそう言って、喜んでいた。何の問題もないと思ったのは、完全に間違いだったようだ。
というか、昨日の夜も、何なら今日の夜も触り放題な気がするけど、何も言わないでおこう。やぶへびになりそうだし。
ソフィアさんは、鼻歌を歌いながら、僕のことを洗っていく。頭から洗われて、次に身体を洗われていく。ソフィアさんの手で洗って貰っているからか、タオルで洗うよりもこそばゆい感じがした。
そして、そんなどさくさに紛れて、ソフィアさんが僕の胸を揉んできた。
「ひゃっ!?」
いきなり揉まれたので、変な声が出てしまった。いきなりの事だったので、短い悲鳴が出てしまった。ただ、少し女性っぽくなってしまったので、恥ずかしく思い、顔が赤くなってしまう。
「あっ、ごめんね。可愛くて、つい……これから気を付けるね」
「い、いえ、全然大丈夫です」
顔が赤くなった理由が、胸を揉まれた事よりも、自分の声にびっくりした事なので、ソフィアさんは悪くない。いや、元々の原因は、ソフィアさんにあるから、ソフィアさんが悪いのかな。
ただ、洗って良いって言ったのは僕だし、これを怒るのは、少しだけ違うと思った。
その後、丁寧に身体を洗って貰った僕は、先に湯船に浸かっていた。湯船に張られた湯は、入浴剤が入れられているらしく、白く濁っていて、湯の中にあるはずの僕の身体を隠している。そこから、何かの花の良い匂いが、ほんのりと香ってくる。
その匂いも相まって、身体から力が抜けて、ゆったりと出来ていた。
「ふぅ……」
男の時は気にしていなかったけど、お風呂は良いものだね。
そんな風に思いながら、湯船に浸かって蕩けていると、自分の身体を洗い終わったソフィアさんが湯船に入ってきた。ソフィアさんは、広い湯船なのに、態々僕の後ろに回り、後ろから包むように抱きしめてくる。
「あの……」
「クリスちゃんは、細っこいねぇ。もう少し、筋肉とかが付くと、普通の長さの剣も振るえると思うんだけど」
ソフィアさんは、僕の腕などを軽く握って確かめながらそう言った。今のソフィアさんに下心がない事が、これで分かった。だから、特に何も言わずに、されるがままでいた。
僕は、腕を握っているソフィアさんの腕を見てみる。ソフィアさんの基本的な武器は、剣だったので、僕よりも筋肉があるはず。でも、ソフィアさんの腕は、ムキムキという感じではない。
「ソフィアさんは、剣で戦っているのに、筋肉ムキムキというわけじゃないですよね? 柔らかそうです」
「そう? そこまでぷにぷにってわけじゃないと思うけど……」
ソフィアさんは、自分の二の腕などを触って、状態を確かめていた。その顔は何故か真剣そのもので、何かを気にしているようにも見えた。もしかして、太っていると言われたと思ったのかもしれない。人は、そういうところを気にするものだし。まぁ、気にしない人もいるにはいると思うけど。
「別に、太っているって言っているわけじゃないですよ。自由に剣を振っているので、筋肉が目立つのかと思ったのですが、見た目では分からないですねって言っただけです」
「……紛らわしいわ!!」
ソフィアさんはそう言って、僕のことを抱きしめてくる。僕は、そこから逃れようと軽く藻掻いた。だけど、ソフィアさんは決して逃がそうとはしない。
そんな風なことをしていると、いつの間にか、二人して声を出して笑っていた。
その後、ゆったりとお風呂を楽しんだ僕達は、宿屋へと戻った。
「ふぅ~……案外、お風呂も良いものですね。ずっと、水で濡らしたタオルで身体を拭くか、井戸水を被るくらいでしたので、ゆったりお湯に浸かるのなんて、どれくらいぶりだった事か。連れて来てくれて、ありがとうございました」
「そうだったの? 昨日も良い匂いがしていたし、てっきり結構入っているものだと思っていたよ。喜んでくれて良かった」
ソフィアさんにそう言われて、自分の身体をくんくんと嗅いでみる。すると、あそこの銭湯にあった石鹸とかの匂いがする。これだと、自分の匂いがよく分からない。元の身体の時は、そんな事なかったはずだから、この身体に変わった時に体臭も変わったって感じかな。
身体が変わってから、何か特別な事をしたわけじゃないので、体臭が変化したって事で、確定だとは思うのだけど、体臭ってそこまで香るものなのかな。
「大丈夫。今も良い匂いだよ」
ソフィアさんはそう言って、勢いよく抱きついてきた。体重差があるので、受け止めきれずに後ろに倒れてしまう。だけど、僕の後ろはベッドだったので、怪我をせずに倒れる事が出来た。痛みも全く無い。
今の状態は、ソフィアさんに馬乗りで、覆い被された状態だ。ソフィアさんの顔が、僕の目の前にある。
「ソフィアさん、危ないですよ」
「ごめんね。後ろにベッドがあったし、お風呂から、ずっと我慢していたから、ちょっと反動が……」
僕の顔を覗きこんでいるソフィアさんの眼が、凄く輝いている。どう見ても、あっちのスイッチが入っちゃっている。本当にこれ以上我慢出来ないというソフィアさんの感情が見て分かる。
僕は覚悟をして、受け入れの体勢になった。それを確認したソフィアさんは、少しずつ顔を近づけてくる。
「……お、お手柔らかに……」
「頑張るね」
今日も昨日の夜と同じく、ソフィアさんに食べられた。昨日よりも激しくならなかったのが、唯一の救いだ。
そして、嬉しい事なのか分からないけど、僕も少しだけ慣れたみたいで、昨日よりも長持ちした。それでも、十五分程でダウンしたけど……
ヘロヘロになってしまった僕の頭を、ソフィアさんが撫でる。
「もう限界みたいだね。じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみなさい……」
僕は、またソフィアさんに抱きしめられて、眠りについた。
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